乱菊への愛に生きた市丸ギンが表紙の『BLEACH』第47巻(集英社)

【画像】かっこいい裏切りキャラが登場する名作マンガ単行本 (4枚)

後悔を抱えながら仲間のために立ち上がる裏主人公

 マンガで主人公たちが仲間だと信じていたキャラに裏切られれば、読者も怒りが湧き、そのキャラを嫌いになってしまいがちです。しかし、裏切るに至った理由やその後の行動などで、裏切り者でありながら人気が高いキャラたちも存在します。

※この記事には、各作品のネタバレが含まれています。未読の方はご注意ください。

ライナー・ブラウン『進撃の巨人』

 人間と巨人の戦いを描いた『進撃の巨人』で、主人公・エレンから見た「巨人側の人間」だったライナー・ブラウン。「鎧の巨人」の継承者のライナーは、故郷で待つ母や仲間のために、「始祖の巨人」の力を奪う使命を持っていたのです。そしてライナーは、その正体を隠して、エレンと同期の第104期訓練兵団に入団し、頼れる兄貴分として仲間からの信頼を得ていきました。

 仲間のふりをして、多くの壁内人類を殺したライナーたちは紛れもない裏切り者で、エレンにとっては母親の仇でもあります。しかし、けして悪人ではなく、罪の意識から人格が分裂してしまうほど苦しんでいた姿を見ると、哀れみも湧いてくるキャラでした。そして物語の後半、「もう殺してくれ」と懇願するほど精神的に追い詰められながらも、仲間のために立ち上がる姿は、「裏主人公」と言ってもいいほどかっこいいです。

市丸ギン『BLEACH』

 死神代行になった高校生・黒崎一護の活躍を描いた『BLEACH』の「破面・空座決戦篇」では、世界の支配を目論んだ藍染惣右介(あいぜん・そうすけ)との決戦が描かれました。市丸ギンは、そんな藍染の忠実な部下であることを隠し、三番隊隊長を務めていた裏切り者です。

 敵としてかつての仲間たちの前に立ちはだかったギンですが、彼の本当の目的は、藍染への復讐と、大切な人の魂の奪還。幼い頃、ギンは流魂街(るこんがい)で乱菊(らんぎく)と幸せな時間を過ごしていました。しかしある時、藍染の計画に巻き込まれた乱菊が魂を削り取られます。

 復讐と乱菊の魂の奪還を胸に誓ったギンは、それから100年以上の間、藍染の忠実な部下として動いていました。最後は寸前のところで目的を果たせず散ってしまったギンですが、乱菊への愛に全てを捧げた一途な生きざまは、とても魅力的です。



グリフィスが友と仲間を生贄に捧げた『ベルセルク』第12巻(白泉社)

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天才ゆえの孤独と絶望から、裏切るしかなかった男が引き起こしたマンガ史に残る悪夢と感動の最期

グリフィス『ベルセルク』

 主人公・ガッツのグリフィスへの壮大な復讐物語でもある『ベルセルク』。「自分の国を持つ」という夢のため、傭兵団「鷹の団」を率いていたグリフィスは、唯一心を許せる友・ガッツが鷹の団を去ったことで自暴自棄になり、王女と密通し国王に捕らえられます。

 虜囚となったグリフィスは激しい拷問を受け、鷹の団の残党に助け出された時には、自殺すらできない再起不能の体になっていました。絶望したグリフィスは「鷹の団」とガッツを生贄に捧げ、さらにはガッツの恋人・キャスカをその目の前で凌辱し、5人目のゴッド・ハンド「フェムト」に転生して夢に向かって歩き始めます。

 強く美しく聡明で、死んでいった仲間のために、手段を選ばず夢に向かって孤独に突き進むグリフィスは、圧倒的なカリスマ性を持つ魅力的なキャラです。これほど気高い性格でありながら、ガッツにだけは執着し、倒錯した愛情表現を見せるギャップが、グリフィスをより魅力的なキャラに押し上げています。

秋葉流『うしおととら』

「獣の槍」に選ばれた主人公・蒼月潮(あおつき・うしお)と相棒の妖怪・とらが、大妖怪「白面の者」との戦いに挑む『うしおととら』。うしおから兄貴分として信頼されていた「獣の槍」伝承者候補のひとり・秋葉流(あきは・ながれ)は、白面の者との最終決戦の際に、突如として敵側につき、うしおととらの前に立ちはだかります。

 天才だった流は、幼少期からなんでも簡単に一番になれていました。しかし、飛び抜けた才能は周囲との軋轢を生み、流は自分を「本気を出してはいけない人間なんだ」と思うようになり、力を抑えて生きていたのです。しかし、流は「獣の槍」という絶対的な力を持ちながら真っすぐに生きる潮うしおを見て、本心を偽って生きる自分に罪悪感を感じ始めます。やがて、そんな自分を尊敬してくれる潮のまぶしさに耐えられなくなった流は、白面の者の誘いに乗ってうしおととらを裏切りました。

 うしおたちを裏切り、とらと殺し合いをすることでしか本気になれなかった流は、とても不器用で哀しい男です。しかし、とらとの戦いで全力を出し切り、天才の孤独から解放され、充実した表情で逝った彼の姿は、裏切り者とは思えない清々しさに満ちていました。また、天才ゆえの孤独を「風」と表現し、「風がやんだじゃねえか」と呟いた最期はかっこよすぎです。また「白面の者」との最終決戦で流の魂が戻ってきた場面は、同作屈指の名シーンでした。