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うつ病は気分障がいの一種だ。発症の原因は正確にはわかっていないが、感情や意欲を司る脳の働きに何らかの不調が生じているものと考えられている。
新たに報告された研究によると、うつ病は視覚にも影響を及ぼすそうで、世界の見え方まで変わってしまうのだそうだ。
うつ病の人に錯視を見てもらう実験
まずは次の錯視を引き起こす画像を見てもらおう。画像は、同じ明るさとコントラスト(色彩の差異)の四角を異なる背景に重ねたものだ。

credit:Salmela et al, J. Psychiatry Neurosci., 2021
普通の人の場合、AとBは、中央の明るさはまったく同じだが、背景が異なるため、Aの方が明るく見える。
CとDは、まったく同じコントラストだが、縦縞の背景に置かれたCの方がコントラストが低く見える。
うつ病患者は大脳皮質の処理が変化する
フィンランド、ヘルシンキ大学の心理学者ビルヤミ・サルメラ氏によると、うつ病患者は普通の人とは画像が少し違って見えるのだという。
明るさの見え方は普通の人とあまり変わらないが、コントラストについては見え方が違ってくるのだという。
じつはAとBは網膜の処理に関係している。一方、CとBは大脳皮質での処理に関係している。だから可能性としては、うつ病になると、脳におけるコントラストの処理に変化があると考えられる。
『Journal of Psychiatry & Neuroscience』(2021年3月11日付)に掲載された研究では、次のように述べられている。
コントラストの抑制(訳註 CとDの画像)は、固有の方向を持っており、皮質によって処理される。我々の結果は、大うつ病の患者は、網膜での処理は正常だが、皮質でのコントラスト正規化が変化していることを示唆している

credit:Salmela et al, J. Psychiatry Neurosci., 2021
心の病気と世界の認識
このようなうつ病と脳の視覚処理とに不思議な関係があることが判明したのは初めてではない。また同じようなことが、双極性障害、境界性パーソナリティ障害、統合失調症の人にも見られるという。
こうした事実は、重い精神疾患になると、目と脳によって外の世界を認識するプロセスに何らかの変化があることを示しているそうだ。
もし心に異変を感じたら、普通の人と同じように錯視(特にコントラスト系のもの)が見えるかどうかを試してみるといいかもしれない。
References:Depression affects visual perception | University of Helsinki/ written by hiroching / edited by parumo