学習し成長する恐ろしい自動追跡型スタンド「ベイビィ・フェイス」が登場する『ジョジョの奇妙な冒険 第5部』第8巻(集英社)

【画像】自動追跡型スタンドを打ち破った、『ジョジョ』主人公たちのエピソード(4枚)

追いつかれると養分を吸い取られる……

 『ジョジョの奇妙な冒険』(著:荒木飛呂彦)には、実にさまざまなタイプのスタンド能力が登場します。スタンド能力は本体の精神エネルギーを具現化したもので、基本的には本体に対し影のようにぴったりと寄り添っていることが多いです。ところが、物語が進むにつれて本体の意思を離れ、自動でターゲットを追跡して始末する厄介な「自動追跡型」のスタンド能力が登場しました。今回は各部ごとに、特筆すべき自動追跡型スタンドを紹介します。

「ハイウェイ・スター」第4部

 自動追跡スタンドが登場したのは第4部からでした。なかでも読者の背筋を凍りつかせたのが、入院中の高校生・噴上裕也の操るスタンド能力「ハイウェイ・スター」でしょう。疾走感あふれる名の通り、標的にした相手を追って、追って、追いかけまくる能力です。

 時速60㎞の速度で自動追跡してくるので、それ以上の速度でとにかく逃げ続けるしかありません。追いつくと相手の養分を吸い取り、戦闘不能にしてしまうのも恐ろしいです。岸辺露伴もやられてしまい、東方仗助も絶体絶命のなか、なんとか本体を見つけて叩くことで辛くも勝利しました。バイクに「足跡」がビタビタビタと迫り来る視覚的な演出がまた、最高にホラーなスタンドです。

「ベイビィ・フェイス」 第5部

 第5部前半の敵、暗殺チームの面々のスタンドは容赦のない殺傷能力抜群のものが多いのですが、なかでもメローネが操る「ベイビィ・フェイス」は、ファンの間でも「最悪!」と言われるスタンド能力の一つです。パソコン型の親スタンドが標的の血液と母体となる女性の体を用いて、「自動操縦型スタンド」の子供を生み出すとい能力。誕生したジュニア「ベイビィ・フェイス」は、母体となる女性の性格や言葉遣いによって知らぬ間に教育が施され、最終的に自分で考えて行動する殺戮スタンドへと成長していくのです。この時、子「ベイビィ・フェイス」に自分を含むさまざまな物質を別のものへと変換する能力が萌芽します。どう考えても、最悪です。

 言葉や意思を持たぬ他の自動追跡型と違い、知性を獲得するため、時にはメローネの指示にも反抗的な態度を取るなど、御しがたいスタンドですが、本体を殺害しない限りは何度でも再生可能という悪夢さながらの恐ろしいスタンドでした。母親になる女性を選定して親スタンドを仕掛ける時の、メローネの変態すぎる手口も鳥肌ものです。



「チューブラー・ベルズ」が作り出した金属バブル犬がルーシーを襲う『ジョジョの奇妙な冒険 第7部』第13巻(集英社)

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手伝ってくれているのかと思いきや……

「ヨーヨーマッ」 第6部

 第6部で、自動追跡型スタンドの、というか全スタンド能力のなかでも抜群の個性を見せたのが、囚人DアンGの操るスタンド「ヨーヨーマッ」です。なんだか荒木飛呂彦先生ならではのキモ可愛い「居候キャラ」のようないでたちで、突然現れたかと思えばカエル肉で料理を作ってくれたり、マッチ棒パズルを出題してくれたり、やたらと献身的に振舞います。知能はおそらく「ベイビィ・フェイス」より上でしょう。

 そして「ヨーヨーマッ」の献身的な態度は全て相手を油断させるための手段であり、標的の注意が他に向いたとたん、肉体を溶かす特殊な唾液を分泌して殺しにかかる狡猾な野郎なのです。唾液を相手にぶつける手段は、状況を見てスタンドが独自に考え出します。

 しかも、攻撃するとなぜか喜ぶうえに回復も早いため、いくら傷つけても撃退できません。アナスイが「ダイバー・ダウン」の能力でカエルとヨーヨーマッの脳の回路を結びつけるという奇策で、なんとか無力化しました。

「チューブラー・ベルズ」第7部

 第7部に登場した独特な口癖がある大統領護衛マイク・Oのスタンド能力「チューブラー・ベルズ」。この能力は金属に空気を吹き込んで膨らませ、バルーンアートの要領でさまざまな「金属バルーン生物」を生み出せます。そして、その動物の特性を活かして標的を追いかけ回すのです。釘を膨らませたバルーン犬がルーシー・スティールに追いついたとたん釘に戻って、彼女の足を突き刺す場面は恐ろしすぎました。

 追跡だけでなく、近接戦でも手近な金属をバルーン生物に変えて即座に攻撃できるのでかなり強いスタンドです。ただ、本体のマイク・Oが大統領に忠実な直情的すぎる男だったため、ホット・パンツの肉スプレーを利用した策にハマり、意外とあっけない最期を迎える「世界」でした。

 自動追跡型スタンドは『ジョジョ』のスタンドバトルに革命をもたらしました。攻撃を受けているが、本体がどこにいるのかわからない。果たして「本体」を叩くのか「スタンド」を叩くのか。この二者択一の状況は「ヨーヨーマッ」戦のように、二手に分かれて戦うなどの戦闘バリエーションも生み出します。さらにいえば、本体は安全圏にいながら独立して相手を攻撃するこれらのスタンドは、敵の「無自覚な悪」という性格の隠喩としての機能を果たしていたのです。