タミヤが発売しているP34のプラモデル「1/20 グランプリコレクションシリーズ No.53 タイレル P34 1977 モナコGP」(タミヤ)フロント部分の4輪を再現している

【画像】伝説のマシン「P34」の全体像。影響を受けて「車輪が増えた」マンガ・アニメ作品も(6枚)

F1界に衝撃を与えた6輪車

 かつて世界中に衝撃を与えたF1史上初の6輪車「タイレルP34」(現在では「ティレル」が呼び名としては主流ですが、本文では当時の記載に準じて「タイレル」にしています)。その誕生と後の歴史に残したものを振り返ってみましょう。

 P34が発表されたのは1975年のこと。リア側から徐々にベールをはがされ、フロント側は通常よりも小さいタイヤが4輪だったことを明かされた時は、あまりの奇抜な発想に笑いが起きたというエピソードがあります。

 この前輪が4つになったのには大きな理由がありました。前輪を小型化してスポーツカーノーズのなかに収めることで、空気抵抗の影響を軽減するためです。前輪を4輪にすることでのデメリットもありましたが、ブレーキ性能が向上してコントロールしやすいというメリットが生まれました。

 当初、発表されたP34は旧型であるタイレル007をベースにしたプロトタイプで、翌1976年の第4戦スペインGPに2号機が実戦投入。予選3位を獲得、決勝は3位争いをしながらもリタイアします。そして、翌第5戦ベルギーGPから3号機を投入し、2カーエントリー体制になりました。そして、第7戦スウェーデンGPにおいてデビュー4戦目にしてポールポジションを獲得、さらにワンツーフィニッシュで初優勝を飾ります。

 その翌年、1977年もP34は7号機まで投入してレースに参戦しますが大きな結果を残せず、翌1978年には4輪車に戻ったタイレル008でF1レースに参戦しました。

 ここで気づいた人もいると思いますが、タイレルのF1カーは基本的に「00~」というナンバリングがされています。P34はそれには当てはまらない実験車両の意味合いが強く、Pはプロジェクトを表すPでした。

 こうしてタイレルの6輪F1カーは一定の成功を得ましたが、勝利することが優先されるレースの世界では結果的に失敗だったかもしれません。しかし、この6輪というシステムは他のチームからも注目されます。後輪タイヤを並列にしてグリップ力を上げたフェラーリの6輪車。マーチは駆動輪を2軸にした6輪車をテストしました。しかし、両車ともに実戦投入はされていません。

 この後、1981年末からウイリアムズが本格的に駆動輪を2軸にしたFW07D、FW08Bという後輪が4輪駆動の6輪車をテストしますが、F1レギュレーションの改正で「車輪は4輪まで」と明文化され、6輪車は完全に禁止されました。

 現在、P34は日本に2台あり、うち1台はタミヤ模型が所有しているそうです。



P34の影響を受け、『アローエンブレム グランプリの鷹』では驚異の8輪車が登場した。画像は「アローエンブレム・グランプリの鷹 – スペクタクル・サウンド」(COLUMBIA)

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影響は実車でなくフィクションに浸透する

 P34という6輪車は、レースの世界では大きな結果を残せず、後継機と言うべきものも存在しませんが、そのインパクトはフィクションの世界に多大な影響を与えました。

 P34の活躍時期がちょうど日本の「スーパーカーブーム」と重なっていたこともあり、子供たちがスーパーカー以外にもF1マシンなどのレーシングカーに興味を示すきっかけとなります。おりしも「スーパーカーブーム」の影響で、レースカーを題材に製作されていたTVアニメも多くありました。そのほとんどの主役メカはP34の影響を受けて6輪車以上になっています。

 なかでも『アローエンブレム グランプリの鷹』では、設定面にもリアルな方向性で「8輪車」という、実写では不可能ともいえるF1カーを登場させました。そして、番組後半で「F0」というオリジナル展開に進んだときは、ほとんどのレーシングマシンが6輪車になっています。

 もちろん、タイレルP34がそのまま登場した作品もありました。それが『ルパン三世(第2作)』(1977~1980年)です。第11話「モナコGPに賭けろ」でルパンが搭乗していました。

「タイヤが多い」というデザインが「イコール速い」というイメージは、この頃より刷り込まれたのではないでしょうか? これ以降、アニメなどで使われるオリジナル車両が4輪車でなく、多輪車になっていくのはP34の影響下にあるからだと思います。このイメージは定番化され、『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』(1991年)のレーシングカーたちにも引き継がれていました。

 当然、オモチャやプラモデルの世界でもP34の人気は高かったです。前述したタミヤ模型では、模型では初めてチーム側にロイヤルティーを支払う形をとって、1/20や1/12のスケールモデル、1/10のラジコンを発売していました。

 オモチャとして有名な『トランスフォーマー』では、P34がロボットになるスタントロン部隊の「兵士ドラッグストライプ」というキャラが登場しています。さらに手足にトランスフォームして、他のスタントロンと合体し、合体兵士メナゾールとなるギミックもありました。

 この他にも、ゲーム『メダロット』に「ティレルビートル」というメダロットが登場しています。名前の通りP34がモチーフのようで、前輪が4輪の形に変形しました。

 このように、フィクションの世界では後継機に恵まれたタイレルP34は、我々に「タイヤが多い方が速そう」というイメージを与えます。しかし、世の中にはさらに上がいるもの。実はガスタービンエンジン搭載の12輪車「ライオン」という、幻のF1マシンも計画だけは検討されていたそうです。