2021年3月に公開された映画最新作は、実写とCGアニメが合成された作品。画像は『映画 トムとジェリー ブルーレイ&DVDセット』(ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント)

【動画】音楽と見事にリンクした、トムとジェリーのドタバタアクション

見る側もケンカ描写を心待ちにしていた

 1940年にアメリカで誕生し、日本では1960年代から放送されていた人気アニメ『トムとジェリー』。追いかけっこやケンカばかりの2匹という印象の方が多いと思います。しかし、そのような争いがなく、トムとジェリーが仲良しな回もあったのです。大きく異なる2つのバージョンはどのようにして生まれたのでしょうか?

 筆者が初めて『トムとジェリー』を観たのは幼稚園のころ。今考えると日本での再放送だったのでしょうか、月曜から金曜の夕方に放送されていました。あまりに有名で説明するのも憚(はばか)られますが、エンディング曲の「♪仲良くケンカしな」といった歌詞にあるとおり、2匹はとにかく毎日追いかけっこやケンカをしています。

 ジェリーが挟むタイプのネズミ捕りをトムのシッポに仕掛けたり、投げつけられたプライパンを飲み込んだトムの顔面がフライパンの形になったりと、子供が観ても愉快な誇大表現だと分かる場面もありながら、重いアイロンや家具をトムの頭に落としたり、トムがジェリーの巣にダイナマイトを仕掛けたりと、現実ならば死んでもおかしくない過激なシーンもありました。

 とはいえ、死線を行ったり来たりするような緊迫感はなく、あくまでもファニーなテイストのケンカです。『スラムダンク』の湘北・流川と山王・沢北のように、互いを認めあう者同士のマッチアップを見るような気持ちで2匹の戦いを楽しむことができるのです。

 それゆえに当時はケンカばかりの内容でも楽しく視聴できていましたし、たまに2匹が共闘して犬を退治したり、度を超えたいたずらにジェリーが反省する回などでは「コレじゃないな……」と違和感を感じるほど、どこかケンカを待望している面もありました。

 そんな筆者は、ある日の『トムとジェリー』を観て愕然としてしまったのです……。



約80年の歴史があるため日本でソフト化されていないシリーズもある。画像は『トムとジェリー』 画像は『トムとジェリー 全10巻 (収納ケース付) セット』(ARC Co., Ltd.)

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『ケンカ版』と『仲良し版』は時代背景の影響?

 前述の通り『トムとジェリー』は平日に放送されていたのですが、ある時日曜の昼にも放送されることとなりました。個人的には大好きなアニメが1週間のうち6日も観られることに歓喜し、わくわくしながらテレビの前に陣取ったことを憶えています。

 ところが視聴していくと、その内容は期待とは違うものでした。トムとジェリーがピクニックをしたり、共同作業で難局を乗り越えたり、遊びに興じたりと、ほのぼのとしたストーリーだったのです。ケンカらしいケンカはなかったと思います。

 子供心に困惑を抱えましたが、翌月曜日の夕方には再びケンカし始めるトムとジェリーに安心しました。しかし、再び日曜版を見るとやっぱり2匹は仲良しで当惑……。この繰り返しが続いたのです。当時は曜日によって変わる2匹の関係性の情緒が理解できず、不安でしょうがありませんでした。

 やがて自分が成長していきアニメ自体を観なくなりますが、この2種類の『トムとジェリー』は心のどこかに引っかかっていたため、大人になった今その理由を調べて納得がいきました。

『トムとジェリー』は歴史のある人気アニメなだけに、途中で監督や製作、もちろん時代背景も変わっています。日本では昔ながらの「ケンカ版」が当初放送されていたのですが、時代が進みアメリカで暴力描写の規制が入り、1970年代中盤に「仲良し版」が製作されると、日本でもそれが放送されるようになったのです。

 理由はシンプルで、「暴力描写の規制」でした。とはいえ、このふたつの世界線の『トムとジェリー』を同時期に観た子供たちのうち、そうした事情を理解できた子供はいたのでしょうか……? それにしても、大人になったあとも気になってしまう『トムとジェリー』は、まさに不朽の名作アニメということができるでしょう。