声優・チョー氏が「兼役」をしているのは旧作のオマージュ?『宇宙戦艦ヤマト2199追憶の航海』 (C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会

【画像】同じ声優が同時に演技!? 驚愕の作品(5枚)

声優が何役も演じなくなったワケ

 昔のアニメ作品と昨今のアニメ作品を見て、色々な点に気付くことがあります。ポイントは人それぞれですが、筆者の場合、複数のキャラをひとりの声優が演じる、「声優のかけ持ち(兼役)」が少なくなったと感じていました。

 昨今の作品でも、『ONE PIECE』(1999年〜)などでは、麦わらの一味のメンバーの声優が他のキャラを演じる際、「粗忽屋○○」といった別名義を使っています。また、長い期間放送されている作品なので、ひとりの声優が全く別のキャラを演じる例もあります。

『宇宙戦艦ヤマト2199』(2013年)ではアナライザー、薮助治、ゲルフ・ガンツの3役をチョーさんが演じています。これは原典の『宇宙戦艦ヤマト』(1974年)で、この3役を緒方賢一さんが演じていたから、そのリスペクトではないか? と考察する人もいました。

 もちろん、『ドラゴンボールZ』(1989〜1996年)以降のシリーズで、孫悟空をはじめとして孫一家を演じているレジェンド声優の野沢雅子さんの存在は皆さんもご存じのことでしょう。

 このように昨今のアニメでも複数の役を演じる声優は少なくないのですが、昔と比べて「端役にレギュラー声優がかけ持ちで演じることが減った」のです。1970年代くらいのアニメ作品では、味方側と敵側にそれぞれに持ち役のある声優が多くいました。特にロボットものでは多かった印象があります。

 分かりやすい例を挙げると、『機動戦士ガンダム』(1979年)。よく言われるのが、永井一郎さんのかけ持ちです。ナレーションをはじめとして、ドレンやデギン・ソド・ザビなど、名前のあるキャラだけでも20を超えていました。さらに名前のないひと言だけのキャラも入れると、その数は倍以上にはなるでしょう。

 しかし、『ガンダム』のスゴいところは、かけ持ちをしている声優は永井さんだけでないところです。レギュラー陣の声優は主役のアムロ・レイを演じた古谷徹さん以外、全員が何らかのキャラをかけ持ちしていました。シャア・アズナブル役の池田秀一さんもです。

 元々キャラの多い作品ですから、声優の人数が足りなかったことが大きな要因でしょう。この声優が少ないというのは予算面も大きいのですが、当時はまだ声優という言葉が定着し始めた頃で、その人数は現在の1割にも満たないと言われています。逆に今の声優は人数が多くて飽和状態とも言えるかもしれません。

 それゆえ昔のアニメ作品では一人ひとりの声優の見せ場が多く、かけ持ちによって別なパターンの演技を同じ作品内で楽しむことができました。TVのバラエティ番組でベテラン声優の方が、「若い声優より年寄りの方が端役でも何でもやりたがる」……そうコメントしていたことがあります。確かに、かけ持ちが当たり前の時代を過ごしてきた方は、何よりも演じることが楽しくて仕方ないのかもしれません。

 逆に最近は声優の人数が大きくなりすぎて端役までキッチリと担当声優が決まっているので、声優が何役もやりたくてもできないのは仕方ないことなのでしょう。



声優のかけ持ちが多かったアニメ『キン肉マン』 画像は『キン肉マン』電子版第1巻(著:ゆでたまご/集英社)

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同じ声のキャラが戦うこともあったアニメ作品

 この声優のかけ持ちが楽しめる作品として、筆者がおススメする作品のひとつが『キン肉マン』(1983〜1986年)です。

『キン肉マン』もレギュラー陣のほとんどがかけ持ちをしている作品で、声優の声のパターンがよく分かる作品でした。たとえばペンタゴンの試合を応援するテリーマン。このどちらも田中秀幸さんが声をあてていました。リキシマン(原作ではウルフマン)と戦うケンダマン。両者とも広瀬正志さんが演じています。このように出演してる声優の声質の変化やテクニックが楽しめる作品でした。

 郷里大輔さんの演じていたアシュラマンは、「笑い」「冷血」「怒り」の三面でそれぞれ声が違っていたうえに、同じシーンに本来の担当キャラであるロビンマスクが出てくる時もあったのですが、それぞれ声質を変えて演技しています。

 もちろん、このキャラのかけ持ちにも一定のルールがありました。それが実況と解説者は基本的に戦う超人レスラーをかけ持ちしないというものです。そのため、アナウンサー役の戸谷公次さん、解説者の中野さんのはせさん治さんは超人レスラーをほとんど演じていません。

 もっとも『キン肉マン キン肉星王位争奪編』(1991年)で中野さんを演じた千葉繁さんは、テンション高めの声で解説しながら、渋いトーンでキン肉マンソルジャー(キン肉アタル)を演じる妙技を見せていました。

 このキャラのかけ持ちが多すぎて初見の人が混乱しそうな作品が『戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー』(1985〜1986年)です。

 初期の登場人物(トランスフォーマー)の数は30人を超えているのですが、作品で常駐している声優の数は10数人。最初からかけ持ちが前提となっていました。しかも物語が進むにつれてキャラの数は100人を超えるのですが、声優の追加はほとんどなく、ひとりで何人ものレギュラーキャラを担当するという有様です。

 前述した作品ではいずれも主役の兼任はさすがになかったのですが、本作では両軍のリーダーであるコンボイ役の玄田哲章さん、メガトロン役の加藤精三さん共に両軍のエース級の戦力であるオメガ・スプリーム、デバスターというキャラも演じていました。もちろん会話シーンも普通にあります。

 海外作品と言うことで作画ミスにより別人みたいになっているカットも多々あるうえに、時には予告もなく声優の変更もあるので、なじみのない人はあっけにとられるかもしれません。もっともひとつのエピソードで出てくるメンバーは最大でも数十人程度なので、なれると声優さんの妙技を楽しめる作品として面白いと思います。

 以上、筆者が声優の妙技を楽しめると感じた作品でした。他にもいくつも声優のかけ持ちが楽しめる作品はあると思いますが、1990年代以降はあまり記憶にありません。こういったお遊び要素があった方がいいのか分かりませんが、少し寂しく思います。