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話題作『消えたママ友』の作者・野原広子さんと編集者・松田紀子さんが対談! 40歳過ぎでのデビューから作品裏話まで

ダ・ヴィンチNEWS

ママ友同士のリアルな人間関係を描いた野原広子さんのコミックエッセイ『消えたママ友』。6月25日の発売直後にはSNSでタイトルがトレンドワード入りするなど、今大きな話題を呼んでいます。また集英社「よみタイ」で連載中の『妻が口をきいてくれません』がツイッターで賛否両論を引き起こしたのも記憶に新しいところ。そんな注目を集め続ける作者の野原広子さんと『消えたママ友』を手掛けた編集者の松田紀子さんが対談を実施。連載時の裏話や作品作りへの思いについてとことんお話ししていただきました。

大反響!『離婚してもいいですか? 翔子の場合』作者・野原広子さんインタビュー。悩める女性へのメッセージも

40歳過ぎで漫画家に。デビュー作のテーマは不登校の娘のこと

――野原さんは40歳過ぎで漫画家デビューされたそうですが、そのきっかけについて教えてください。

野原広子さん(以下、野原):母が亡くなってやる気を失い1年くらいぼーっとしていた時期があったんです。その時、中学生だった娘に「いいかげん何かしなよ」と言われて、漫画でも描いてみようかなと。

松田紀子さん(以下、松田):それでコミックエッセイプチ大賞にご応募いただいたんですよね。

野原:応募するにあたって「ありきたりな内容じゃ賞は取れないよね」と娘に相談したら、「じゃあ私の不登校のことを描いてもいいよ」と言われまして。それがデビュー作になりますね。

松田:野原さんにははじめ男性の担当編集がついたんですけど、その方が異動することになり、子どもと母親の関係性を編集できる編集者はいないかということで、母親でもある私が引き継ぐことになったんです。『娘が学校に行きません 親子で迷った198日間』という作品をご一緒したのが最初ですね。

『娘が学校に行きません 親子で迷った198日間』

野原:そうですね。実は子どもを産む前にも少し漫画を描いていたことはあったのですが、本格的なデビューは40歳過ぎになります。

松田:40歳からの作家デビューってすごいことですよね。お母さん目線で描ける作家さん自体、当時は貴重な存在でしたし、社会問題にもなっていた「不登校」というテーマをノンフィクションで赤裸々に描いてくださるのがすごく斬新でした。

野原:私としても「こんなの描いていいのかな?」と躊躇(ちゅうちょ)する気持ちがありました。漫画家デビューも実はそんなに嬉しくなくて、はじめは本を一冊出せればそれでいいやと思ってたんです。でも、松田さんと初めてお会いした時に、キラキラした瞳で「本作りって楽しいですよ!」と言われまして(笑)。この人と仕事したいなという思いで漫画家を続けて今に至りますね。

松田:嬉しいです。ありがとうございます。

明るい奥さま雑誌に一石を投じる! 『消えたママ友』誕生秘話

――レタスクラブという主婦向けの雑誌で『消えたママ友』の連載を企画した経緯について教えてください。

松田:野原さんのデビューから何冊か後に『離婚してもいいですか?』という作品を描き下ろしで描いていただいたんですが、それが非常に好評だったんです。ちょうどそのときに私がレタスクラブの編集長に就任して、積極的にコミックエッセイの連載を入れていこうという方針になったんです。奥さま雑誌には明るく楽しい毒のないものを連載するのが一般的なセオリーだと思うのですが、私はこの健全な雑誌をちょっと汚したくて(笑)。

野原:笑

松田:いや、汚すって言ったら失礼なんですけどね。なんと言うか、一石を投じた感じです。真っ白で健康的な雑誌に人間の欲望や本音をぶちまけるような、ある種ぞわっとする「怖いもの見たさ」を入れていきたいなと思ったんです。

野原:そうそう。「もやもやしたもの」を作ろうという提案があって、それはおもしろそうだなと。

松田:それで『離婚してもいいですか?』の別バージョンのお話として描いていただいたのが『離婚してもいいですか? 翔子の場合』なんです。これがまたレタスクラブで人気が出て、今もなお電子書籍ですごく読まれているんですよ。編集部の机の上に最新号が配られると、編集メンバーも営業メンバーも真っ先にそのページを開くくらいみんな熱中してました(笑)。

『離婚してもいいですか? 翔子の場合』より

野原:ありがたいことです。最終的には描き下ろしの付録まで描かせていただきましたね。

松田:離婚ネタが非常に好評だったので、その流れを汲んだ次回作を作ろうということで生まれたのが『消えたママ友』ですね。

野原:はい。次は「ママ友」でやってみようかみたいな。

松田:『離婚してもいいですか? 翔子の場合』は、最後まで結末がわからないまま引っ張る手法だったんですが、今回は「ママ友が消えた」という結論が先に提示されていて、そこから「どうしてそんなことになったのか」を紐解く構成にしたいと、野原さんがおっしゃったんです。それで、結論部分をそのままタイトルに持ってきたという経緯があります。

野原:そうですね。ちょっぴりミステリー色のある感じにしたかったんです。

『消えたママ友』

最初にタイトルを決めてからキャラクターや状況を作り込む

――作品作りをする際にお二人の間にはどんなやりとりがあるんでしょうか?

松田:基本、私が野原さんに無茶振りするんですよね(笑)。

野原:そうですね(笑)。でも松田さんが投げてくる無茶振りってすごく具体的なんです。『離婚してもいいですか?』のシリーズは、ペンの太さからコマの運び、雰囲気まですごく詳細に伝えてくれて、それを形にしていった感じです。

松田:離婚の話を描くにあたって、それまでの野原さんの可愛らしいキャラクターとか、線の柔らかさをちょっとだけ大人っぽくしたいと思って、ペンの幅を細くしてもらったんです。

野原:0.28mmから0.38mmまで描いてみてどっちにしようか決めましたね。

松田:結構印象が変わるんですよね。線が太いと子どもっぽくファンシーな感じになっちゃう。他にも、野原さんの作品は独特なコマ割なんですけど、24コマで成立するような間の置き方を考えたり、わざと喋らせないコマを挟んでみたりとか、いろいろと試行錯誤しましたね。

上は2014年刊行の『ママ 今日からパートに出ます! 15年ぶりの再就職コミックエッセイ』、下は2020年刊行の『消えたママ友』。線を細くすることで、より大人向けで繊細なタッチに

――具体的なエピソードやセリフについて相談することもあるんですか?

松田:私が最初にタイトルやテーマを決めて「こんなのどうですかね?」って無茶振りすると、野原さんが色々な角度から温めてきてくださるんです。そこでプロットができあがり、二人であーだこーだと相談しながら完成形に近づけていく感じですね。

野原:だいたいいつもタイトルを先に決めていただくんですけど、タイトルってすごく大事だと思います。

松田:『離婚してもいいですか?』は、益田ミリさんの『結婚しなくていいですか。―すーちゃんの明日』(幻冬社)からインスピレーションを受けたものなんです。「自分の人生の選択を他人に聞いてしまう人って確かにいるよな」と思い、それをタイトルに離婚の話をしたら面白そうだなって。

野原:『離婚してもいいですか?』ってわざわざ他人に聞くからには、きっと決断力ない主人公なんだろうなとか、そういうところまで想像できるから話を広げていきやすいんですよね。

松田:タイトルからイメージされるキャラクターや状況を作っていく感じですね。

『離婚してもいいですか? 翔子の場合』より

――『消えたママ友』というタイトルもすごいパンチがありますね。これはどこで生まれたんですか? 

野原:これはタイ料理屋さんで松田さんと飲んでいるときにママ友談義になって、その流れで『消えたママ友』いいじゃんってなりました。

松田:そうそう。そういう意味では練り込んでいる感じでもなくて、割とシンプルな思いつきなんです。でもそんなノリで生まれた禍々しいタイトルが野原さんの可愛らしい絵柄とくっつくと、そのギャップがものすごいインパクトを放つんですよ。何冊か一緒にやらせていただいて、「強めのタイトル」と「野原さんの可愛らしい絵柄」の組み合わせにハズレはないなと実感しているところですね。

編集者として大切にしている二つのこと

――松田さんが編集者として野原さんの作品作りに関わる際に大切にしていることはありますか?

松田:二つあって、一つは野原さんのリズムをなるべく崩さないこと。初期の頃はいろいろと相談しながら進めていましたが、ここまでベテランになられると野原さんが独自に生み出される間や構図があるので、なるべくそれを尊重しつつ、もっと演出的に映えるように工夫しています。野原さんが描きたいと思っているけど、あと一歩表現が足りないな、というところの手助けをする感覚でネームに赤入れをしています。

野原:『消えたママ友』の時も、このシーンではお弁当のカットを入れたほうがいいとか、ここでツバサくんのニヤッとした顔が欲しいとか、赤入れしていただきました。

『消えたママ友』赤字入りのネーム

松田:もうひとつは、キャラクターのセリフが説明調にならないようにすること。コミックエッセイの作家さんに多いのですが、せっかく絵で表現できているのに、セリフでいろいろシチュエーションを言わせようとしちゃうんですね。説明しすぎるとかえって物語に入り込む余地がなくなってしまうので、あえてセリフを削ることは多いです。

――二人三脚な感じが素敵ですね。

松田:とはいえ、ほぼ野原さんの力ですけどね。物語を作るのが非常にお上手だし、「あー!そういうこと言う夫っているいる!」と、絶妙にイラッとするセリフを言わせてくるので毎回唸ってます(笑)。

少しのリアルを混ぜながらフィクションを作る。『消えたママ友』裏話

――『消えたママ友』の制作裏話があれば伺いたいです。

野原:『消えたママ友』の連載開始当初は私、既婚者だったんですけど、途中で離婚して私自身が有紀ちゃん状態になっちゃいました(笑)。

松田:野原さんが消えちゃったんですよね。

野原:はい。離婚して私が引っ越したことで、仲良くしていたママ友同士の間にも関係性の変化があったらしいんです。それを後から聞いて作品に盛り込んだりしました。

『消えたママ友』

――絶妙にリアルも交えながら、フィクションを作っている感じなんですね。

野原:そうですね。長く生きているといろんなことが身の周りで起きるので、見てきたことも体験してきたことも、「あ!これ使えるな」っていう瞬間があって。

松田:作家さんの図太いところですよね(笑)。私そういうの大好きなんですよ。災難が降りかかっても、これは使えるって思うと苦労も苦労にならないという。

野原:『消えたママ友』も、実際にママ友で苦労した経験がなければ描けなかった部分は多いです。

『消えたママ友』より

松田:渦中にいすぎると見えない部分もあるから、野原さんのように子どもも成長されて当時の出来事を俯瞰で見ることができるようになったくらいが一番描きやすいのかもしれないですね。実体験をベースに、他の人の意見もブログやツイッターで検索すると、山のように事例は上がってくるので、それを紡ぎ合わせる感じですよね。

野原:今は普通の人でもネットでいろいろ吐き出してますからね。面と向かって話すよりもネットの方が自分をさらけ出しているので、すごく参考になるんですよ。

松田:例えばツイッターでバズってる夫の悪口に鬼のようにリプが付いてたりするじゃないですか。そのコメントを全部チェックします。

一同:笑

松田:意味不明なリプもあるし、本質を捉えているリプもあるし、全くお門違いなリプもある。ひとつのつぶやきでこんなに多種多様な反応があるんだと思うとすごく感慨深いです。強い言葉で自分の欲求や本性をぶつけている場面に遭遇すると、その言葉をなにかに使えないかなと考えたりもします。

夫へのリアルなイライラを思い出しながら「離婚」を描く

――野原さんは離婚するまで旦那さんに内緒で作家活動されていたそうですね。

野原:私が何かを描いてるのは知っていましたが、作品を見せることはなかったですね。お互いの仕事に口を出さないというスタンスでしたし、余計なことは知らなくてもいいかなって。わざわざ自分からは言わなかった感じです。

松田:旦那さんは最後まで知ることなく離婚されたんですか?

野原:はい。でも夫だけじゃなくて息子も母の仕事を知らないんです。それは、さくらももこ先生の真似をしたっていうか(笑)。

松田:自分がちびまる子ちゃんの作者だと息子さんに話さなかったというエピソードですね。野原さんの息子さんは「お母さんなんかずっと机に向かってるな」って思ってたでしょうね。

野原:他にもイラストの仕事をしているので、そっちで忙しいと思われてるんじゃないでしょうか。

松田:なるほど。野原さんはあまりご家族にお話をされていないというのは知っていたので、ご自宅への郵送物が「野原広子」名義で届かないようにしてましたね。

野原:その節はお気遣いいただきありがとうございました(笑)。

――作品のテーマとして「離婚」を描かれているなかで、ご自身の離婚もなにか関連があったりするのでしょうか?

野原:たとえば『離婚してもいいですか?』の翔子は心の底から離婚したいと思ってるじゃないですか。でも私自身はすでに心の葛藤を超えてむしろ落ち着いている時期に描いたので、イライラマックス時の感情を思い出すのが大変でした。小さいお子さんを育てている30代半ばくらいの妻達の夫への憎しみってすごいじゃないですか。自分もそういう気持ちがあったのですが、忘れかけてたので当時のテンションを思い出しながら描きました。

松田:感情の起伏が少ない翔子をもっと絶叫させるように赤入れしたのは私のほうでしたね。感情を爆発させた方が読んでいる方はスッキリするから、ここで翔子をブチ切れさせましょうとかって。当時は私の方がより夫への不満が生々しく残っていたんで、それを翔子に言わせた感じはありますね(笑)。

『離婚してもいいですか? 翔子の場合』より

野原さん作品のレビュー欄が「自分の思い」をさらけ出す場所に

――集英社のよみタイで連載中の『妻が口を聞いてくれません』が、ツイッターでバズっていますね。

野原:そうらしいですね。めちゃくちゃバズってるよって人から聞きました。

松田:でも野原さんは一連のツイートは読んでないんですよね。

野原:はい。作品への批評はあえて読まないようにしています。いろいろな反響があると思いますが、描く側としてはそこに引きずられてはいけないと思うので。

松田:一切影響を受けまいとする姿勢が野原さんの素晴らしいところです。普通ならバズってると聞いたらつい覗きにいっちゃいますし、そこで見るものは必ず書き手側に刺さってきてしまう。担当編集としては作家さんの制作環境に悪影響を与えないためにどうすべきか考えたりするんですけど、野原さんの場合はご自身で一切触れようとしないので、ある意味ラクなんです(笑)。

野原:SNSに疎いというのもあるんですが、かえってそれがいいのかも。メンタルが弱いので下手に読んだりすると落ち込みそうです。

松田:ただ今回の『妻が口を聞いてくれません』のバズり方もそうですけど、野原さん作品のアマゾンや楽天のレビューを見ると、作品の話はさておいて、みんな自分の話を語りだしちゃうという現象が起きてるんですよ(笑)。野原さんが描かれた「離婚」「夫婦」「ママ友」というテーマを軸にしたコミュニティのようになっていて、読者が思い思いに自分の話をさらけだしてる。この作品がそれぞれの人の立場で、それぞれの人の口で語りたがられる内容なんだなと思って見ています。

野原:そんなことになってんたんですね…。

松田:そうやって読者の人生がさらけだされているのを見ると、野原さんの作品の可能性を改めて考えさせられますよね。「さらけ出す場所を与えた」というところが、書籍としてのひとつの到達点なんじゃないかと思うんです。

――最後に今後の作家活動で挑戦したいこと、描いてみたいことなどがあれば教えてください。

野原:毎回これが最後かなと思いつつ、松田さんから面白いテーマがもらえると、やっぱりチャレンジしたくなるんです。描いてもいいよと言っていただけるうちは描き続けたいですね。

松田:今、新作を準備していて、タイトルを考えたりしているところなんです。またちょっと違った方向に持っていきたいと構想中ですが、そういうのを考えているときが一番面白いですよね。必ず、野原さんが打ち返してくれるので。

野原:松田さんに投げてもらえるのなら全力で打ち返しますよ!

松田:ありがとうございます。これからもよろしくお願いします!

――野原さんと松田さん、そして周囲の人々やネットで拾った声など、いろいろな人のリアルな感情を紡ぎ合わせて生まれるひとつの作品。登場人物たちについ感情移入してしまうのも納得ですね。これからも野原さんと松田さんの黄金タッグが世に送り出す作品から目が離せません。

取材・文=宇都宮薫

【プロフィール】

野原広子(のはらひろこ)
イラストレーター、漫画家。著書に『消えたママ友』『離婚してもいいですか?』『離婚してもいいですか? 翔子の場合』『ママ友がこわい 子どもが同学年という小さな絶望』『娘が学校に行きません-親子で迷った198日間-』『ママ 今日からパートに出ます! 15年ぶりの再就職コミックエッセイ』(KADOKAWA)など。等身大の主婦のリアルな気持ちを描き、女性から多くの共感を呼んでいる。

【プロフィール】

松田紀子(まつだのりこ)
2000年、メディアファクトリー入社。コミックエッセイ『ダーリンは外国人』『150cmライフ。』『離婚してもいいですか?』など数多くのヒット作品を手掛ける。2016年に生活情報誌『レタスクラブ』の編集長に就任、2018年には同誌が料理・レシピカテゴリの雑誌で売上1位を記録する実績を残した。2019年株式会社ファンベースカンパニーに入社。フリーの編集者としても活躍中。

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