TVアニメ『SPY×FAMILY』2クール目ティザーPVよりアーニャ (C)遠藤達哉/集英社・SPY×FAMILY製作委員会

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かつては超能力が本格的に研究されていた

 超能力。1960年代から現代にかけてさまざまな作品やTV番組でひんぱんに取り上げられ、多くの人を熱中させ続けている題材です。

 心と心で会話できる「テレパシー」、念じるだけで物を動かす「サイコキネシス」、瞬間移動を行う「テレポーテーション」など、超能力の種類を挙げていけばキリがありません。超能力者が主人公のマンガやアニメも多く、横山光輝先生の『バビル2世』や藤子・F・不二雄先生の『エスパー魔美』など膨大な数の作品が世に出続けています。もちろん、『SPY×FAMILY(スパイファミリー)』もその内のひとつです。

『SPY×FAMILY』のアーニャは、テレパシーの能力を持つ超能力者で、他人の思考や心の声を知ることができます。元々は正体不明の組織「被検体007」として生み出され、さまざまな「お勉強」をさせられていましたが逃亡し、孤児院や里親を転々としながら生きてきました。

 この謎の組織が行っていた「お勉強」とは、明示されてはいませんがおそらくは超能力の開発だったのではないかと思われます。現代でも超能力の開発や研究はある程度行われているようですが、1960年代から90年代には国家レベルで研究が行われていました。冷戦期は西側諸国と東側諸国が互いの情報を求めて疑心暗鬼に陥っていた時代でもあります。仮に超能力者が実在していたら他国の機密情報を簡単に奪えますし、未来を予知できればすべての物事を有利に展開できます。真剣な研究が行われたのもうなずける話です。

 過去にはさまざまな超能力者が存在し大きな話題となりましたが、なかでも有名なのがソビエト連邦のニーナ・クラギーナです。サイコキネシスにおいては世界の第一人者と目されており、彼女の存在に焦ったアメリカは1970年から超能力研究のために「スターゲイト・プロジェクト」を施行しています。このプロジェクト最強の遠隔透視能力者であるジョゼフ・マグモニーグルは001の登録ナンバーを持っており、アーニャの番号007とつながる要素が感じられます。もしかしたら、アーニャの「お勉強」はスターゲイト・プロジェクトがモデルとなっているのかもしれません。



TVアニメ『SPY×FAMILY』MISSION:12「ペンギンパーク」では超能力でペンギンの心を読んだアーニャ (C)遠藤達哉/集英社・SPY×FAMILY製作委員会

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孤児の境遇は厳しい

 アーニャを構成するもうひとつの要素が元・孤児です。アーニャはヨルのことを「はは」と呼びますが、実の母親のことを「ママ」と呼ぶシーンがあります。逃亡後にママのところに行かず、孤児院で過ごしていたのですから何らかの理由でもう会えない状況にあると考えて良いでしょう。

 アーニャの初登場時、ロイドが孤児院を訪れた際に境遇の悪さに驚いていたシーンがありました。ロイド自身も戦争で家族を失った孤児であり、孤児院の待遇は知っていたはずです。それにもかかわらず驚いているということは、アーニャがいた東国の孤児院の状況は相当に酷いということなのでしょう。

『SPY×FAMILY』の舞台となっている1960年代から70年代、現実社会でも悲惨な孤児院運営が行われている国がありました。それが東側諸国のひとつ、ルーマニアです。当時独裁を行なっていたニコラエ・チャウシェスク大統領は人口を増やすために妊娠中絶を法律で禁止し、離婚にも大きな制約をもうけました。また多くの子供を生んだ女性を公的に優遇しましたが、多数の育児放棄を招き、結果として子供たちは孤児院に引き取られていきました。

 激増した孤児たちに対し国家の支援は十分とは言えず、子供たちは十分な食事も無く栄養失調に陥ります。子供が死ぬと孤児院の職員の給料が減らされるため、病気治療の際には輸血が行われましたが、エイズのまん延を招くなど状況は悲惨を極めました。この子供たちは「チャウシェスクの落とし子」と呼ばれ後々まで深刻な社会問題となりました。

 このような問題はルーマニアだけでなく、日本でもさまざまな悲惨な出来事が現在進行形で起こっています。かつての孤児院、現在の児童養護施設では、施設をでたら男性は反社会勢力の構成員に、女性は風俗の世界に流れる人間がいると言われています。お金も頼れる身内もいなければ、そういう方向に流れていくのはどうしようもないことなのかもしれません。

 人の心が読めるアーニャは占い師などの生き方を選ぶこともできたでしょうが、少なくとも、今は頼りになる「ちち」と「はは」に囲まれて暮らしています。このままイーデン校で友人を増やし、社会の動乱に巻き込まれずに幸せになってくれることを祈ります。