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俳優、タレントとして活躍する石井正則がハンセン病療養所の今の空気を写真集に。写されているのは…?

ダ・ヴィンチNEWS

『13(サーティーン) ハンセン病療養所からの言葉』

 新型コロナウィルスの感染拡大を受けて、感染者や医療従事者、あるいは早い段階で感染爆発が起こった中国出身の人などへの差別も拡大している。感染した人の行動をあげつらい「●●したからだ」と罵ったり、治療にあたる看護師の子どもの登園を断ったり、武漢市民を殺害する旨の落書きが見つかるなどの心無い差別が、連日報道されている。

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 病気は本人の責任ではない。にもかかわらずずっと以前から、病気になった人への差別は存在していた。その代表的なものが、ハンセン病元患者への差別だろう。

 ハンセン病はらい菌という細菌感染により皮膚と末梢神経が侵されていく病気で、手足や顔が変容するなどの後遺症がある。ただ、菌自体の感染力は非常に弱く、現在では薬で治療できる普通の感染症の1つとなった。そして新規患者はごくわずかしかいないことから、今後患者が増加することはないと言われている。
(https://www.niid.go.jp/niid/ja/leprosy-m/1841-lrc/1693-general.html)

 だがかつて患者は徹底的に疎外され、療養所での隔離生活を強いられてきた。見た目が変わることで「前世で悪いことをしたせいだ」といった言いがかりをつけられ、尊厳を奪われることもあった。『13(サーティーン) ハンセン病療養所からの言葉』(石井正則/トランスビュー)は、ハンセン病療養所の現在を写した1冊だ。

 同写真集には、全国に13カ所ある国立ハンセン病療養所を8×10の大判カメラや35mmのフィルムカメラで撮影したものが収められている。また当事者たちが残した詩もちりばめられているものの、写真のキャプションや説明などはない。

 撮影者である石井正則さんは俳優やナレーターとして活躍しているが、30代以降の方ならば「アリtoキリギリス」のボケ担当と紹介したほうが伝わりやすいかもしれない。お笑いからハンセン病という振れ幅の大きさを見るにつけ、何がきっかけでこういった記録を撮り始めたのかを知りたかったが、そのあたりに関する記述も本書には潔いくらいない。

 だから、読み手は自分で想像して解いていくしかない。たとえば納骨堂や火葬所の写真からは、死してなお社会から切り離された場所にいることがわかる。「石女」と題された詩からは、戦前から1996年に優生保護法が母体保護法に変更されるまでの間、強制的に断種や不妊手術をされてきたことがわかる。

 もちろん、写真は悲惨な過去を想像させるものばかりではなく、収容者の心を癒したであろう花々や青々とした海、職員やそこに住む人の笑顔もある。130ページに掲載されている「ライは長い旅だから」を書いた谺雄二さんのように、詩人として活躍した元患者もいる。また国立ハンセン病資料館学芸員の木村哲也さんの解説によれば、2009年に施行されたハンセン病問題基本法により地域開放がうたわれ、地域住民とともに歩み出しているそうだ。

 元患者たちは総じて高齢となり、遠くないうちに入所者そのものがいなくなることだろう。だからハンセン病は、過去のものといえるかもしれないが、決して「もう終わった話」ではない。

 100ページと101ページには匿名で届いたと思われるハガキを写した写真が掲載されている。これは2003年に熊本県内にあったホテルが、ハンセン病元患者の宿泊を拒否した事件に関係したもので、こんな言葉が書かれている。

「あんたらもいい加減にしなさい(略)気持ちが悪いのは事実でしょ 一緒に温泉に入りたくはないですよ 断ったホテルに拍手」
「今まで障害者はかわいそうな人だから同情して来たけど、もう助ける気持ちもありません」

 隔離はやめ、自分たちから会いに行ったり手伝ったりはするけれど、「かわいそう」で「気持ちが悪い」彼らの方から自分たちの場所には来ないで欲しい――そんな差別心は21世紀になっても根強く残っているのだ。

 世界中の誰もが今、これまで体験したことのない危機に直面している。いつ感染するかわからない病気を前に自分にできることは、手洗いや消毒、マスクだけではない。過去から学び、今の危機を過去にするためには「何が一番不必要なのか」を知ることではないか。同書から私が読み取ったのは、そんな思いだ。

文=朴順梨

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