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松尾スズキに訊く! 過去でも未来でもない、この現実を見据えつつ仕上げる最新作『フリムンシスターズ』への想いとは

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松尾スズキに訊く! 過去でも未来でもない、この現実を見据えつつ仕上げる最新作『フリムンシスターズ』への想いとは


2020年に、Bunkamuraシアターコクーンの芸術監督となった松尾スズキによる、就任後初の書き下ろし最新作『フリムンシスターズ』が2020年10月、開幕する。長澤まさみ、秋山菜津子、阿部サダヲが今回演じるのは、“女の友情”。この三人の物語を軸にしつつ、“日本発信”を強く意識したミュージカルとなる。このコロナ禍で人々の生活が変容し続けている最中に、決して架空世界ではない“現在”を背景にした作品に取り組む松尾に、この新作への想いを語ってもらった。

ーーこの作品が誕生するきっかけとなったものは、どういうことだったんでしょうか。

2020年、シアターコクーンの芸術監督に就任し、秋には新作を書き下ろすというスケジュールにはなっていたので、ずいぶん前から準備は進めていたんです。まずキャストにはミュージカル『キャバレー』(2017年)という芝居でご一緒した長澤まさみさんに、今度は新作を書き下ろしたいなという思いがあったので、そのことが最初の発想のポイントになりました。それと同時に秋山菜津子さんにもしばらく新作を書いていないし、それは阿部サダヲに関してもそうだったので、この三人が柱になるような話で音楽劇がやれたらなという思いが募っていったという流れです。それも、女の人の友情の話にしたくて。もともと、女同士の友情の話、たとえば映画『サニー 永遠の仲間たち』(日本版は『SUNNY 強い気持ち・強い愛』)とか、ああいう作品を観るといわゆる“エモい”っていうんですか(笑)、そういう感情がわかる気がする。たぶん男の自分にはわからないからこそ、よりファンタジックな思いが生まれるんでしょうけど。だから、そういう女同士のバディものを書きたいと思ったというのが今回の出発点ではありました。​


松尾スズキ



ーーその三人が演じるキャラクターに関しては、どこから発想したんですか。

秋山さんに演じてもらう砂山みつ子というキャラクターは、実は僕が監督した『108~海馬五郎の復讐と冒険~』(2019年)という映画に出てきた、たちの悪い女優の役と一緒なんです(映画での役名は砂山美津子)。そのたちの悪い女優を今度は舞台で演じてもらったらどうなるか、というところから、その女優のファンだった女と、その女優に媚びへつらっておこづかいをまきあげようとしているオカマ、この三人でシスターズになるというのはどうかな、と。さらに、人間がファナティック(熱狂的、狂信的)な状態になっている瞬間を書きたかったんですね、つまり、ある瞬間に女の友情が沸騰するみたいな。その精神状態を言い表す言葉はなんだろうと考えた時に、思い出したのが“フリムン”という言葉。これは僕が好きな島尾敏雄の小説「死の棘」に出てくるんですけど、一種の憑りつかれたような状態を奄美や沖縄の言葉でそういうらしいんです。それで、まさみちゃんの役を沖縄出身にしたら面白いなと思って。沖縄には“ユタ”と呼ばれるシャーマンの伝統があって、そのユタの血をひく人を僕が何人か知っていたのでいろいろ話を聞いてみると、日常の中に先祖とか霊の存在が普通にある世界らしくて。そういう人たちが現在の沖縄にリアルにいるということも、すごく不思議ですよね。現地の人は、沖縄は死と生が近い土地だからじゃないかみたいなことを言っていましたが、それは僕にはよくわからなかったですけども(笑)。でも、そういう確かめようもないものをリアルとして受け止めている状態というのも、すごく面白いじゃないですか。それで長澤さんには沖縄出身の女で、先祖にすごくまとわりつかれて面倒くさい状態になっている女を演じてもらい、秋山さんには昔、自分の妹を車ではねてしまったというトラウマを持っている女優役をやってもらうことにしました。阿部に演じてもらうのは、その女優からおこづかいをくすねているオカマで、その人にも10年前に2億円の宝くじを当てたんだけどそれを恋人に持ち去られてしまったという過去がある。つまり、三人が三人ともどこか欠落を抱えている人たちなんです。そんな彼らがバチっと揃った時に、化学反応を起こしてものすごい生命のエネルギーを生む、みたいな話になります。​

ーー最初はそういう出発点から書き出したところで、途中から新型コロナウイルスによって急激にこの世の中が変わってしまったわけで。やはり、この状況に合わせて変更した点などもあったんでしょうか。

どうしても心情として、この状況は物語に入ってきますね。僕自身としてはそもそもが引きこもり体質なので、人にあまり会わないという今の状態はそれほどしんどくなかったりもするんですが。それでも、引きこもることに慣れてしまうことには、抗いたい気持ちもある。結局、分断されるということの苦しさと、逆に居心地の良さという両方を人間はきっと持っていて。自分のテリトリーの中にじっとしているのが楽だと思う反面、それでもやっぱり人と繋がりたいという思いもあるんですよ。僕でさえ、たまに人と会うとそういう気持ちになりますから(笑)。そういった心情は、書いていてもすごく入ってきているなと思いました。なにしろこれは、人と人が出会うことから始まる物語でもありますし。


松尾スズキ



ーーまた、これをストレートプレイではなくミュージカルにしようと思われた狙いとは。

もともと、コクーンではいろいろなナマ音が入ってくる舞台を試していましたから。それは第1作の『キレイ―神様と待ち合わせした女―』(2000年)(以下、『キレイ』)から始まり、その『キレイ』は最新作(2019‐2020年)まで4回上演を重ね、公演ごとにブラッシュアップしていきました。それ以外の芝居でも、それぞれあえてナマ演奏の音楽を入れてやっていたので、このふたつの流れの中で結実したものをここで一度、答え合わせをしてみたいなという気持ちになったんです。それで『キレイ』の初演からはちょうど20年が経ちましたし、ここでもう一本、本格的なミュージカルを作りたいなと思ったわけです。でも当初は音楽劇を作るはずだったんですが、自分が出演するはずの舞台が公演中止になったり自粛期間に入ったりと、はからずも時間ができてしまったことから、音楽劇というには歌が多すぎるな、これはミュージカルじゃないかという風になってきて(笑)。そこで思い切ってミュージカルと名乗ることで、自分の退路を断ちました。20曲近く歌詞を書くのって、本当はすごく大変なんです。でもそれも、思いのほか時間をかけることができたので。​

ーーでは、かなり時間をかけてじっくり書くことができた。

そうですね。だけどそうやって書いている最中に、日常の状況がどんどん変わっていくんですよ。「あれ? これってもう大丈夫になっていくんじゃないの」と思った時期もあったのに、その直後には「やっぱりダメなのか」と思ったりもしたし。その時の気分は、どうしても書いている部分に反映されますしね。しかも今回は未来の話でも過去の話でもない、今、現在の物語を書こうとしていたというのに、現実の今がずっと動き続けているんですから。本当に劇作家殺しの現状ですよ。だから時間はたっぷりあったんですけど結局のところ、何度も書き直したりしたので書き上げるまでにはとても時間がかかりました。

ーー長澤さん、秋山さん、阿部さん、それぞれにはどんな期待を寄せていますか。

まずひとつは秋山さんにしろ長澤さんにしろ、舞台で本格的なコメディを演じるのは久しぶりなんじゃないかと思うんです。特に長澤さんは初めてに近いんじゃないかとも思うけど、コメディセンスがすごくある方だと思っているので。『キャバレー』で初めてご一緒しましたけど、僕がつけた台本にないギャグで全部笑いをとっていたから、これは本気でバカをやっていただけたら絶対に面白くなるという確信があったんです。まあ、観る側としても、こういう時代だからこそナマの舞台で思い切り笑いたいよねと思いますから、その点でもすごく期待しています。秋山さんとは去年一緒に映画をやって、本当にコメディエンヌぶりが素晴らしく、刀がまったく錆びていなかったので。最近はあまり思い切ったコメディで観ていなかった気がするから、ここはぜひに舞台のほうでも笑いをやってもらいたいという気持ちがありました。そして阿部の場合は、コクーンでの舞台に出てもらう時はいつも重いテーマを背負いこむような大きな役が多かったんです。『ニンゲン御破算』でもそうだし、『キレイ』でマジシャン役をやった時もそうだったし。だから今回は阿部のコメディセンスを全開にして演じてほしいなと思ったんです。その中でちょっと切ない部分がありつつも、メインとしては阿部がお客さんを笑わせるところを見たいなと思いながら、そういうセリフをいっぱい書きました。


松尾スズキ



ーー音楽を担当されるのは、映画『108~海馬五郎の復讐と冒険~』でもご一緒されていた渡邊崇さんです。今回はどんなテイストの音楽になりそうでしょうか。

20年前の『キレイ』以降もずっと、劇中音楽に和楽器を取り入れたりして、欧米へのあこがれとは無関係の日本発信の音楽劇を作ることにこだわってきました。それで今回も日本独自の音階を取り入れたミュージカルにしたかったんですが、その点でも沖縄音階はすごく素敵だし、まだ作られていないんじゃないかと思ったんです。それで、そういう音楽にも対応できるような作曲家ということで、渡邊さんに参考になりそうな日本の音楽を素材にしているラテンミュージックであったり、そういったバンドの映像資料を送らせていただいて。「こういう感覚わかりますか」と聞いたら「わかるわかる」と言っていただけたので、じゃあ、また一緒にやりましょうということになりました。​

ーー前回に続き、今作も松尾さんの名前が出演者の中にはありませんでした。俳優としての松尾さんもぜひ見たいと思ってしまうのですが。

そうですねぇ。あとどのくらい自分は演劇を続けていられるんだろうかと考えた時に、一本の演劇だけに長い時間をかけて取り組んでいると、自分がやりたいものを全部やり尽くすまでだと、時間が間に合わないような気がしてしまって。それもあって、本番が始まったらもう次の別のことを考えておきたいなというのが、出演はしないことの大きな理由ですね。今回だって、今から新作の芝居をやろうという段階なのに、実は新しく小説を書き始めてしまっていたりもしますから。稽古が始まれば「自分も出たいな」と思う瞬間もありますが、なにしろトシですし。二つのことが同時にできなかったりもするので、やはり今回は作・演出に専念させてもらう予定です(笑)。


松尾スズキ



 

ヘアメイク:遠山美和子(THYMON Inc.)
スタイリング:安野ともこ(CORAZON)

取材・文=田中里津子 撮影=中田智章

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