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2人に血の繋がりはない……。家族と里親の複雑さを描いた漫画『人の息子』

ダ・ヴィンチNEWS

『人の息子』(あのあやの/講談社)

 たとえ血が繋がった親子だとしても、一つ屋根の下でトラブルや衝突もなく暮らすことは難しい。おそらく育った時代や環境が異なるからだ。しかもその難易度は、子どもが成長し大人になり、自身の考えや意思を主張するようになるにつれて上がっていくように感じる。

いま、編集部注目の作家

 一般的な親子でも難しく感じるのだから、もともと他人同士が親子となり生きていくのは、計り知れないほどの難しさがあるはずだ。

 そして、『人の息子』(あのあやの/講談社)を読み、改めてその難しさと複雑さを実感した。

 本作の主人公は、漫画家の鈴木旭。彼はこの3年間、1人の少年を忘れられずにいた。その少年とは、鈴木が保育士時代に担任を務めていた山本高嶺だ。彼は3年前の雪の日、母親の育児放棄をきっかけに児童養護施設へ行ってしまった子である。

 鈴木は、雪が降るとその日のことを思い出す。そこには、何も考えられず高嶺に「さよなら」すら言えなかったみじめな自分が映っている。漫画を描き始めたのは、行き場のない自分の気持ちを整理するためでもあった。皮肉にも主人公は“雪の日に捨てられた少年”であることがその象徴だ。

 そんなある日、鈴木のもとに一通のファンレターが届く。送り主はなんと、高嶺だった。もちろん高嶺は、鈴木が漫画家になったことを知らない。ペンネームが本名ではない以上、知るはずがないのだ。なんでこんなタイミングで……。動揺する鈴木だったが、これを機に高嶺に会う決意を固めるのであった。

 鈴木との再会に喜ぶ高嶺。ただ、喜びの大きさなら鈴木も負けていなかった。2人は勢いもそのままに、時間を見つけては会うようになっていく。まるで互いの心に空いた隙間を埋めるように。そして鈴木はついに、高嶺を里親として引き取る決意を固め動き出すのであった。

 作中では、鈴木が高嶺の里親になろうと独り奮闘するシーンが数多く描かれている。それらから伝わるのは、「里親になることへの難しさ」だ。

 一見、お互いの同意があれば里親と里子の関係になれると思われがちだが、決して誰もがなれるわけではない。僕達が生きるリアルな世界でも、自治体や里親の種類ごとに、条件が設けられていることがほとんどなのだ。

 鈴木も、児童福祉司の秋山に「高嶺の里親になることはできない」と論破されてしまう。たとえ鈴木と高嶺の間に信頼関係があったとしても、高嶺はまだ8歳の子ども。鈴木1人では、高嶺の養育面全てを担うことは難しいというのだ。

 しかし鈴木は諦めない。むしろ高嶺の里親になるという熱意をより一層高めた節さえある。彼をここまで突き動かすのは何なのか。それは鈴木が育ってきた家庭環境と、高嶺から告げられた意外な言葉が関係している。

 鈴木が育ってきた環境とは? そして高嶺から告げられた言葉とは一体? 詳細は、ぜひ本作を手にして読んでいただきたい。

 本作は、“里親”を題材にした、近年では珍しい漫画だ。日常でほとんど触れることのない世界を知るきっかけとして読むには、ぴったりの作品と言えるだろう。

 里親制度について理解を深めると同時に、不器用ながらも歩みを進めていく必死な鈴木と高嶺を今後もじっくり見守っていきたい。

文=トヤカン

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