「後方へ撃てない戦艦」そもそもなぜ考案? 大和型でも検討された主砲の前部集中配置 実戦投入したら「ヤバ…」

主砲塔の配置を見ると、大和型戦艦やアイオワ級戦艦、長門型戦艦やビスマルク級戦艦とは異なり、ネルソン級戦艦やリシュリュー級戦艦は前部に集中しています。なぜこのように配置され、そして普及しなかったのでしょうか。

最初に試みたのはイギリス

 戦艦の主砲塔は、船体の前後部に分かれているのが一般的です。例えば大和型戦艦やアイオワ級戦艦は、主砲塔が前部に2基、後部に1基、分散配置されています。

 

 その一方、主砲塔を前部に集中させた戦艦も見られます。イギリスのネルソン級戦艦やフランスのダンケルク級戦艦、リシュリュー級戦艦です。普通に考えると、後方に主砲が向けられない主砲配置ですが、不利益はなかったのでしょうか。また、なぜそうした戦艦が生まれたのでしょうか。

 主砲塔の前部集中案が初めて登場するのは、イギリスの計画案「M2」「M3」で、1920(大正9)年のことでした。両者の違いは艦橋を挟んで、連装砲塔が2基ずつあるのか、前部が3連装砲塔2基、後部が1基あるのかということです。基準排水量4万6000~4万8750t、45.7cm主砲、23~23.5ノット(43km/h前後)の計画でした。

 主砲塔を集中させた理由は、主要防御区間の長さを4~5%短縮できる、機関部を後部に集約すれば推進軸を短くでき、機関重量を減らせるというものです。この案に対し、イギリス海軍からは「徹底した集中防御はよいが、非防御区画が長い」などの問題点も指摘されました。

 それでもメリットの方が大きいとしてこの主砲配置を追求し、改良を加え「N3級戦艦」「G3級巡洋戦艦」として建造しようとしましたが、ワシントン海軍軍縮条約の制限で断念。1927(昭和2)年に、排水量を減らしたネルソン級戦艦を建造します。

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浮き彫りになった問題点の数々

 ネルソン級戦艦は基準排水量3万3500t、406mm3連装砲塔3基9門(前甲板集中配置)、23ノット(43km/h)の性能ですが、弾薬庫部の舷側装甲は356mm傾斜、水平装甲は159mmありました。常備排水量3万3800tの長門型戦艦が、410mm連装砲塔4基8門、26.5ノット(49km/h)、舷側装甲305mm(299mm説も)、水平装甲70+75mmですから、徹底した集中防御を採用したネルソン級が防御力では上でした。

 性能では「最強」のネルソン級ですが、問題点も多々ありました。弾薬庫部分の装甲は厚いものの装甲防御範囲が狭く、主砲配置が悪影響して水中防御も弱いこと、特異な船型ゆえ運動性能が劣悪、といった具合です。

 特に運動性は、「問題を起こさぬよう、泊地への入港は最後にする」と配慮されるほどで、タンカー並みでした。主砲塔の集中配備も、後方に向けて発砲した場合、艦の上部構造物や甲板を破損しかねないとして、平時には艦後方への主砲発砲が禁止され、軍令部から「この主砲配置の戦艦は以後なし」と要望されたほどでした。

 ネルソン級は各国に影響を与え、大和型戦艦でも主砲塔集中配置が検討されていますが、結局は通常型が採用されています。

 続いて主砲塔前部集中を行ったのは、フランスが1937(昭和12)年より就役させたダンケルク級戦艦です。基準排水量2万6500t、33cm4連装砲塔2基8門、最大31.5ノット(58.3km/h)の高速戦艦でした。舷側装甲は225+16mm(傾斜)、水平装甲は125+15mmで、排水量から考えると重防御です。

 基準排水量を拡大した2番艦「ストラスブール」ではさらに、舷側装甲が283mm+16mm傾斜となり、36cm砲に対抗できる重防御となっていました。

 ダンケルク級で前部集中配置を採用したのは、既存フランス戦艦では捕捉困難な高速性能を持つ、ドイツのポケット戦艦(280mm砲6門、26ノット〈48.1km/h〉)を追撃するためでした。