大ヒット作品『鬼滅の刃』に登場するキャラクターの魅力に迫る連載コラム、今回は胡蝶しのぶをピックアップ。優しく美しい彼女の激情とは?

遊郭編放送開始を間近に控えた『鬼滅の刃』。より多くの皆さんに新しい物語をリアルタイムで楽しんでもらうべく、9月にはアニメ1期の特別編集版である竈門炭治郎立志編、そして日本中で話題となった劇場版・無限列車編のテレビ放送も予定されていますね。

今作に登場する様々なキャラクターの魅力を解説する本連載コラム、炭治郎&禰󠄀豆子や我妻善逸や煉獄杏寿郎らに続き今回ピックアップするのは胡蝶しのぶです。

第一印象から受ける柔らかな物腰と優雅な振る舞い。いつもやんわりと微笑むその優しそうな所作からは想像も付かない、彼女の胸の内に潜む激情。その秘密にスポットを当てていきましょう。

※本記事は性質上、アニメ未放送の原作内容を含みます



Blu-ray『鬼滅の刃』10巻
via Blu-ray『鬼滅の刃』10巻

致命的に不利な身体でも柱となった理由

鬼殺隊最強の剣士である柱。組織を支える圧倒的な実力を持つ9人の剣士のうちの1人に名を連ねているのが、蟲柱・胡蝶しのぶです。
しかしその小柄な体格ゆえに十分な筋力をつけることができないため、彼女は柱で唯一の、鬼の首を切ることができない剣士でもあります。

しかしそんな彼女が代替として鬼を滅するための手段が、鬼に対抗しうる猛毒。彼女は鬼殺隊の中でも非常に珍しい、鬼を殺すための毒の開発に成功した希少な才能を持つ剣士でもあるのです。

また彼女は毒を開発する一方で、「蝶屋敷」と呼ばれる鬼殺隊の救護施設を統括する隊士でもありました。
人、あるいは鬼の身体に影響を及ぼす全ての物質は、使い方次第で毒にも薬にもなる。

鬼の首を落とせるほどの筋力が持てない分、別の方法を模索したしのぶ。結果彼女はこの鬼殺隊という組織で唯一無二の才覚を発揮し、組織全体に大きな貢献をもたらす人物ともなりました。

ですが彼女にとっては、直接的に間違いなく一瞬で鬼を殺すことができる「首を斬る」方法が取れない自分が、圧倒的なコンプレックスであったことは間違いありません。
しかしそれでもしのぶは、鬼殺隊最強である柱の称号を冠する剣士の1人にまで事実上り詰めています。

家庭用ゲーム「鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚」キャラクター紹介映像09・胡蝶しのぶ
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彼女の蟲柱の称号は決して「蝶屋敷を統括する剣士」に与えられたものではありません。その称号は間違いなく「鬼を滅する剣士」として与えられたものです。

なぜ彼女は首が切れないという致命的なコンプレックスを抱えながら、そこまでの地位に上り詰められるほどの実力を得たのか。
それはひとえに愛する家族を鬼に殺された、並々ならぬ復讐心によるものでした。

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鬼を斬れない苦しみと、それを乗り越えた執念

鬼殺隊では身内を鬼に殺され、その復讐心で組織に加入する人間も決して少なくありません。
胡蝶しのぶもまた両親を目の前で鬼に殺され、辛うじて生き延びた姉と共に鬼殺隊に入った人間の内の1人です。
自分たちのように愛する家族を鬼に殺される人を、これ以上増やさないために――その一心で鬼殺隊に入り訓練を重ねた胡蝶姉妹。
結果としてしのぶはもとより、姉・胡蝶カナエも柱を襲名するほどの実力を持つ剣士として、組織に大きく貢献することとなります。
ですが、そんな柱であるカナエを以てしても上弦の鬼を倒すことは叶わず、しのぶはたった独りの肉親だった姉までも、再び目の前で鬼によって喪うこととなりました。

たった独り遺された彼女には、例えそれが死んでいく姉や両親の願いだったとしても。
犠牲になった家族や鬼の存在を忘れ、ひとりのうのうと幸せに生きていく選択肢などはありませんでした。

誰に頼る事なく、まぎれもなく自分自身の手で家族の仇を討つ。それを為すためには、自分の小柄な体格や、鬼を斬れない筋力の無さを言い訳にしている暇はありません。

ですがきっと多くの人が、そんな痛々しいほどに必死な彼女を見て思ったことでしょう。
どれだけ修行を積んでも、どれだけ体力を付けても、元があの小さな体では鬼の首を切る事はきっと到底難しいだろう、と。

テレビアニメ「鬼滅の刃」浅草編 [2021年9月12日(日)夜7時放送]
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ただでさえ鬼殺隊はその過酷な環境ゆえに、圧倒的に男性の隊士が多かったはずです。さらに言えばしのぶ自身の体格は同じ女性隊士の中でも、どちらかと言えば比較的小柄な部類に入ります。

誰あろう彼女を一番に思っていた姉・カナエですら。はっきりと名言こそしませんでしたが、死に際に「しのぶは自分を殺した上弦にはきっと敵わないだろう」と考えていました。

彼女が今日まで鬼殺隊として歩んできた毎日は、常に他者からの「無理だ」「諦めろ」という言葉と隣り合わせだったことでしょう。
そして何よりも、誰あろう彼女自身が自分のどうしようもないディスアドバンテージを、誰よりも身に染みて感じていたのではないかと思います。