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三浦大知、ミセス 大森元貴、King Gnu 井口理…自在なハイトーンで魅了するボーカリストたち

Real Sound

三浦大知「Sheep」

 12月になり、Spotifyから“Spotifyまとめ”のお知らせが届くと「今年もそろそろ終わりだな」と思うのが、ここ数年の筆者の師走である。

 本稿では、今年印象的な活躍を見せたアーティストの中から、ハイトーンボーカルが特徴的な男性アーティストの楽曲を振り返り、それぞれの魅力について考えていきたい。一般的には、綺麗に高音が出ているボーカリストの声が“ハイトーンボーカル”と括られていると思うが、実のところそのアプローチは多彩である。レンジが広くて高音まで地声で出るタイプ、もともとのキーが高く高音を軸にして歌うタイプ、ファルセットのパターンが豊富なタイプ、もともとの声質がクリアで高音に向いているタイプ……など数え上げたらきりがない。ここでは、あくまで“高音=ハイトーン”が得意なアーティストという大きな括りで語っていきたい。

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 まずは、年末の『第74回NHK紅白歌合戦』への初出場を決めたMrs. GREEN APPLEの大森元貴(Vo/Gt)。本年4月にデジタルシングルとしてリリースされ、ドラマ『日曜の夜ぐらいは…』(テレビ朝日系)主題歌、そしてSpotifyのブランドCMソングにも起用された「ケセラセラ」はSpotifyで430万回再生を突破(12月10日現在)。もともとのキーが高い大森のボーカルは、例えば、中高音~中低音をメインにメロディが構成されたパートでも、ハイトーンを聴いているような印象がある。これは大森の声質、さらに母音を意識して綺麗に発声しているからだと思う。「ケセラセラ」はサビ始まりの曲だが、最初のブロックですでに大森の個性が発揮されている。特に“あ行”の母音のコントロールでは、抜けを作ったりファルセットを使うなど、フレーズや音階に合わせてボーカリゼーションを変えながら歌っているのがわかる。〈楽になるしかない〉の〈ない〉での“あ”の音階の変化で聴かせる、ロングトーンの転がるような軽快な歌い方は、曲名も相まって七転び八起き的なイメージを想起させるが、「転がっても大丈夫」と思えるのは大森のブライトな声質によるものが大きいだろう。

 ミセス同様に今年の『紅白』に初出場を決めたキタニタツヤにも注目したい。2011年から音楽活動をスタートさせた彼は、バンドからボカロPを経て、シンガーソングライターになった経歴を持つ。2020年にキタニタツヤ名義でメジャーデビューして以降は、ハイペースで楽曲を発表。TVアニメ『呪術廻戦』第2期「懐玉・玉折」(MBS/TBS系)のオープニングテーマ「青のすみか」で一気にその名が全国区となった。「青のすみか」は、邦ロック的なバンドサウンドとメロディから、ボカロPらしい譜割りとリズム感のサビになっていく大胆な構成の曲だと思う。Aメロ・Bメロとサビでボーカルのアプローチも変わるが、キタニはサビ前最後にあえてファルセットを使い、さらに〈今でも〉という曲の中でも特に細かい譜割りをバースにして、曲調の違いをドラマティックなストーリーに昇華している。サビでは、同じ音階の高い音を地声/ファルセットで使い分けていたり、母音のトーンの途中から喉を開いて声量を変えるテクニックを見せている。リズム重視のサビでも伸びやかなボーカルが印象に残るのは、キタニが自身のレンジや声質を熟知した上で、メロディに合わせて効果的に異なる高音のアプローチを配置しているからだと考える。

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 アニメつながりで『呪術廻戦』第2期「渋谷事変」のオープニングテーマ「SPECIALZ」を担当したKing Gnuにも触れておきたい。King Gnuの登場は、これまでの音楽シーン、邦楽ロックシーンの常識を覆した。特に井口理(Vo/Key)のクリアなファルセットや高音歌唱は、今やKing Gnuの名刺代わりになっていると言えるだろう。今年9月公開の映画『ミステリと言う勿れ』主題歌の「硝子窓」は、井口のボールでなければ成立しない1曲だ。流麗だがクセのあるバックトラック、独特なメロディによって、聴き手が想像している音程から絶妙に外してくるラインが随所に見られ、メロディをなぞるだけでも歌唱の難易度の高さがよくわかる。だが井口は、音程やリズムに安定感のある楽器のような歌声でメロディを乗りこなしており、どんな音域でもリラックスして声を出しているように感じる。加えて井口のすごいところは、その表現力だ。「硝子窓」の前半、ファルセットが続く中で、吐く息と吸う息のコントロールで醸し出すニュアンスの多彩さは、King Gnuの前衛的な楽曲をJ-POPにする魔法だ。中盤以降決して歌い上げるスタイルではないが、地声の高音のトーンを一定にしてしっかりスケール感を残すあたりもさすがである。

 次に取り上げるのは、男女ツインボーカルを擁する6人組バンド Penthouseの浪岡真太郎(Vo/Gt)である。各サブスクリプション音楽配信サービスが独自の視点でトレンド曲をまとめたプレイリストの常連でもあるPenthouse。2023年12月上旬現在、Spotifyでは「City Pop: シティ・ポップの今」「Soul Music Japan」「都会の空と音楽と」「夕方ジェネレーション」など、実に多くのプレイリストに名を連ねている。これは、そのまま彼らの音楽性の幅広さ、並びに彼らが多様なニーズにマッチしたサウンド作りをしている証拠と言っていいだろう。浪岡のハイトーンは、ソウルというよりもハードロックのシャウトに近く、ミックスボイスのような迫力がある。中低音~中高音では綺麗な声で聴かせることもあるが、高音になると地声自体が骨太になるのも特徴的だ。「アイデンティファイ」は軽快で洒脱なファンクナンバーだが、高音のロングトーンでも綺麗に抜けるように歌っている部分があり、ボーカリストとしての幅を広げようとしている姿が窺える。浪岡はバンドのSNSで邦楽のトレンド曲を英詞にしてカバーする動画を定期的に投稿しているが、ジャンルを問わずチョイスする楽曲、そして訳詞に、日本語と英語の語感を飛び越えようとする意欲とボーカリストとしての探求心を感じる。

 最後は、最新曲「Sheep」でハイトーンの域を超越したハイトーンを聴かせている三浦大知に触れたい。三浦大知はスキルの宝庫だ。歌、ダンスに加え、ピアノ、ギターを弾き語り、ドラムを叩きながらの歌唱、さらにはAbleton Pushを駆使したパフォーマンスと、長い活動の中でそのスキルは増え続けている。彼のルーツの根本はブラックミュージックだと思うが、リズムやメロディに対してのボーカルアプローチが実に多角的だ。スキルを研磨し続けることで、新たなスキルを開拓している。2024年1月24日に発売される7thアルバム『OVER』から、11月15日にデジタルシングルとして先行配信された「Sheep」は、前述した“自己開拓”の象徴のような1曲。かなり攻めた革命的な曲だが、軸にあるのはあくまで三浦のボーカルである。エレクトロニカ色が強く音数の少ないバックトラックに、歌い出しから高音をメインにした三浦のボーカルが漂うように進行。1曲を通してほとんどファルセットで歌い、短いフレーズを繰り返しながら、さらに高音へと移行していくなど、三浦のスキルが強烈なフックとなっており中毒性も高い。曲によりいろいろな声を使い分けることができるのも真骨頂だが、「Sheep」では、三浦の柔らかく芯のある高音の魅力が改めてよくわかる。

 2023年もさまざまな楽曲に心を揺さぶられたが、音楽のスタイルがますます多様になっていく中で、こうした圧倒的な歌唱力で聴き手の心を掴む楽曲が音楽シーンを盛り上げているのは素晴らしいことだ。2024年はどんな音楽に心を揺さぶられるのか、楽しみでならない。

(文=伊藤亜希)

 
   

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