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読む前とあとではタイトルの印象がまるで変わる――Instagramフォロワー15万人のふせでぃ、描きおろしの長編コミック

ダ・ヴィンチNEWS

いろんな人を味見したいなんて思わない ただひとりの人と一生愛し合っていたいだけ 私の願いってそんなにハードルが高いものだろうか

今さら聞けない!“2周目”続出『愛の不時着』は何が面白いのか?

『明日、世界が滅びるかもなので、本日は帰りません。』(ふせでぃ/文藝春秋)

『明日、世界が滅びるかもなので、本日は帰りません。』(ふせでぃ/文藝春秋)の一節だ。

 本書の、かわいらしい絵柄で織りなされる繊細な表現をきわだたせているのは、イラスト抜きでも成立するこの言語センスだと思う。ほかにも〈もし今地球がなくなってもきっと後悔しないだろうな 元カレが私抜きで幸せになってる世界なんて〉とか、〈この人が自分のものにならなくてもこのあたたかさの中なら目が覚めなくてもいいかなと思った〉とか、物語の背景がわからなくてもそれだけで突き刺さるような言葉にあふれているのである。恋をしたことがある人、ではなくて、自分だけになにもなくて、誰かに愛される価値なんてなくて、この世にひとりぼっちで取り残されているような気持ちになったことがある人は、ああ痛い……と思いながらも吸い寄せられるように読んでしまう本だ。

 主人公は、派遣社員2年目のアキ。月給18万円、彼氏なし。まだ若いので結婚に焦っているわけではないけれど、元カレのことが忘れられず、合コンで出会ったイケメンともセフレ関係。忘れられない、といってもそれは今も好きということではなく、あんなに好きだった人ともだめになってしまったという傷が、新たな恋をはじめることを臆病にさせている。そうしているうちに「人を好きになるってどういうことだったっけ……」と心が鈍くなってしまっている。それだけでも「わかるーーーー」とうなずく人は、男女問わず多いんじゃないかと思うのだが、共感するのは女同士の関係においても同じ。昔から彼氏の途切れたことのない友達の結婚報告を聞かされて、「今まで紹介されてきた人はなんだったんだろう」「男をとっかえひっかえしていたような子のほうが簡単に幸せになってしまう」「人の幸せ報告を聞くだけのことに5000円を費やしてしまった」と胸中でつぶやくところも、20代女子のあるあるなんじゃないだろうか。

 といってもアキは友達の幸せを祈っていないわけじゃない。後半で少しずつ心をたてなおしていくアキが「彼女も私の知らないところでいろいろがんばってるんだろう」と思いを馳せる場面を読んで、しみじみいいマンガだなあと思った。彼女が友達を肯定的に受け入れられるようになったのは、けっして自分の恋愛状況が好転したから、ではなくて、さびしさの傷を膿ませていたのは自分なのだと気づいたからだ。〈また誰かが離れていくなら恋愛なんてしない方がいい〉――投げやりにそう思うのと、自覚的にひとりで立って思うのとでは、同じ言葉でも意味が全然ちがってくる。恋だけがゴールではないと気づいたアキが、それでも誰かと一緒にいたいと願ったとき、訪れた奇跡のような出会いに胸を締めつけられる。

 読み終えたあと、あらためてタイトルをみると、その印象もずいぶん違う。アキと一緒に、少しずつ自分を癒しながら、“明日、世界が滅びるかもしれない今日”を懸命に生きていきたい。

文=立花もも

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