表題作が海外で短編映画化もされている短編集『パン屋再襲撃』(文藝春秋)

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静かで孤独な人々を描いた春樹作品のなかでも「アニメ」に向いているのは

 村上春樹氏の作品をアニメ化するとしたら一体、どの作品でしょうか。

 日本が世界に誇る小説家・村上春樹氏は1979年に『風の歌を聴け』でデビュー以降、これまでに『羊をめぐる冒険』、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』、『ノルウェイの森』、『海辺のカフカ』『騎士団長殺し』などなど、世界中で愛される作品をコンスタントに発表し続けています。また『ノルウェイの森』、さらにこれまで、短編の『納屋を焼く』(映画タイトル『バーニング 劇場版』)、『ドライブ・マイ・カー』などが映画化されています。『ドライブ・マイ・カー』が第94回アカデミー賞の国際長編映画賞を受賞したのは、記憶に新しいところでしょう。他にもデビュー作『風の歌を聴け』が1981年に映画化されており、村上春樹氏は映像作品との縁も少なくない作家です。

 実写映画化はこれまで何度もされてきましたが、「アニメ化」となるとどうでしょうか。アニメカルチャーが一般化して以降、ライトノベル作家以外の人気作家の作品が「実写」ではなく「アニメ」になる例はますます増えています。例えば人気作家、森見登美彦氏の作品は『四畳半神話大系』『夜は短し歩けよ乙女』『有頂天家族』『ペンギン・ハイウェイ』と、多くがアニメ化されています。いずれは村上春樹作品が、長編アニメ映画として描かれることもあるかもしれません。この記事ではネットの声を適宜参考にしながら、ぜひアニメで楽しみたい村上春樹作品を選出しました。

村上春樹作品のなかでもコメディ要素たっぷりの『パン屋再襲撃』

 大前提として村上作品の多くは観念的なモノローグによる静謐な孤独を基盤にしており、「動画」としての演出が難しそうではありますが、そのなかでも『パン屋再襲撃』という短編はファンの間でもドタバタ要素のある作品として知られています。

 深夜に堪え難い空腹に襲われた夫婦はその理由を「かつて夫がパン屋の襲撃に失敗した呪いである」と直感。この空腹から解放されるためには今一度、パン屋を襲撃する必要があるとしながらも、深夜にパン屋は空いてないのでマクドナルドを襲うことに……。

 このなんとも間の抜けた不条理、小気味良いドライブ感。なるほど、珠玉の短編アニメーション映画に仕上がる予感がしてなりません。なお同作は2010年にカルロス・キュアロン監督によって「実写」の短編映画(主演:キルスティン・ダンスト)は制作されており、アニメ化にも期待がかかります。



多彩なキャラがアニメ向き?『海辺のカフカ』上巻(新潮社)

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ストップモーションアニメにしてほしい作品も

日本中でブームを巻き起こした 『海辺のカフカ』

 2002年に刊行された傑作長編『海辺のカフカ』もまた、映像化を望む声が多い作品です。蜷川幸雄氏演出の舞台版も大きな話題を集めました。珍しく「少年」が主人公の本作は、猫と会話ができる謎の老人ナカタさん、猫殺しの怪人ジョニー・ウォーカー、なぜか当然のように出てくるカーネル・サンダーズなど、強烈なキャラクターたちが大集合。香川県の高松市が重要な舞台となっており、ロケーション的にももっとも「アニメ映画」的といえるかもしれません。

 ただし、村上春樹作品にはもうひとつ「直接的な性行為の描写が多い」という特徴があり、『海辺のカフカ』もその例にもれません。この辺りが少しばかりネックとなりそうですが……星野青年とナカタさんの関係はぜひアニメで観てみたくなります。

ストップモーションアニメなら?『羊男のクリスマス』

 村上作品には、「羊男」という何作にもわたり登場するキャラクターが存在しています。名前の通り羊の格好をした男であり、何者かは不明。初登場は1982年の『羊をめぐる冒険』で、ここでは村上春樹氏自身の手で描かれたなんとも怪しげな羊男のイラストが挿入されましたが、いつの間にか佐々木マキ氏によるイラストの方が浸透しています。

 そんな羊男を主人公にした絵本が『羊男のクリスマス』。こちらは内容こそ「呪い」と「音楽」という村上作品の主要なテーマを扱っていますが、佐々木マキさんの描くユーモラスなキャラクターたちがなんとも愛らしく、ストップモーションの人形アニメにして欲しいところです。

 原作が小説の場合、アニメ化は「再現」ではなく「翻訳」に近い作業かもしれません。あの村上春樹作品独特の文体や比喩表現、心象風景などがアニメでどう演出されていくのか。決定済みの企画がある訳でもないのに、胸が勝手に高鳴ります。