モデル末期のスズキ「スイフトスポーツ」なぜMTを継続する? マツダは一気にMT減少!? 「MTあり/なし」それぞれの事情とは

昨今の新車販売はAT車がほとんどで、MT車はわずか1.5%とされています。そんななか、MTをあえて残すモデルも存在。MTを廃止するモデルもありますが、一体どのような事情があるのでしょうか。

MT車が減少するなか、あえて継続するモデルも存在

 今は乗用車の圧倒的多数がAT(オートマチックトランスミッション)を搭載しています。MT(マニュアルトランスミッション)を備えた車両は、新車として売られるクルマの1.5%前後です。
 
 MTが減ってAT比率が増えた背景には、複数の理由があります。
 
 まず1991年にAT限定の運転免許が創設され、AT限定のドライバーはMT車を運転することできないため、MT車の売れ行きが減少しました。

 さらに、1997年にトヨタ初代「プリウス」が発売され、その後ハイブリッド車が広く普及。ホンダ「CR-Z」のようにMTを設定するハイブリッド車もありましたが、売れ行きを伸ばしたトヨタのTHS-IIと呼ばれるハイブリッドには、機能的にMTがありません。

 そのために、ハイブリッド車が普及するほど、MTは少数派になっていきました。今は新車として売られる乗用車の約半数がハイブリッド(マイルドタイプを含む)ですから、MT車が減るのも当然です。

 一方で、AT限定の運転免許に話を戻すと、保有者の比率がAT車の販売比率に匹敵するほど高まったわけではありません。

 運転免許統計によると、最近の普通運転免許取得者のうち、AT限定は72%前後です。つまり残りの28%前後は、MT車も運転できるのです。

 この点も考えると、MT車の販売比率が下がった背景には、MT車の選択肢が過剰に減ったこともあるでしょう。MT車に乗りたいのに、魅力的で価格の求めやすい車種が見当たらず、AT車を選んでいるわけです。

 これを裏付けるのが、スズキ「スイフト」と「スイフトスポーツ」の売れ行きです。

 新型スイフトが登場する前の2023年1月~11月の販売状況を見ると、スイフトスポーツがスイフトシリーズ全体の51%を占めました。そしてスイフトスポーツは6速MTの販売比率が高く、全体の60%前後に達します。

 スイフトスポーツが人気を高めた理由は優れた商品力です。峠道などで運転しやすい軽くてコンパクトなボディに、1.4リッターターボエンジンと熟成された足まわりを搭載しました。

 特に6速MTを駆使すると、上質なスポーティドライブを満喫できて、なおかつ価格は216万4800円(6速MT)と求めやすいです。

 スイフトスポーツは、改良のために2023年に6速MTを廃止しました。それでも約1か月後には復活しています。

 スイフトスポーツは、ベースモデルのスイフトに続いて2024年にもフルモデルチェンジをおこなう可能性が高いでしょう。

 現行のモデルはいわば“末期モデル”だといえますが、改良版でも6速MTを残しています。なぜなら、スイフトスポーツを販売する上で、6速MTは欠かせない存在だからです。

 スズキは、2023年にフルモデルチェンジしたベーシックなスイフトでも、同社のマイルドハイブリッドとしては国内初の5速MTを用意しました。

 スズキ「ジムニー」と「ジムニーシエラ」は、伝統的に5速MTが選べます。

 このほか6速MTは、軽自動車のホンダ「N-ONE」にも用意され、ホンダ「シビック」ではスポーティな「タイプR」だけでなく1.5リッターターボ車でも選択できます。

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マツダは一気に4モデルのMT車を廃止!? なぜ?

 その一方で6速MTを廃止した車種もあります。

 マツダはスポーツカーの「ロードスター」のほか、「マツダ2」と「マツダ3」に6速MTを用意しますが、「CX-3」「CX-30」「CX-5」「マツダ6」については、以前設定のあった6速MTを廃止しました。

 他社ではトヨタ「カローラセダン/ツーリング/スポーツ」の6速MTを廃止。その反面、継続生産型の「カローラアクシオ/フィールダー」には5速MTがあります。

 どのような理由に基づいて、MTを扱っているのでしょうか。

 まず廃止する理由はシンプルで、売れ行きが低調だからです。スポーツモデルを除くと、MTの販売比率は大半の車種が10%以下です。それでも1か月に1万台売れる車種の5%であれば500台ですが、1か月に1000台の5%では50台に過ぎません。「その車種の販売総数×販売比率」で、売れ行きが低迷すると廃止されるといえます。

 例えばマツダ6は、2023年の1か月平均販売台数が約200台でした。MTの販売比率は10%以下でしたから、MT車を用意しても1か月に20台程度しか売れません。これでは商品として成り立たず廃止されました。

 逆にトヨタ「ヤリス」は、SUVの「ヤリスクロス」やスポーツモデルの「GRヤリス」を除くと1か月平均で約7800台が登録されています。

 GRヤリスはもちろんですが、通常のヤリスにもMTが設定されていて、MTの販売比率が5%だったとしても390台が販売されるため、商品として成り立ちやすいです。

 新型車などにMTを設定する理由もさまざまです。最も分かりやすいのは、スイフトスポーツのように運転する楽しさを重視した車種です。

 シフトレバーとクラッチペダルを操作する変速も、運転を楽しむ要素に含まれてMTが設定されました。

 ヤリスは、それまでの「ヴィッツ」に比べて、商品力を高めることを狙って開発。実用的で安価なコンパクトカーではなく、運転感覚の楽しい上質なクルマを目指したのです。

 そして販売台数も多いため、6速MTが用意されました。

 トヨタの販売店では、観点の異なる話も聞かれました。

「昔からMT車に乗ってきたベテランのお客さまは、今でもMT車が運転しやすいと言います。カローラアクシオやフィールダーを買うのは主に法人のお客さまですが、それでも時々5速MTを希望されます」

 スイフトの開発者は以下のようにコメントしました。

「新型スイフトでは、中級グレードの(マイルド)ハイブリッドMXに、5速MTを用意しました。これは燃費対策です。

 5速MTのWLTCモード燃費が25.4km/Lと優れているからです」

 スイフトは全般的に燃費が優れていますが、マイルドハイブリッドのCVT(無段変速AT)は24.5km/Lで、5速MTは前述の25.4km/Lです。走りが楽しいということに加え、燃費性能を向上させるためのMTというわけなのです。

※ ※ ※

 MTを設定する車種には、何らかのニーズがあります。スポーツモデルだからMTを設定することで運転の楽しさが一層高まる、ユーザーがMTに慣れているからATでは不安が伴う、MTならば燃費性能を向上させられる(ただしCVTの方が燃費の優れた車種も多いです)、という具合です。

 逆にこれらのニーズのないMT車、あるいは販売台数の極端に少ないMT車は廃止されます。

 なお、MTには、急発進事故を発生させにくい特徴もあります。

 ATは運転しやすい代わりに、アクセルペダルを深く踏むだけで急発進しますが、MTでは通常の発進をする時でも、アクセルペダルとクラッチペダルを複合的に上手く操作することが求められます。

 急発進させるには相当なテクニックが求められ、運転ミスに基づく急発進はほとんど考えられません。

 以前はステアリング操作に集中できるAT車がMT車よりも安全といわれましたが、今のように急発進事故が増えると、逆のことも考えられるでしょう。

 頭や体が衰えて運転の適性に欠けると、シフトレバー/クラッチ/アクセルの操作に戸惑って、車両を発進できなくなるからです。クルマに乗る度に、MTの正確な操作と発進という、適性テストを受けることになるわけです。