ミニバンの多くが、後席の乗降用としてスライドドアを採用しています。しかし以前のミニバンでは、左側にしかスライドドアがありませんでした。その理由を探ります。
1990年代までは「片側スライドドア」がむしろ常識だった!?
多人数乗車が可能で、荷物も多く積めるミニバン。その多くには、スライド式のリアドアが備わっています。
しかもスライドドアは左右両側に装着されていますが、少し前まではそれが「当たり前」ではありませんでした。
狭い場所での乗り降りがしやすく、3列目シートへの乗降も容易なため、後席のスライドドアは子育て中のファミリーにも好評です。
しかし、2000年頃までのスライドドア式ミニバンや、その前身であるワンボックスワゴンの多くでは、スライドドアは左側にしか付いていませんでした。
トヨタ「エスティマ」(初代・1990年)、日産「セレナ(バネット・セレナ)」(初代・1991年)、トヨタ「ノア(ライトエース・ノア/タウンエース・ノア)」(初代・1996年)、ホンダ「ステップワゴン」(初代・1996年)や日産 「エルグランド」(初代・1997年)などでも、スライドドアは左側のみというのが当たり前でした。
ではなぜ、以前のミニバンでは、片側スライドドアだったのでしょうか。
まずは、ボディ剛性の問題です。
ミニバンは、ただでさえ大きな箱型のボディで、セダン車などに比べると強度を保つことが大変なところに、スライドドアやリアゲートなどの設置にも大きな開口部を必要とします。
一方で乗用車のような操縦性を得るためには、ボディ剛性の確保も大切でした。
しかし当時の技術では、剛性を保ちつつ両側にスライドドアを備えることは容易ではなかったようです。
さらにドア開閉機構の追加、開口部の剛性アップのための車体補強追加などによって、車重のアップも避けられませんでした。
安全面でも、右側スライドドアでは憂慮することがありました。
日本は左側通行のため、クルマやバイク・自転車などが車道を走る右側ドアからの乗り降りは、危険を伴うことがあります。
しかも小さな子供を乗せる機会が多いミニバンでは、なおのことでした。
とはいえ、乗用に使うミニバンで片側スライドドアが不便なのは間違いがなく、1999年登場の2代目セレナでは、日本のミニバンで初めて両側スライドドアを装備しました。
2001年に登場した2代目ステップワゴンが“片側”の最後となり、以降に発表されたミニバンはほぼ例外なく両側スライドドア装備へ移行しています。
今ではヒンジ式ドアの国産ミニバンも消滅し、ミニバンイコール両側スライドドア、という図式が定着しています。
両側スライドドアを可能としたのは、素材・設計など多岐にわたる技術の進歩によるもの。
車重の増加に対しても、高出力と低燃費を両立するパワートレインが続々と開発されて対応が進み、現在では軽スーパーハイトワゴンも含め、重量がかさむ両側電動スライドドアの装着さえも一般的となりました。
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日本初のスライドドアは商用車から始まった
ところで、日本ではいつからスライドドアが使われるようになったのでしょう。
日本初のスライドドア装着車は、1964年発売の日産「ダットサン キャブライト ライトバン」でした。
当時の商用ライトバンやルートバンでは、リアドアは小さく、開閉方法もヒンジ式だっただけに、狭い場所で荷物の積み下ろしをするような場面でダットサン キャブライトのスライドドアは強みを発揮し、その便利さに注目が集まりました。
同車の登場後は、日産「キャブオール ライトバン」(2代目・1966年)、マツダ「ボンゴ バン」(初代・1966年)、トヨタ「ハイエース」(初代・1968年/ただし一部モデルはヒンジ式)、ダイハツ「ハイゼット スライドバン」(初代・1972年)などが相次いでスライドドアを採用しました。
やがて商用ワンボックスバンのほとんどが、スライドドアを持つようになりましたが、その多くが左側のみの片側スライドドアでした。
その頃に続々と登場したのが、現在のミニバンの前身であるワンボックスワゴンです。
トヨタの「ハイエースワゴン」をはじめ、日産「キャラバンコーチ」、三菱「デリカスターワゴン」など、3列シートを備えた豪華仕様が1970年代後半から1980年代にかけて各社から誕生していますが、その多くが商用バンと車体を共用していたのです。
バンボディと共有したことで、乗用ワゴン仕様でも片側スライドドアが主流でしたが、それは当然のように受け止められていました。
初代エスティマなど、初期のスライドドア式ミニバンが片側スライドドアだけだったのは、その名残といえるものです。
なお商用バンの片側スライドドアは、現在ではハイエースの一部に残るのみで、ほとんどが両側スライドドアを備えています。
ちなみに軽自動車で両側スライドドアを初装備したのは、前述の初代ハイゼット スライドバンです。
それ以降現在に至るまで、ほとんどの軽ワンボックス車は早くから両側スライドドアを持っていたのは興味深いところです。
混みあった街中で素早く小口配達を行うため、運転席を降りてすぐにアクセスできる右側のスライドドアは重宝されたことでしょう。
※ ※ ※
最後に、これはスライドドアの話から脱線するのですが、国産乗用車で右側にリアドアがない例は他にもあります。代表的なのはスズキ「ワゴンR」(初代・1993年)です。
ヒンジ式のリアドアが左側のみに備わっていたのは、コストを抑えるためという理由も含まれているでしょうが、さすがに利便性に劣るためか、のちに右リアドアが追加されています。
両側スライドドア仕様の派生モデル「ワゴンR スマイル」すら登場している現在のワゴンRからは、想像もできないところです。
これもまた、当時のワンボックスワゴンやミニバンは「片側ドアで当然」という時代の常識を反映していたといえるでしょう。