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「三島さんは、いいヤツでした」三島由紀夫没後50年。生前の友人たちがその素顔を語る

ダ・ヴィンチNEWS

『三島由紀夫を巡る旅 悼友紀行』(徳岡孝夫、ドナルド・キーン/新潮社)

 三島由紀夫の小説が好きだと言うと「彼の小説は非常に男性的ですね」と言葉を返されたことがある。

いま、編集部注目の作家

 三島由紀夫の小説を読んだことのない人は、そう思うのかも知れない。1970年、自衛隊市ヶ谷駐屯地で割腹自殺をした三島。死に方の凄惨さから、三島の名前を聞くと小説のイメージよりも先に、保守的な思想を持つマッチョを思い浮かべる人も多い。

 ただ三島の小説を全作読んでいる私でも、よくわからないことがある。「本当の三島はどんな性格の人だったか」ということだ。

 1970年に三島由紀夫は亡くなった。今もし生きていたとしたら、95歳だ。彼の死は本人の知らないところで、三島の友人だった記者徳岡孝夫さんと、日本文学研究の第一人者ドナルド・キーンさんを結び付け二人は旅に出た。旅行中、徳岡さんとキーンさんが自然と口にするのは、三島のこと。その内容は、世間で思われている「三島由紀夫」像とはまったく異なる様相を呈していた。

 本書は『悼友紀行―三島由紀夫の作品風土』として1981年に初版が発行。タイトルを『三島由紀夫を巡る旅 悼友紀行』(徳岡孝夫、ドナルド・キーン/新潮社)に変えて2020年3月、あらためて刊行された。

 キーンさんは三島を博識だが矛盾の多い人だったと語る。日本文学に非常に造詣が深かった三島。しかしフランスのロココ風建築の家に住み、和食が好きなキーンさんとは正反対で洋食を好んだ。日本語を駆使して美しい文章を書いているのにも拘わらず、自著よりその外国語訳を気にしていた。

“矛盾が多ければ多いほど、その人物は面白いと言うことができます。三島さんは、まさにそうだったのです”

 三島というと貴族を題材にした小説も多い。しかし反芸術的なものに激しく憧れる一面もあり、ヤクザ映画を賛美した。自分の小説の書評が文芸誌に掲載されないことを気にし、ノーベル文学賞に無関心を装いながら誰よりも一番であることを意識した。世間からの荒々しいイメージとは裏腹に、非常に筆まめでキーンさんから手紙が届くとその日か翌日中には返事を出していたという。

「ワッハッハ」と大声で笑っていたそうだが、あれは三島の素顔ではなかったのかも知れないと本書で二人は語る。キーンさんは「まえの」三島さん、「あとの」三島さんと表現し、「まえの」三島さんは傷つきやすい人だったそうだ。

 私は思わず三島の小説のことを考える。破綻のない巧妙な構成に、耽美的な描写。繊細な人しか書けない文章だ。

 三島は『仮面の告白』という小説を書いているが、三島自身、仮面をつけて傷つきやすい自分を隠し生きていたのかも知れない。

 ドナルド・キーンさんが亡くなった今、本書は三島の友人による証言録としてより貴重なものになった。読み終えたとき、私たちは三島由紀夫という一人の人間を見つけるだろう。

文=若林理央

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