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【あの頃のロマンポルノ】第5回 日本映画批評「実録 阿部定」その2

キネマ旬報WEB

今年2021年に、日活ロマンポルノは生誕50年の節目の年をむかえました。それを記念して、ロマンポルノの魅力を様々な角度から掘り下げる定期連載記事を、キネマ旬報WEBとロマンポルノ公式サイトにて同時配信いたします。「キネマ旬報」に過去掲載された、よりすぐりの記事を「キネマ旬報WEB」にて連載していく特別企画「あの頃のロマンポルノ」。

今回は、ロマンポルノ作品として1975年第49回「キネマ旬報ベスト・テン」の日本映画第10位に選ばれた『実録 阿部定』をピックアップ。1975年3月下旬号より、斎藤正治氏による映画評を転載いたします。

1919年に創刊され100年以上の歴史を持つ「キネマ旬報」の過去の記事を読める貴重なこの機会をお見逃しなく!

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 そこには息のせめぎ合いと、肉のきしみだけがある。外光を遮断した二人だけの密室は外にあるだろうもろもろの事象をすべて消去して、存在した。

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 田中登は、方法としてよく使う花とかの事物の画面への投入や歌謡曲の挿入すらも、自ら拒んで、ひたすら男と女の純粋世界だけを描くのである。すべてを消去することで、逆に時代を透視する。

 この作品に触れて田中登は書いていた。
「時代は旧いニュース・フイルムの挿入程度では到底説明しきれるものではない」(「シナリオ」75・3『いずこに妨碍う“血文字お定”』)

 「お定」事件は戒厳令下の出来事だった。雪と鉄砲の二・二六事件の座標のなかで、「お定」はみつめられるという不幸を背負わされてきた。天下を騒がせた叛乱事件に対応させることで、この醜聞は際立てられてきたのである。

 しかしこの相惚れの男女の至福な時空は、誰はばからない、二人だけの世界を構築、独自に存在してこそ、彼らの時代を獲得できるものだ、と田中は主張しているようである。

 事件との関連はラジオばかり。放送を聞いている時さえ、吉蔵はお定のお尻をなぜていた。二人の世界である旅館の部屋が、外光にさらされるのは、男が外出して、女が待ちわびている時間だけだ。雨戸をあけて見えるのは、無言の公用兵隊の数人の隊列と、道を掃除する女性以外なにもない。たとえ往来に、騒々しいお喋りがあったとしても、お定には言葉がないも同じだろう。彼女は吉蔵との肉の交わりを通してだけ、言語を持っていたのだから。

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