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地域の課題解決にたずさわりたい…事例を用いた論文からみる実践的な地域社会学

ホンシェルジュ

「将来的には地元に貢献するような仕事がしたいなあ」など、地域そのものや地域に関する仕事について漠然と興味を持っていますか? そんな人が進路選びの際にちょっと気になる学問分野「地域社会学」について紹介します。どんなことを扱うの? どういう風に研究するの? という疑問に対し、事例を踏まえて解説していきます。

地域社会学ってどんな学問?

地域社会学に関心を持った人の中には「地域」に特に興味がある人もいれば「社会学」を知りたいという人もいるのではないでしょうか。「地域に社会学ってどういう関係があるの?」「社会全体を扱う社会学が、なぜわざわざ対象を地域に限定するの?」という疑問は、地域社会学の成り立ちとも関係が深いのです。

社会学的アプローチで地域について考える

社会学は人間が作り出す関係性やそれらによって発生するものごとを研究する学問です。非常に単純化すると、人間社会全てが研究対象となりえます。

幅広い研究対象を持つ中で、社会学は方法論や考え方を大切にしてきました。社会学研究ではフィルドワークなどを通してデータを取り、それを統計などの手法で分析していきます。人口・地域の産業・住民の趣味などを調べた生データを分析することで、その社会が持つ特徴や課題などが見えてくるのです。

顔の見える範囲のコミュニティが対象

地域社会学の成り立ちを考える上では、「シカゴ学派」の影響を知っておくとよいでしょう。アメリカのシカゴで生まれたシカゴ学派は、研究の成果が社会に還元されることを重視しました。つまり、特定の問題解決に結びつくような研究をおこなうことを目指したのです。

地域社会学も同様に、地域の課題解決を念頭に置いた研究がおこなわれます。単にデータを分析するだけでなく、よりよい地域社会を構築するための提言などをおこなうこともあります。そのため、調査の際には対象を特定の地域に絞り、「その地域ではどうなのか」を見ていくのが主流であるようです。

では、そもそも地域とは何なのでしょうか。もともと社会学には「都市社会学」「農村社会学」という分野がありました。しかし現代社会では、都市とも農村とも言いにくいエリアが増えています。

この情勢を踏まえて生まれたのが地域社会学です。都市でも農村でもない地域は、双方に共通する特徴を持っていることがしばしばあります。そのため、既存の社会学が対象にしていた都市・農村に加えて「都市でも農村でもない地域」が地域社会学の対象となるわけです。つまり、人間が生活する場所ならほぼどこも地域社会学の対象となります。

ただし、先に説明したように、地域社会学は特定の地域における課題解決を重視します。そのため、広大な範囲を一度の調査対象とすることはほとんどありません。特定の自治体であったり、そのなかでも町内会単位での違いであったりという単位での取り上げ方をしていきます。顔の見える範囲、いわゆる「コミュニティ」に対象を絞っていることが多いようです。

実践的な地域社会学の事例を見てみよう

本を買う前に、もう少し詳しく知りたいという人向けに、公開されている論文から事例を紹介していきます。今回は、報道・商店街・防災の3つのテーマを取り上げます。

報道へのアプローチ

報道と地域社会学がどう結びつくのかあまり想像できないという人も多いのではないでしょうか。しかし、日本には地域紙やケーブルテレビなどのローカルメディアが多数存在しています。全国的な人口減少・少子化・高齢化にあって、地域の中で経営を成り立たせてきたローカルメディアは今、危機的状況にあると言われています。

こういった状況下で、『福井新聞』は新聞社として珍しい取り組みをおこないました。記者自身が空き店舗をリノベーションしたり、起業したりして、そのプロセスを数年間にわたって紙面で報告したのです。

これは地域社会の課題を解決するという地域社会学の関心ともつながってきます。論文「ローカル・メディア/ジャーナリズムへの地域社会学的アプローチの今日的課題」では、このような取り組みがどうしておこなわれ、それが社会にどのような影響を与えたのかに注目するべきだとしています。

商店街へのアプローチ

商店街は商売の場としてだけでなく、地域のコミュニティとしても注目されています。しかし、地域社会学的な論点としては、「そもそも商店街は本当に地域のコミュニティとして機能しているのか?」という疑問を投げかけることも大切なのではないか、という議論があります。

商業学および都市・地域社会学における商店街研究の動向 : 社会的機能の観点からのレビュー」では、これまでに地域社会学および隣接する学問分野で商店街がどのように論じられてきたのかを横断的に概観します。その上で、「商店街を守ろう・振興しよう」という運動は、大企業と競争したら負けてしまう中小企業を支援するためのただの口実だったのではないか? という疑問を紹介しています。

このように、地域社会学的な視点で地域の問題に取り組むと、それまで「よい」とされてきたことに対し「あまり意味がないのでは」と指摘しなくてはならなくなる場合も出てきます。これは調査対象との関係性などを考えると難しいことも少なくないでしょう。しかし、その上で「ではどうしたらよいのか」まで考えることができるのが地域社会学の醍醐味といえるでしょう。

防災へのアプローチ

近年大規模な自然災害が増えたこともあり、地域の防災について考える機運が高まっています。2011年の東日本大震災で分かったように、行政組織が被災してしまう可能性もあり、たとえ行政が動けなくなったとしても地域で動くことができるような仕組みを作ることが重視されています。

一方で、行政が音頭を取って仕組み作りをおこなうと、地域住民が実践できないような複雑な計画ができてしまったり、地域住民からの働きかけに任せると途中で立ち消えになってしまったりといった問題も指摘されています。どうやったら実効性のある取り組みができるのかについて、まだ定まった答えはないというのが現状のようです。

北九州市の地区防災計画に関する地域社会学的研究 : 半構造化面接法によるインタビュー調査及びSCATによる質的データ分析」では、地域住民と一緒に自治体が「地区防災計画制度」を作ったことに着目しました。どうして北九州市では取り組みがうまくいったのかを探ることにより、他の地域でも参考にできる要点が見つかるのではという研究です。

この研究は、地域全体のデータを使うのではなく、自治体の担当者へのインタビューという形式をとっています。社会学分野では、インタビューについて分析する定まった手法があるわけではありません。手法の開発という面でも興味深い事例です。


事例の豊富な入門書

地域社会学入門:現代的課題との関わりで
作者 山本 努, Miserka Antonia, 松本 貴文, 吉武 由彩, 井上 智史, 山本 努 出版社 出版日 情報なし

地域社会学が何に問題意識を持ち、どのような手法で研究をおこなっているのか知りたいという人は多いでしょう。実際の事例は、紹介や報告としてまとまっているものを読むのが最も分かりやすいです。

対象とする地域によって事情が異なってくる部分もありますし、考え方の違いによって手法やアプローチの方法にも変化が出ます。事例をひとつだけ見て判断するよりは、複数知ることをおすすめします。

『地域社会学入門:現代的課題との関わりで』は、各研究者の事例をもとに執筆されています。研究手法や学問分野全体としての問題意識なども知ることができます。


もうひとつの地域社会学入門書

地域の社会学 (有斐閣アルマ)
作者 森岡 清志 出版社 出版日 情報なし

ここでもう1冊入門書を紹介します。『地域の社会学』は『地域社会学入門:現代的課題との関わりで』よりも古い書籍ですが、より細かな章立てにより地域社会学的問題意識や事例が紹介されています。

「地域とは何か」「なぜ地域社会なのか」というそもそもの論点も取り上げられているので、ほかの社会学分野と比較して考えたい人にはおすすめの書籍です。

初めて地域社会学に関する本を読む人は最初こそ読み進めるのに苦労するかもしれません。ですが地域という視点で日本社会がどう変化してきたかの歴史を知ることができるので、読むスピードではなく精読することを意識して読むのがよいでしょう。

まちづくり系と比較して読むとより違いが分かる

まちづくりと景観 (岩波新書)
作者 田村 明 出版社 出版日 情報なし
ここまで読んできて、「地域社会学って要はまちづくりについて考えているのかな?」と解釈した人もいるのではないでしょうか。確かに現代における「まちづくり」は、地域社会をよりよくする、という意味で使われることが増えています。

しかし、「まちづくり」という言葉が使われはじめた当初、この言葉は都市計画や景観といったものと密接につながっていました。地域社会学が社会というソフト面を扱うのであれば、まちづくりはハード面を扱ってきた歴史が強いのです。

そのため、2020年6月現在でも「まちづくり」という言葉を使う人はややハード寄りの発想をすることがあります。先ほど例に挙げた商店街であれば、「アーケードを作るか、壊すか」「商店街の歩道をきれいに作り直すか」といったことが論点になっていることがあります。

地域社会学的立場から実践に取り組んでいきたい人は、このような齟齬に驚くことがあるかもしれません。そのため、いわゆるまちづくり的立場から書かれた書籍もあわせて読むことで、問題意識のどこが重なり、どこがずれるのかを理解できるでしょう。『まちづくりと景観』は日本におけるまちづくりの第一人者とも言われる田村明による著作です。

社会学の1分野である地域社会学について紹介しました。誰もが地域に属しながら成長・生活をしてきた反面、その地域について考える機会はとても少なかったのではないでしょうか。個人ではなく地域という視点で見る日本社会という点では、ただ本を読むだけでは深い理解や現実的な考え方をするのは難しいこともあります。この分野を知るには、まず事例を知るのが早道です。ぜひいくつかの事例を比較して読んで、興味を深めてみてください。

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