哲学的なテーマにまで及んだ大作『ピグマリオ』

 1978年より「花とゆめ」で連載開始した『ピグマリオ』は、有史以前の「神話の時代」を舞台にした巨編ファンタジーです。ルーン国の皇子・クルトは若干8歳の身でありながら、巨大な「大地の剣」を自在に操る怪力の持ち主。闇の世界を司るメデューサによって、母親が石像に変えられたことから復讐の旅に出ています。

 クルトの宿敵・メデューサは、「黒い血」を妖魔に分け与えて使徒を増やし、闇の領域の拡大をはかります。しかし、光と闇は相反するものでありながら、切り離すことができない一対の世界。物語の展開とともに、クルトとメデューサの関係性も複雑なものに変化していきました。

 画集『和田慎二ARTWORKS 戦う美少女伝説』には、和田慎二さんが残した『ピグマリオ』の構想ノートが紹介されています。そこには、『ピグマリオ』を単なる勧善懲悪にとどまらないストーリーに発展させた、和田慎二さんの苦心の跡を見ることができます。

『ピグマリオ』が描かれた当時、日本では本格的なヒロイック・ファンタジーの作品がほとんどありませんでした。編集部の理解を得るのも大変な時代でしたが、和田慎二さんは果敢に新しいジャンルに挑戦して、マンガの可能性を広げてくれました。

『和田慎二ARTWORKS 戦う美少女伝説』では、和田慎二さんと親交があった、漫画家の美内すずえ氏、柴田昌弘氏、安彦良和氏、竹本 泉氏、新谷かおる氏(掲載順)らのインタビューが掲載されています。貴重な証言とともに、和田慎二さんが切り拓いた少女マンガの世界を楽しんでみてはいかがでしょうか。

※文中一部敬称略
(C)和田慎二