全世界が騙された! 娼婦の母親、11歳で女装売春、ドラッグ…90年代に大絶賛された“J.T.リロイ”の自伝的青春小説は、妄想癖によるでっち上げだった!
全世界が騙された! 娼婦の母親、11歳で女装売春、ドラッグ…90年代に大絶賛された“J.T.リロイ”の自伝的青春小説は、妄想癖によるでっち上げだった!
 90年代後半、カルチャー界の話題をさらったJ.T.リロイといえば、金髪の美少年作家。娼婦の母親のもとに生まれ、母親と客に性的虐待を受ける。11歳で女装売春、14歳でドラッグ、16歳で心を病んで入院……という生い立ちを書いた自伝的小説『サラ、いつわりの祈り』(金原瑞人:訳/アーティストハウス)がバカ売れ。マドンナ、ウィノナ・ライダー、U2のボノ、トム・ウェイツだの、セレブがこぞって大絶賛。
『サラ、いつわりの祈り』(金原瑞人:訳/アーティストハウス)

 90年代後半、カルチャー界の話題をさらったJ.T.リロイといえば、金髪の美少年作家。娼婦の母親のもとに生まれ、母親と客に性的虐待を受ける。11歳で女装売春、14歳でドラッグ、16歳で心を病んで入院……という生い立ちを書いた自伝的小説『サラ、いつわりの祈り』(金原瑞人:訳/アーティストハウス)がバカ売れ。マドンナ、ウィノナ・ライダー、U2のボノ、トム・ウェイツだの、セレブがこぞって大絶賛。

 ところが、リロイ本人はシャイすぎて長らく人前に出てこられなかった……。ここまで書いただけで、皆さんの脳裏には、『風と木の詩』のジルベールとか『BANANA FISH』のアッシュとかが浮かんじゃうと思うんですよ。

「ダークでハードな過去を背負ったパツキン美少年がカマカマカマカマホラレモ~ンされまくってたなんてっ! かわいそすぎて好物だわ」と。が、事の真相は、J.T.リロイなんつー可哀想な過去を背負った美少年は全くのでっち上げのキャラ。実は、非リア充で体脂肪率45%(推定)主婦(40代)ローラ・アルバートさんの脳内妄想が生んだキャラだったのである。

 そこらへんの事情をローラさんの一人語りで振り返ったドキュメンタリー映画『作家、本当のJ.T.リロイ』が公開中である。同作で、リロイを脳内出産した当時のローラさんの容姿を見ると、確かにまあ、「勝てない勝負に出るよりは、脳内妄想で永遠の勝ち組目指すよなあ」と、一瞬で説得されちゃう自分がいるのでして。幼少期より肥満といじめに悩み、「こんなデブでみっともない自分は受け入れてもらえないわ!」「この地獄は一生続くの」と考えていたローラさん。結婚生活や人生や鬱に倦んでいたある日、夫に隠れてバスルームからかけた自殺防止ホットラインで、「僕は性的虐待を受けている少年です」と名乗ってしまう。ここから、別人格の活躍が始まるんだが、なんかもう、この男キャラ志向といい、「誰もがファッ●したがる金髪の美少年になりたかったの」という直球の別人願望といい、腐女子の風上に置いて、未来永劫、非リア充の範として残すべきなんじゃないかとさえ思うローラさん。

 しかし、糖尿病で肥満の危険水域に達したローラさんが、胃のバイパス手術を受ける→痩せる→思ったより自分イケてる?→初めてのリア充生活スタート。という流れに乗ったあたりから、大学デビューのようにハメを外しすぎていく。リロイの友人としてセレブとの交友の道が開けたローラさんは、長年憧れだったスマッシング・パンプキンズのビリー・コーガンと楽屋で会えた瞬間、脳内のリビドー打ち上げ花火が500発ほど暴発。「実はJ.T.リロイって、このアタシなの!」と損得も前後も考えない自己アピールに走ってしまうわけです。

 ビリー・コーガンとやるためなら、何でもする。この馬鹿さ加減というか、暴走っぷりというか、あたしを見て見て見て見て見てお願いだから見て見て見て……という激しい自己承認欲求には、正直、負けた。ローラさんがビリー・コーガンとやれたかどうかは知らんが(やれなかった方に1万点)、自分に関心を持ってもらうためなら後先考えずに話を盛ってしまう性癖と、どこかでそんな自分を正当化しているローラさんのキャラクターの背景に隠された秘密を、『作家、本当のJ.T.リロイ』では、明らかにしていく(あくまでローラさん目線で)。

 ローラさんの人生で、ビリー・コーガンに「あたしがリロイ」と耳打ちで告白したのが、非リア充からリア充への最大の転機だったと思う。ビリーに耳打ちするローラに、思わず、「がんばれ、ローラ!」とアナ雪ばりに声をかけたくなったんだが、結局、彼女は内なるリロイを消すことができない。リロイなんて少年は実在せず、人前でリロイを演じていたのは夫の妹だったとマスコミにばれ、一緒にリロイ捏造をやってた夫が全てをぶちまけた後も、ローラさんは「私の中にリロイはいたの」と言い張る。うむ、確かに実在はしないけど存在はしたんだろうと思う。そして、彼女がさえない現実から逃げたいと思えば思うほど、心の中の美少年は美しく輝いたんだと思う。虐待と倒錯と精液まみれでも美しいリロイのように。

『サラ、神に背いた少年』(金原瑞人:訳/アーティストハウス)

 『サラ、神に背いた少年』は、めくるめくメタファーの連打で、口の中の精液やトレイラーに流れ落ちる汗すら詩的に表現される。男に買われて、しょっぱい×××をくわえる場面も神話のように美しい。つまりは「ありのまま」なんて何一つない世界が『サラ』だ。現実と理想の懸隔がメタファーを生むとすれば、これはリア充にゃ逆立ちしても書けない小説だろう。そういう意味では、やっぱりローラさんはビリー・コーガンとやってないと思う(しつこい)。いや、あるいは、ビリーとの一発程度じゃ現実世界に戻って来られないほど、ローラさんの闇は深かったんだろうか。沈思黙考。

文=ガンガーラ田津美

(更新日:2017年4月19日)

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