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ワイドショーをもにぎわす男。大谷翔平の訴求力/石田雄太の閃球眼

週刊ベースボールONLINE


連日ワイドショーでもエンゼルスの大谷翔平の動向が報じられている

 4月半ばにアメリカから帰国して何に驚いたかといえば、連日、大谷翔平の話題を取り上げるワイドショーの騒ぎっぷりだった。

 メジャー初安打、メジャー初勝利、メジャー初ホームラン、2試合連続ホームラン、3試合連続ホームラン、7回ワンアウトまでのパーフェクトピッチングで2勝目と、グングン、グングン、右肩上がりに示した結果に加えて、サイレント・トリートメントで見せた大谷の子どものような無邪気な表情が、普段、野球に関心のない層を取り込んだのだろう。

 近年、この国におけるスポーツの国民的関心事とは、女性層、とくに主婦層を取り込んだときに成立する仕組みになっている。野球でいうならWBC、サッカーのワールドカップ、オリンピックはもちろん、羽生結弦のフィギュアスケート……メジャー・リーガーの大谷はそういう枠の中に入ったということだ。ファイターズでプレーしていたときの大谷も十分、その枠にいたと思っていたが、まだまだだったということか。

 ただ、それは野球にとってはありがたい話だと思う。野球に限らず、昭和の時代と違って何事においても“関心がある人”と“関心のない人”の二極化が進んでいるこのご時世。とりわけ野球はその二極化が深刻だった。地上波で巨人戦が毎晩、当たり前のように生中継されていたのは15年ほど前までのこと。これをつい最近と取るか、ずいぶん昔と取るかは微妙な年月になってきてしまったが、いずれにしてもプロ野球が好きな人はもちろん、嫌いな人もプロ野球の生中継のせいで好きなテレビ番組が見られなくなるといった具合に、当時はプロ野球の存在そのものを誰もが強く意識していた。プロ野球に関心のない人は極端に少なく、好きも嫌いも含めて、野球ネタが国民的関心事になりやすい土壌があった。

 しかし、今や野球好きなら誰もが知っているスタープレーヤーであったとしても、日本中の人が知ってるかと言われるとクエスチョンマークがついてしまう現状は否めない。そしてそういう垣根を取っ払うことができる選手は、ごくごく限られている。そこになかなか気づけないのは、目の前の球場がそれなりに賑わっているからだ。日本のプロ野球は、ジャイアンツやホークスが目指してきた世界戦略ではなく、国内のローカルマーケットを狙う戦略に舵を切った。それは残念ながらコミッショナーがNPBとして打ち出した方針ではなく、一部の球団が地元密着を狙った戦術が功を奏して、あとに続く球団が増えたという結果論に過ぎない。そして、もはやその方向転換は不可能な状況となっている。

 それを悪いとは言わない。

 12球団が、それぞれ地元に密着して、それなりのマーケットの中で黒字を出す。フランチャイズ制を敷くプロ野球の、これが今の時代、目指すべき姿なのかもしれない。しかし、そういう規模のビジネスでは年俸が5億円、10億円という選手とはとても契約できなくなる。結果、MLBがそれだけの価値があると評価した選手はメジャーへ流出する。いつぞや、やがて日本はメジャーの草刈り場になると不安視していた声が現実となり、むしろ今や、トッププレーヤーがメジャーを目指すのは当たり前になっている。

 ダルビッシュ有、田中将大、前田健太ら各球団のエースはそれぞれのファンから気持ちよく送り出され、今年、メジャーに移籍した平野佳寿、牧田和久、そして大谷のことも、在籍していた球団のファンは、誰も裏切り者扱いなどしない。松井秀喜や上原浩治が後ろめたい思いを抱えてメジャーへ挑んだころとは世の中の反応があまりにも違う。

 かつて、野茂英雄はベンチから見る憧れていたメジャー・リーガーに目を輝かせ、同じ選手だというのに「ダグアウトは特等席だ」と言っていた。イチローは初めて対戦するメジャー・リーガーにお願いして、サインボールをもらって家に飾っていた。そういう無邪気さが、いつしか活躍して当たり前の責任感に変わり、日本人メジャー・リーガーの顔つきが険しくなっていったような気がする。しかし、大谷は勝っても負けても、打っても打てなくても、楽しそうに見える。だから野球のロジックに染まっていない人たちへの訴求力があるのではないか。

おらがチームで育った、一番の選手がメジャーに挑む。そこで活躍してくれれば、ファンにとっても喜ばしいことだという発想が、この国の野球好きの主流となってきた。そして、そうした舞台に立つ飛び抜けた日本人メジャー・リーガーが、普段、野球の関心のない層に野球のおもしろさを訴えかけてくれるなら、それに越したことはない。

文=石田雄太 写真=GettyImages

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