ドラクエのモンスターたちと遊べる絵本『ドラゴンクエスト あそびえほん めざせ竜王じょう!』(スクウェア・エニックス)

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原案ではグロテスクだったのに…鳥山明の魔法のようなデザイン力

 世界中で愛されている「ドラゴンクエスト」シリーズ。大人から子供まで楽しめる骨太のストーリー、初心者でも分かりやすいゲームシステム、思わず聞き惚れてしまう荘厳な音楽、要素をあげていけばきりがないですが、なかでもキャラクターデザインを担当した鳥山明先生の功績は計り知れません。魔物がはびこる中世ヨーロッパ(風)世界……ともすれば陰鬱とした世界になり得るはずの舞台設定ですが、それをあんなにも心踊るイメージで描きあげてしまったのです。なかでも革新的だったのはモンスターデザイン。この記事では「ドラクエ」のモンスターを介して、簡単ながら「鳥山明」という巨大な才能を改めて確認していきたいと思います。

原型が残っていない! 「スライム」の天才的デザイン

「ドラクエ」のモンスターといえば、まずはスライムです。「ドラクエ」というゲームを決定づけた存在でもあります。そしてこのスライムのデザインこそ鳥山先生の天才性を如実に表しているのです。「ドラクエ」の生みの親である堀井雄二さんが鳥山先生に「スライム」のデザインを発注した際のラフイメージはアメーバ状の生物で、目も口もありませんでした。それがふたを開けてみれば、ぷるぷるボデイにツノ、そして丸い目をしたあのデザインに。元のラフには「不定形」などの指示書きもありましたし、そもそも「スライム」という語は粘液やへどろを意味していたのにも関わらず、です。なんでも鳥山明先生が『ウィザードリィ』などのRPGをご存じなかったことが逆に功を奏したのだとか。それにしたってこの天衣無縫ぶりには驚嘆せざるを得ません。

元々の原案では「蛾」だった? すぎやまこういち氏イチ押しの「ドラキー」

 同じく神デザインとしか言いようがないのが、物語序盤ではおなじみのモンスター「ドラキー」でしょう。単純な線だけで描かれた隙のなさに加え、いたずらっぽい笑顔もぐっときます。「ドラクエ」シリーズの音楽を担当された故すぎやまこういち先生も「シルエットが指揮者みたいで、かわいくないですか?」とドラキーをイチ押しモンスターに挙げていました。さてさて、そんなドラキーですが一説によれば原案は「蛾」のイメージで、それを鳥山先生が今のデザインに仕立て上げたのだとか。ドラキーという名前から当たり前のように「ドラキュラ」→「コウモリ」を連想していましたが、なるほど言われてみれば触覚にその名残があるような気がしてなりません。スライムといい、イメージの「翻訳」があまりにも天才的です。

「魔王」としての存在感抜群! ボツ案も話題となったゾーマ

「ドラクエ」シリーズに登場するラスボスのなかでもとりわけファン人気の高いのが『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』に登場するゾーマです。筋骨隆々だったり、棘まみれだったり、というわけではなく、逆に一切の装飾を排したデザインというわけでもない、絶妙なバランス感覚で構築されたデザイン。魔王の貫禄十分で、その人気ぶりにも納得です。具体的に見ていけば大きく突き出した両手によって遠近感が強調され、身体がより大きく感じられるようになっています。ゾーマの圧倒的な存在感は動作のないドット絵だからこそ生まれたと言えるかもしれません。さて、そんなゾーマにはボツになった「第二形態」が存在しています。スライムベスの群れが襲いかかってくるかのような、なんとも言えぬデザインであり、いくら天才の案とはいえさすがに採用は見送られたようです。

 鳥山先生のデザインはかわいらしさ、格好よさはもとより、ワクワクさせる力を持っています。勇者たちが長い長い冒険を戦い抜けたのは、この「ワクワク」があったからと、今さらながら思う次第です。みなさんはどの「ドラクエ」モンスターが好きでしょうか。