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「高校野球は教育そのもの」渡辺元智横浜高元監督の信念

週刊ベースボールONLINE

選手の性格に合わせた的確なアドバイス



渡辺元智氏(横浜高元監督)が1月17日、全日本大学野球連盟の監督会で講演を行った

 全日本大学野球連盟の平成30年度監督会が1月17日に横浜市内のホテルで2日目が開かれ、渡辺元智氏(前横浜高監督)が講演した。

『栄光より挫折、成功より失敗 勝利より敗北から学んだ50年』と題して、約1時間半。出席者は一言一句を聞き逃すまいと、耳を傾けた。これまで大学で講演する機会はあったが、大学球界の指導者が一堂に会した場では初めて。冒頭から「緊張しています。眠れない日が続いた」と、興奮気味に話した。

 渡辺氏は2015年夏まで母校・横浜高を率い、春夏を通じて5度の甲子園制覇を誇り、歴代3位タイの通算51勝を挙げている。高い指導力が評価される裏付けとして1970、80、90、2000年代すべてで全国の頂点に立っていることにある。

 栄冠をつかむまでには、多くの苦労を重ねてきた。就任当初は原貢監督が率いる強豪・東海大相模に何度も跳ね返され、以降も、桐蔭学園高、横浜商高など神奈川のライバルと切磋琢磨する中で、自身も野球を必死に勉強し、人間力と指導力を高めてきた。

 選手の気質は、時代とともに変わる。つまり、渡辺氏は柔軟な対応力で接してきた。

 若いころは「スパルタ、訓練」と鉄拳制裁も辞さない厳しい指導を続けてきたが、そこには限界があった。「人が人を動かす。愛情がないと人は動かない。言葉の野球を教えないといけない」とコミュニケーションを重視。また、試合中の円陣でも、立って指示を出すことはしなかった。「視線が同じになる」と、ベンチ前に全員、腰を下ろさせて話をした。「アイコンタクト。視線を逸らしたな、とか、選手の目を見れば分かる」。この洞察力が試合終盤の代打起用など、さい配にも生かされたという。

 こうした監督と選手との地道な付き合いが、大舞台で力を発揮する原動力となった。若いころはゲキを飛ばすだけであったが、「言葉の備えがあった」と、選手の性格に合わせた的確なアドバイスにより、ここ一番で、信じられないほどの力を引き出した。

高まるばかりの野球への情熱


 高校野球ファンの強烈な印象として残っているのが、松坂大輔を擁した1998年、史上5校目の春夏連覇である。前年秋から夏の甲子園後の秋の国体まで「公式戦44連勝」という金字塔を打ち立てた。だが、その背景として「敗北が、松坂を育てたのは間違いない」と言い切る。

 前年夏、松坂ら2年生主体のチームは「絶対的な優勝候補」と言われていたが、横浜商高との県大会準決勝で敗退。決勝点は松坂のサヨナラ暴投であった。「勝つために練習してきた、ウエスト(外す)ボールでミスした」。試合後はスタンドから「もう、お前の時代じゃない!」と容赦ない罵倒が飛んだという。ただ、「控室に戻ると3年生から『すぐにセンバツに向けて頑張ってください』と。若いころを思い出してすぐ、合宿を組んで猛練習を実行した」。

 二人三脚による熱血現場だった。「私には野球の技術がありませんから、精神的な強化しかない」と、教育的な指導に重きを置き、「見る目がすごかった」と渡辺氏が全幅の信頼を置いた同級生の小倉清一郎氏(当時部長)に戦術面のほぼすべてを任せた。

 つまり、どん底から這い上がった44連勝だった。98年夏の甲子園ではPL学園高との準々決勝で延長17回の死闘を制し、明徳義塾高との準決勝は0対6から終盤2イニングで大逆転、そして、京都成章高との決勝では松坂がノーヒットノーランと、最高のフィナーレを飾っている。

「『奇跡』という言葉しか見つからない。ただ、奇跡というのは、死に物狂いで努力すれば、必然的についてくる。勝てる、勝てると信じて取り組めば、斬新なアイディアも出てくる」

 昨今はITの普及などにより、便利な時代になった。だが、渡辺氏はデータ野球、科学的な野球に警鐘を鳴らす。「効率化」が人を育てる上で妨げになるのでは、という危機感があるのだ。

「耐える力を失っている。本質の言葉を忘れかけている。自分で努力することが一番大事。『温故知新』と言いますが、心がなかったら絶対、ダメ。真剣に向き合っていけば必ず、選手は言葉を理解する。監督が選手にかける言葉は非常に重い」と、現役の指導者に投げかけた。そしてこう、続けた。

「高校野球は人を育てないといけない。教育そのものだった。挫折して、覚えることがたくさんあった。いくら技術があっても、心なしでは……」

 講演後に渡辺氏は言った。

「大人の中に入っている大学野球は、高校野球以上に大変だと思う。私が教わることのほうが多い」

 昨年11月で73歳となったが、なお、野球への熱き情熱は高まるばかり。日々、学生と向き合う大学監督にとって、名将の言葉は実に重いものばかりであった。

文=岡本朋祐 写真=BBM

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