前川優希・井澤勇貴、優しさと愛にあふれた「しゃばけ」の世界へ誘う シャイニングモンスター第2弾

7月30日(土)、畠中恵「しゃばけ」シリーズ Presents シャイニングモンスター 2nd STEP~てんげんつう~が、東京・浅草花劇場で開幕する。

本作は、2021年3月に公演がおこなわれたシャイニングモンスター ~ばくのふだ(Shining編/Shadow編)~に続く第2弾。立派な商人になるために努力はすれど体が弱く、すぐに寝込んでしまう若だんな・一太郎と、彼を取り巻くあやかしたちなどの活躍を描く人情劇だ。今作は「しゃばけ」シリーズより「てんげんつう」を原作に、ストーリーが繰り広げられる。

2.5ジゲン!!では、第1弾から続投の一太郎役・前川優希と仁吉役・井澤勇貴に対談取材を実施。前作の思い出から、公演を経てあらためて感じるそれぞれのキャラクターや本作の魅力、演出・錦織一清の演出方法などについて話を聞いた。

――まずは前作を振り返ります。公演全体を通していかがでしたか?

前川優希(一太郎役):つい笑顔になってしまう瞬間がたくさん訪れる作品でした。観てくださっているお客様も笑顔、そして演じている僕たちも笑顔いっぱいの、幸せな気持ちになる作品だったと感じています。

――第1弾を振り返って特に面白かったことを教えてください。

井澤勇貴(仁吉役):僕の演じる仁吉の相方である佐助役・小沼将太さんに関してですね。前川くんは結構突っ込み気質なので、舞台で佐助が何かすると必ず突っ込みを入れていたんです。そんな2人のやりとりが面白くて、見ていると「何かやらなくちゃ! 」という気になってきてしまい、僕もだんだんとふざけるようになっていってしまいました(笑)。

前川:小沼さんは、図らずも人を笑顔にしてしまう才能にあふれた方なんです。本人は至って真面目にやっているんですけれどもね! 佐助の相手で手いっぱいになって仁吉のところに戻ったとしても、仁吉もふざけているのでどうしたらいいのか(笑)。一太郎にとって、仁吉は安心できる場所のはずだったのに…(笑)。

――稽古のときから自由に楽しめる雰囲気だったのでしょうか?

前川:舞台を自由に楽しめたのは、やはり演出の錦織さんのおかげだと思っています。稽古に臨む前は、どんな作品になるんだろう…と緊張していたのですが、錦織さんは誰が何をしても笑ってくれるんです。だから、ひょっとしたら自分は面白いんじゃないか? という気持ちにさせてもらえましたし、もっとやっていいんだ! と自由にやれました。ちなみに、小沼くんに1番ハマっていたのも錦織さんです。「君はいいね! そのままでいて! 」って(笑)。

――錦織さんの演出方法で、特徴的だと感じた部分はありますか?

井澤:役者たちが演じている姿を見ずに、じっと“聴いて”いる時がありますね。

前川:「しゃばけ」は時代物の作品なので、現代の我々にとっては聞きなじみのない言葉も多いんです。でも、それがきちんと聞こえて、お客さまが聞き取れるかどうかを確認されていたのだと思います。僕も言葉をきちんと伝えたいと思っているので、錦織さんのその姿勢には賛成です。

それから、錦織さんは演出卓(演出家・演出助手が座る、正面に置かれた席)には座らずに、僕らの真ん中や後ろなどに立ってお芝居を見ていることが多いです。柔軟で、凝り固まった物の見方ではないと感じると同時に、どの角度から見られても恥ずかしくない表現をしなければいけない、と身が引き締まる思いになります。

井澤:ニッキ(錦織)さんが「こうやるんだよ」とお手本を見せてくださることもあるのですが、それがやっぱり本当にお上手なんですよね。歌もダンスも芝居も、ものすごい方ですから。そういう方が、演技プランをご自分の体を使って実際に見せてくださるのは贅沢なことだなと感じています。

――役作りはどのようにされていましたか?

井澤:僕はいつも役作りをするにあたって、その人物の性格を箇条書きにして書き出していくんです。その中で自分と似ているものを見つけて、その部分を強くしていきます。原作のある作品なら、アニメがあればもちろん声優さんのお芝居も含めて全部拝見します。けれども、そのお芝居をそのまま再現しようとはしません。全部知った上で、僕自身の要素が入りながらもその人物としてしっかり成り立つキャラクターを作り上げていくんです。自分流を貫いて、舞台のその人物として魅力的なキャラクターにする。それが僕の役者としてのこだわりです。

仁吉に関しては、いつもの作り方に加えて小沼さんの佐助とのバランスを考えました。佐助がゆったりと自由にしているお父さんであれば、仁吉は心配性でちょっと口うるさいお母さんのような(笑)。

前川:お父さんとお母さん、すごく分かります(笑)。仁吉がしっかりしているから佐助が自由にやれているのかな、とも感じます。

役作りにおいては僕も井澤さんと同じで、原作のある作品でも“再現”を意識はしていません。原作やサブストーリーも全部知った上で、自分なりに出力していくことが楽しいからです。その人物の背景や歴史を知って、こういう事が起きたらきっとこの人物はこう思うだろう…と想像していく。そうやって作り上げた人物のふとした仕草や反応や表情が、「あ、この人物はこうだよね」と思ってもらえるものになっていたら嬉しいです。

舞台で僕が演じる一太郎は、みんなと笑いあったり誰かに突っ込んだり怒ったりしているので、活発な人に見えるかもしれません。でも、ふとした時に見せる優しい表情や言葉遣いで、一太郎としての説得力を感じてもらえたらいいと思っています。

――第2弾にあたり、あらためてご自分の演じる人物についてどのように思われますか?

前川:一太郎は、小さい頃から外出もままならないくらい病弱で小柄な人です。でも僕は小柄ではないし、おかげさまでとても頑丈な体を持っています。一太郎とは共通することが少ないので、彼の人柄はどういう環境でできあがったのだろうと、前作では様々なことを考えました。前作の稽古の中で、皆さんとたくさん笑いあったり優しい話をしているうちに分かってきたのが、一太郎は体が弱いという理由だけでみんなに心配されているのではない、ということです。

一太郎がみんなを愛しているから周りに優しい人たちが集まって、心配して世話を焼いてくれる。それは人間に限らず、“あやかし”たちも同じです。あわれみや同情ではなく、一太郎が愛すべき存在だからこそなのでしょうね。

井澤:公演中、僕も前川くんが言っているのと同じことを感じていました。ついあれこれと若だんなの世話を焼いてしまうのは、同情やあわれみの気持ちからではないんです。

2022年に入ってから年下の役者さんたちとお仕事をご一緒する機会が増えたことで、その気持ちが具体的に分かるようになりました。僕は今年30歳になりますが、12歳から芸能のお仕事をさせていただいているので、18年の経験を重ねてきたことになります。だから若い彼らが頑張っている姿を見ると、もっと伸びてほしくて自分の経験の中からつい助言をしたくなるんです。彼らのために、いろいろと教えてあげたい、世話を焼きたい…そういう気持ちになることが多かったので、今作に臨むにあたってはその経験が生きてくるのではないかなと思っています。

前川:前作から1年以上の間は空きましたが、その間に僕も自分の中にある引き出しが増えた感覚があります。前作と今作では、僕の表現したいものはきっとどこか違うものになると思いますし、観て下さった方が「変わったな」と感じてくだされば、役者冥利に尽きます。

――最後に、ファンの皆さんにメッセージをお願いします。

前川:これまでは、自分が役に対してどう向き合うかということを強く意識していたのですが、最近は「お客さまにこう感じてほしい、こういう気持ちになってほしい」という考え方に変わってきました。

楽しい気持ちになったり深く考えさせられたりといろいろなエンタメ作品がありますが、この「しゃばけ」に関して言えば、観てくださったお客さまが優しい気持ちになれる作品ではないかなと思っています。優しさと愛にあふれた登場人物たちが巻き起こす、人間味いっぱいの人情話です。本作を観て、大いに笑ってたくさん笑顔になってくださったり、「よし、明日からまた頑張ろう! 」と思ってもらえたら嬉しいです。

井澤:新しいキャラクターが増えて新しい人たちが座組に加わっているので、第1弾とはまた違った「しゃばけ」をお届けできると思っています。世の中には色々なエンタメがありますが、本作は、観ている時間はその世界に没頭して楽しめるハートフルな作品です。

演出のニッキさんやスタッフさんと一緒になってこの作品を心から楽しんでいる僕たちと、その楽しさを共有してもらえたら嬉しいです。真城めぐみさんのアマビエの歌は今回も素晴らしいので、ぜひ楽しみにしていてください!

取材・文:広瀬有希/撮影:ケイヒカル