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岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち血の付いた包帯に催涙弾、議事堂は戦場だった

J-CASTニュース

占拠・乱入事件の起きた米議会議事堂前にいて、忘れられないのが、人々が高らかに米国歌を歌うのを聴きながら、涙をこらえていた女性の姿だった。

「なぜ、泣いているの?」と声をかける私に女性は声を振り絞り、「怒りとか、いろいろな思いが込み上げてきたの。どうして、こんな事態にならなければならなかったの? 議事堂の中では、ここでは想像できないことが起きている」と言うと、泣き崩れた。

大統領の呼びかけの前に議事堂に向かった支持者

2021年1月6日、米大統領選の「不正」に抗議するトランプ支持者の大規模集会と議事堂への行進が、首都ワシントンで行われた。5日からワシントン入りし、彼らとともに行動した。

1月9日公開の記事「穏やかな行進の後、あの議事堂占拠事件は起きた」、そして1月10日公開の「『この国のために戦う』と議事堂に向かった支持者」に引き続き今回は、日本ではあまり報道されていないと思われる議事堂の内部ではなく、敷地内での様子を中心に伝える。

大規模集会は、ワシントン記念塔近くの広場に設置された会場で行われた。トランプ大統領は演説の最後で何度か、議事堂までの行進について触れたが、多くの人々は彼が言い出す前に、すでに歩いて20分ほどの距離にある議事堂に向かって歩き始めていた。

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その1人クリス(69)は、失業中だというのに自腹で、列車とバスを乗り継ぎ、2日間かけてカリフォルニア州から米大陸を横断してきた。

「トランプが集会で、僕たちを行進に駆り立てたんじゃない。前から予定されていたことだ。風が強く、寒くて震えていたし、僕はトランプの話を聞きに来たんじゃない。州ごとの選挙人団の投票の結果をまさに認定しようとしている議事堂まで行進することによって、僕たちの票を盗んだことを訴えたかったんだ」

私が高い場所に登って写真を撮っていると、行進する人たちが何人も、見上げて笑顔で手を振ってきた。

「議事堂の中では、想像できないことが起きている」

私が議事堂に到着した時には、すでにトランプ支持者たちが議事堂の建物の外側を占領し、敷地内は支持者でびっしりと埋まっていた。あちこちで「TRUMP 2020」や星条旗の大旗が翻っている。

「We, the people!」「USA!」などと声をあげ、皆で高らかに「星条旗よ、永遠なれ」や「アメイジング・グレイス」を歌い、歌い終わると、歓声がわき、鳴り物が響き渡った。声は大きいが平和的な雰囲気で、携帯を手に笑顔で撮影していた。

20代くらいの白人女性は、「ここにみんなと一緒にいることができて、とても嬉しい。信じられない経験だわ」と喜びを隠せない様子で話す。独立戦争の頃のコスチュームを着た男性が、太鼓を叩いて歩き回っている。

ほとんどの人は、毛糸帽にパーカー、ジーンズに厚手のジャケットというごく普通の服装だったが、中にはヘルメットに防弾服と、完全武装した武装組織「ミリシア」のメンバーたちもいた。

そのうちの1人は、ノースカロライナ州に住む元陸軍軍人で、「自分たちの国を取り戻すために、戦いの準備はある」と私に言った。

やがて、「議事堂の中に支持者の一部が侵入し、警官との間で混乱が起きているらしい」との情報が伝わってきた。あまりの人の多さで携帯は繋がらず、中で何が起きているのか、SNSなどで確認することができない。

人々が高らかに米国歌を歌うのを聴きながら、私の前の女性が涙をこらえている。「なぜ、泣いているの?」と声をかける私に女性は声を振り絞り、「怒りとか、いろいろな思いが込み上げてきたの。ここにいることを、誇りに感じてもいるわ。でも、建物の中の様子を見たのよ。どうして、こんな事態にならなければならなかったの? 私たちの声に耳を傾けてもらうために、こんなことをしなければならないなんて。議事堂の中では、ここでは想像できないことが起きている」と言うと、泣き崩れた。

催涙弾で目を痛めて苦しんでいる人、血が滲んだ包帯を頭に巻いた人、横になった状態で運び出されてくる人などが増え始める。突然、戦場の最前線にいるような緊張感が広がった。

建物の中から出てきた男性が、「俺たちは数で負けている。武装したやつ、中に入ってくれ!」と声をかける。ごく普通の格好の20代くらいの女性が、上がっていこうとしたので、男性が止めたが、「私も戦う!」と駆け上がっていった。

「アンティファ」が紛れ込んでいたのか、真相は不明

やがて、外にいた私たちも、警官に浴びせられる催涙弾で息苦しくなると、あちこちから「建物から離れろ!」「子供と女性を先に敷地の外に出せ!」と叫ぶ声が聞こえた。「州兵が鎮圧にやってくるらしい」との情報も流れてきた。

時々、私の携帯が繋がるようで、ニューヨークやカリフォルニアに住む友人知人から、安否を問うメッセージが、途切れ途切れに画面に現れる。

「ワシントンのミュリエル・バウザー市長が、その日午後6時から7日午前6時までの外出禁止令を発令した」との緊急警報が、繰り返し画面に表示された。

議会議事堂の内部から手榴弾の音が聞こえ、その閃光が議事堂をパッと明るく激しく照らす。

議事堂の敷地内に入った人は、大規模抗議集会から行進した支持者の一部だ。敷地内に入った支持者のうち、さらに内部に侵入したのはごく一部だ。

ガラスを割ろうとした人に向かって、周りにいた支持者たちが「アンティファ!」「アンティファ!」と叫び、トランプ支持の赤い帽子を被った男性がその人を取り抑える場面は、後で動画で見た。

トランプ大統領を激しく非難し、人種差別などに抗議する左派の運動組織「アンティファ」のメンバーが紛れ込んでいたというのは「フェイク・ニュース」だとの報道もあるが、関与を疑わせる画像や情報もあり、それはこれから明らかになるかもしれない。

「あんなことをして、僕たちは何を手に入れたんだ?」

先に触れたカリフォルニア州から列車とバスでやってきたクリスは、議事堂まで行進してきた。しかし、建物内部に乱入した人たちがいると知り、その場を立ち去ったという。そして、後から議事堂に向かってくる人たちに、「建物の中には乱入しないでくれ」と声をかけた。

「マスコミはこの事件を、トランプのせいにする。僕たちは責任ある大人だ。自分たちの意志で、行動したことだ。トランプを責めるのは、おかしい。法を犯してはいけない。あんなことをして、僕たちは何を手に入れたんだ? 『トランプ支持者はケダモノだ』とマスコミに書き立てられ、ますます見下されるだけだ。そして、現にそうなってしまった」

トランプ支持者たちは、大統領選に「不正」があったと固く信じて疑わない。

前々回の記事で触れた、1月5日の集会で出会ったアラバマ州のアマンダは、「公正な選挙でバイデンが大統領に選ばれるのなら、私はそれを尊重し、私の大統領としてもちろん、支持する。でも、勝利したのは、トランプ大統領。不正の証拠はいくらでもあるのに、マスコミも司法もトランプを引きずり落とすために、手を組んでいる。なぜ真実が見えないのか」と訴えていた。

議事堂の敷地内にいた高齢の男性が、私につぶやいた。

「これまで不正をずっと訴え続けてきた。法的手段にも出た。でもすべての道は閉ざされてしまった」

彼らは一体、ワシントンで何をしたかったのか。大統領選挙の不正をいくら地元で叫んでも、首都ワシントンには届かない。議員たちにその思いを直接、届けるために議事堂に集い、数を頼んで皆でアピールするしかなかった。

その「純粋な思い」は、しかし、一部の過激な行動のせいで、国政に届くどころか、逆効果になってしまった。

(随時掲載)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

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