「正義」を操るエンヤ婆が表紙の愛蔵版コミックス『ジョジョの奇妙な冒険 [函装版]JOJONIUM』11巻(集英社)

【画像】名前に対してまさかの能力!『ジョジョの奇妙な冒険』の強烈スタンドを振り返る(7枚)

エンヤ婆の一方通行すぎる「正義」

『ジョジョの奇妙な冒険』(著:荒木飛呂彦)に登場するスタンド能力には、それぞれ個性的な名前がつけられています。スタンド能力が登場した第3部ではタロットカードやエジプトの神々がその名前の由来でしたが、第4部以降は基本的に荒木先生が愛してやまないバンド名や、曲名からつけられるようになりました。そのなかには、第5部に登場する意思を持った「弾丸」たちのスタンド「セックス・ピストルズ」のように、「名前」と「能力」がぴったりの場合もあれば、「なぜその能力でその名前?」と思わず驚いてしまう組み合わせのものもあります。この記事では名前とのギャップが凄くて、印象に残るスタンドたちを振り返ります。

どこに「恋」要素があるのか? 第3部「恋人(ラバーズ)」

 第3部に登場するスタンド名は、「タロットカード」の暗示に由来することは述べました。例えば「太陽(サン)」の暗示をもつスタンドであればその能力も本物そっくりの太陽を出現させるものであったり、「死神」の暗示を持つ「デス13」は悪夢へと引きずりこむ死神のスタンドだったりと、ある程度はその「名前(暗示)」と能力・ビジュアルに関連性が認められます。

 ところがDIOの刺客のひとり・鋼入りのダンのスタンド「恋人(ラバーズ)」に関しては、名前と能力の噛み合わなさが絶妙です。「恋人」の暗示を持つならばハニートラップ的な能力になるのかと思いきや、「極小スタンドが相手の耳から脳に侵入し、本体と感覚を共有させる」という能力でした。ビジュアルもバルタン星人のようで、鳴き声は「マギーッ」と奇天烈。全く甘い雰囲気ではありません。ただ、タロットの「恋人」には「共感」や「調和」の意味もあり、「相手と本体の感覚が共有される」という点は、捉え方次第では「恋人」感を見いだすことができます。

「正義」とは何か? 第3部「正義(ジャスティス)」

 同じく第3部で気になるのが、上記の「恋人」によって「肉の芽」を暴走させられ死んだ、エンヤ婆(こちらも名前の元ネタのアーティストと違い過ぎますが)のスタンド「正義(ジャスティス)」です。敵スタンドの名前が「正義」なのですから、まったく『ジョジョ』は最高です。

「正義」は霧状のスタンドで、相手の傷口から侵入しその部分に大きな穴をあけて思うままに操作することが可能(死体も操作でき、何体も同時に操れる)、さらには幻覚を見せることもできます。ポルナレフの舌を傷つけ、便器を舐めさせようとするなど、作中の使い方含めどうにも正義とは程遠い能力にも思えるスタンドです。

 とはいえ本体であるエンヤ婆はポルナレフに仇討ちで殺された息子J・ガイルの復讐を果たすため、さらには崇拝するDIOへの忠誠心のため、スタンド攻撃をしかけているのであり、彼女のなかでは確固たる「正義」が成立していたとも言えそうです。またタロットは逆位置だと意味が逆転し、正義は「不正、不公平、一方通行」などの暗示になるので、能力やエンヤ婆の性格ともマッチしています。



「ビタミンC」の本体・田最環が表紙の『ジョジョの奇妙な冒険 第8部』13巻(集英社)

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「ビタミンC」が相手を溶かす?

元ネタの方が「怖い」? 第6部「取り立て人 マリリン・マンソン」

 第4部以降は敵本体の名前だけでなくスタンド名も、曲名やミュージシャンの名前からつけられることが増えていきます。当然、読者は元ネタのイメージとスタンドを無意識のうちに重ねてしまうのですが、第6部「ストーンオーシャン」に登場した敵スタンド「取り立て人 マリリン・マンソン」は元ネタのイメージとだいぶ雰囲気が違います。

 元ネタの方の「マリリン・マンソン」は強烈な異彩を放つ、アメリカのミュージシャンで、びっしり悪魔的な刺青を施し、眉はなく白塗りメイクと邪悪ないでたち。また豚の血を会場に撒くライブパフォーマンスを敢行したり、私生活ではドラッグに溺れたりと、混沌世界に住む人物です。

 一方、6部に登場した女囚・ミラションが操る「マリリン・マンソン」は必ず賭け事の取り立てを行う(相手の臓器まで抜き取る)能力であり、ビジュアルも元ネタほどおどろおどろしくはありませんでした。「これから何が始まるのだ」と不安を煽る前振りとして、このスタンド名は大いに役立ったのではないでしょうか。

トロトロにさせる効果あったっけ? 第8部「ビタミンC」

 第8部「ジョジョリオン」で東方家の長女・鳩の彼氏として登場した、岩人間・田最環(だも・たまき)が操るスタンド「ビタミンC」は、非常に凶悪かつグロテスクな能力を持つスタンドでした。元ネタは荒木先生が「凄すぎるアーティスト」として絶賛した、『CAN』というバンドの楽曲「Vitamin C」から。「ビタミンC」の能力は相手を液体のようにトロトロにしてしまうもので、その軟化具合は体のなかを魚が泳げるほどでした。スタンドまで溶かせるのが厄介で、ほとんど無敵かつ拷問向きの能力です。

「ビタミンC」=「酸っぱい」=「酸」=「溶かす」という段階を踏めば、多少なりの納得感を得ることもできそうですが……。恐ろしい能力と裏腹に、身近な「ビタミンC」というスタンド名のギャップが強烈でした。ちなみに元ネタの歌詞には「彼女の父は大きな飛行機を持っている(お金持ち)」、「彼女は怪物のようなプレス機に押し潰されている」というような意味のフレーズがあり、能力はともかく田最が鳩の恋人として東方家にやってきて一家を拷問するという状況には、ある程度シンクロしています。

 他にも、本体のホル・ホース自身は「No.1よりNo.2」と言っている拳銃スタンド「皇帝」や、オエコモバの爆弾スタンドなのにロマンチックな名前の「ボクのリズムを聴いてくれ」、爽やかなネーミングに反して本体・ドロミテの体液を浴びた人間をゾンビにして追尾させる「ブルー・ハワイ」など、名前を聞いてから能力を見ると驚くスタンドたちはまだまだいます。このネーミングのギャップも、『ジョジョ』の奇妙な魅力のひとつと言えるでしょう。