現在新車で購入可能なクルマの多くは、走行モードを切り替えるスイッチが備わっています。メーカーや車種によって多少表現は異なるものの、「スポーツ」「ノーマル」「エコ」の3段階となっていることが多いようです。なぜそのような機能が一般的となったのでしょうか。
昔は細かく決められなかった走りの特性だけど…いまは「走行モード」で自由自在?
近年登場するクルマの多くには、走行モードを変更できる機能が備わっています。
なぜそのような機能が一般的となったのでしょうか。
現在新車で購入可能なクルマの多くは、走行モードを切り替えるスイッチが備わっています。
メーカーや車種によって多少表現は異なるものの、「スポーツ」「ノーマル」「エコ」の3段階となっていることが多いようです。
たとえば、走行モードを「スポーツ」にするとアクセルのレスポンスが良くなり加速性能が増したり、メーター類の表示がスポーティなものになったりすることで、スポーツカーらしい雰囲気を演出します。
一方の「エコ」では、アクセルレスポンスやエアコンの強さを制限することで燃費の向上を図ります。
こうした走行モードの変更ができる機能は、SUVやミニバン、軽自動車など、クルマのカテゴリーを問わず多くのクルマに搭載されています。
かつては、シフトレバー横にある「O/Dボタン」でシフトを調整することで加速度合いを変更するものがありましたが、近年では走りの特性を変える機能が定番化されましたが、なぜなのでしょうか。
その大きな理由のひとつが、クルマが「電子化」したことにあります。
かつてと比べて、現代のクルマはさまざまな部分で電子制御が行われており、誤解を恐れず言えば、ドライバーの操作がそのままクルマの動きに反映されているわけではありません。
ドライバーが行なったアクセルやステアリングの操作は、複数の電子制御を介してエンジンやタイヤへと伝わります。
そして、その制御プログラムを変更することで、ドライバーとクルマの関係に変化を生じさせることができるようになります。
ちなみに、世界で初めて電子制御による走行モードの変更機能を搭載したのは、1989年に登場したトヨタ「セリカ」とされています。
このセリカに搭載される「デュアルモード4WS」は、前輪と後輪の操舵角を車速に合わせて電子制御することにより、小気味よいハンドリングと優れた高速安定性を実現しています。
その後、電子制御技術が進化したことで、現在では多くのクルマで走行モードの変更機能が搭載されるようになりました。
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走行モードの変更はいつ使うの?
一方、走行モードの変更機能が搭載されるようになった背景には、クルマのつくり方そのものが変化したという事情もあります。
2000年代前半ころまでは、多くの自動車メーカーが「多品種少量生産」という手法で、さまざまな市場のニーズに合わせたさまざまなクルマを開発・生産していました。
しかし、新興国市場が台頭したことなどで世界のユーザーのニーズはより複雑化し、「多品種少量生産」には限界が見られるようになりました。
そうした背景のなかで、自動車メーカー各社は少数のプラットフォームから複数のモデルを生み出す「プラットフォーム戦略」を採用しました。
そして、それらのモデルの多くを「グローバルモデル」としてさまざまな市場で販売するようになりました。
こうしたクルマのつくり方のメリットは大きい一方で、各モデルの味付けの違いを生み出しにくいというデメリットもあり、特にプラットフォームやパワートレインを共有しているクルマでは、「走り」の部分での差別化を図るのが難しい側面があります。
一方、走行モードを変更できる機能を搭載することで、ひとつのクルマに複数の性格を持たせることが可能となります。
もちろん、走行モードの変更ができると言っても、クルマそのものの性能を超えることはできません。
しかし、よりスポーティな走りを求めるユーザーとより燃費性能を求めるユーザーという、相反する2つのニーズを1台のクルマでまかなえるという意味では、非常に大きなメリットがあります。
実際のユーザーからは「家族のためにミニバンを買ったけど、走行モードが変えられるので1人の時はスポーツモードで走ってる」や「高速道路走るときはスポーツモードで気持ちよく走りたい」という声が聞かれました。
また、とある自動車メーカーの担当者は「走行モードが選べることで、例えばミニバンに乗っていても山道などでスポーティな走りをしたいというニーズに応えられます。また日常的には燃費を意識した走りにも出来るなどお客様の使う場面で変えられます」と話しています。
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一部の高級車やスーパースポーツカーでは、ステアリングやサスペンションにも制御が入るため、走行モードの変更によってクルマの性格も大きく変わる場合もあります。
また、各部分の設定を自分の好みに合わせて細かく変更することも可能です。
今後、クルマの電子制御技術がさらに進化すれば、一部の高級車やスーパースポーツカー以外でも、よりさまざまな種類の走行モードの変更も可能となりそうです。