ジャンプ作品全体のなかでも、特に不遇なヤムチャが主人公のスピンオフマンガ「DRAGON BALL外伝 転生したらヤムチャだった件」(集英社)

【画像】Tシャツにも描かれた「敗北シーン」 ヤムチャVSサイバイマンの戦い(4枚)

負けすぎてフィギュアまで作られた?

「週刊少年ジャンプ」で人気が出る作品はバトルマンガが多く、長期連載になるとキャラもどんどん増えていきます。そして敵もどんどん強くなっていくという「パワーインフレ」が起きると、どうしても主人公チーム側に「負けキャラ」「かませ犬キャラ」が出てきてしまうのが宿命です。今回は、ジャンプの名作バトルマンガの悲しき「かませ犬要員キャラ」を紹介します。

『ドラゴンボール』のヤムチャ

「かませ犬キャラ」としてあまりにも有名なのが『ドラゴンボール』のヤムチャです。彼ほど不遇な扱いを受けた戦士はいないのではないでしょうか。『ドラゴンボール』はパワーインフレが激しい作品なので、亀仙人や天津飯やピッコロなど初期は強キャラだった面々がだんだんやられ要員になっていくことが多いのですが、ヤムチャだけは初期からほとんど負け要員として扱われていました。

 少年期の悟空との初対面こそ引き分けのような形ですが、2戦目は普通に負けます。その後の3回の天下一武道会でも、毎回修行してパワーアップしているにもかかわらず、ジャッキー・チュン(亀仙人の変装)、天津飯、シェン(神様が乗り移った人間)と、大会の目玉となる超強敵と当たってしまい、足を折られたり、金的を食らわせられたりと散々な負けっぷりを見せました。予選のザコ相手には普通に勝っているのがまた悲しいです……。

 そして、ヤムチャが「かませ犬」としてマンガ史に永遠に名を刻んだのが、サイヤ人のベジータとナッパが地球に襲来した際の「VSサイバイマン戦」でしょう。

 サイヤ人側がお遊びとして出してきたサイバイマンをまず天津飯が倒した後、ヤムチャは2戦目に名乗りを上げ、

「オレにやらせてくれ ここらでおあそびはいいかげにんしろってことをみせてやりたい」

とカッコいいセリフを放ちます。そして、戦い自体はヤムチャが優勢に進め、とどめを刺したかのように見えたのですが、死んだと思ったサイバイマンがヤムチャにいきなり飛びついて自爆。地面にうずくまって息絶えるヤムチャの衝撃的な姿は、その後さんざんネタにされ、このポーズのフィギュアまで発売されてしまいました。

 初期メンバーとして登場し続け、まじめに修行もして、おそらく地球人としては屈指の強さになっているのに、ヤムチャはずっと不遇な扱いです。しかし、2017年には『DRAGON BALL外伝 転生したらヤムチャだった件』というスピンオフギャグマンガまで作られるなど、ある意味ネタキャラとして愛され続けています。ちなみに、アニメでは界王星にて死後のリクームと戦って勝利するなど、少しフォローが入っていました。



護廷十三隊隊長のひとりでありながら、負ける場面が多い狛村左陣が表紙の『BLEACH』第62巻(集英社)

(広告の後にも続きます)

「対戦カード」に恵まれなかった説も?

『ダイの大冒険』のクロコダイン

『ダイの大冒険』のなかでも、ある意味でファンに愛されているのが、ワニの姿をした獣人・クロコダインです。彼もヤムチャほどではないですが、負けることが多い「かませ犬キャラ」でした。

 単行本16巻に掲載されたステータスでは、HP515と、パーティ屈指の打たれ強さを誇る戦士ですが、かしこさは25とちょっと残念。味方になる前もダイたちの連携に翻弄され左目をつぶされるなど、少しかわいそうだったクロコダインは、フレイザードと戦った際に必殺技をもろに食らい「ワニ公」呼ばわりされてしまいます。このあたりからクロコダインはどんどん「かませ犬化」していきました。ブロックに投げ飛ばされたり、超魔ゾンビに握りつぶされたり、大魔王バーンに玉にされたり……。

 毎回やられて「ぐわああああー!」と叫び、仲間から「ク、クロコダイーン!」と心配される定番の流れとともに、読者の記憶に残るキャラとなっているでしょう。どれだけやられてもパーティの盾として率先して戦う漢気(おとこぎ)も魅力です。

『BLEACH』の狛村左陣

『BLEACH』の護廷十三隊・七番隊隊長である人狼の狛村左陣は、巨大な卍解「黒縄天譴明王」(こくじょうてんけんみょうおう)を駆使して戦う実力者……のはずなのですが、ネットでも「狛村隊長が勝っているところを覚えていない」という声が多数みられるくらい、不遇な扱いを受けています。

 初めて「黒縄天譴明王」を使った「VS更木剣八戦」は途中で邪魔が入り中断、その後は元隊長同士で親友だった東仙要に負け、九番隊副隊長の檜佐木修兵に助けてもらったこともあります。正体を現した黒幕・藍染惣右介には、1回目は鬼道「黒棺」で瞬殺され、2回目は卍解してすぐに腕を切り落とされるなど、歯が立ちませんでした。

 東仙には元親友ゆえに本気が出せず、藍染はそもそも強すぎという、毎回やりづらい対戦カードに当てられてしまっています。最後の「千年血戦篇」では、バンビエッタ・バスターバインに卍解を奪われたのち、一族に伝わる秘技を使って奮闘しますが、その後は悲惨な末路をたどりました。

『ジョジョの奇妙な冒険 第3部』のモハメド・アヴドゥル

 荒木飛呂彦先生の『ジョジョの奇妙な冒険』は、3部からスタンドバトルが中心となり、単純な強さ比べではなく能力の相性や頭脳戦、心理戦の駆け引きが重要視されたため、パワーインフレは起きづらくなっています。

 しかし、3部の主人公チームのひとりであるモハメド・アヴドゥルは、実力者ながらなぜか損な役回りでした。彼の「マジシャンズ・レッド」は炎を自在に操るスタンドで、鉄格子も簡単に溶かす(本人談)圧倒的火力を誇るなど、かなり強いのは間違いありません。

 敵のスタンド使いであるJ・ガイルもホル・ホースもンドゥールもアヴドゥルのスタンドを警戒していましたが、結局フルで能力の全貌を見せられたのは初期の「VSポルナレフ戦」のみでした。その後は、ポルナレフを救うために眉間にホル・ホースの弾丸を食らい(この時は死に至らず)、一時チームを離脱。最後はヴァニラアイスの「クリーム」によって一瞬で異空間に飲まれてしまいます。強すぎて逆に使いづらい能力だったのでしょうか。

 ちなみに7部「スティール・ボール・ラン」では、モハメド・アヴドゥルと関連するウルムド・アヴドゥルというキャラが登場し、レースの優勝候補のひとりとして注目されていたのですが、1stステージでジャイロと競っている最中にサボテンに衝突して、意識不明のまま脱落、その後も登場しませんでした。荒木先生はなぜこんなにアヴドゥルに厳しいのか、よくわかりません。

 今回紹介したキャラはみんなネタ要素も込みで、ファンから愛されている人物です。主人公を助けつつ引き立てる彼らにも、作品を盛り上げた功労者として光を当ててあげてもよいのではないでしょうか。