ヤミ市の面影を残す街に惹かれるのはなぜ? ニュー新橋ビル、浅草地下街、三茶の三角地帯…失われつつある「昭和の風景」
ヤミ市の面影を残す街に惹かれるのはなぜ? ニュー新橋ビル、浅草地下街、三茶の三角地帯…失われつつある「昭和の風景」
 気づけば再開発が進み、どこもかしこも整然と奇麗になってしまった街中で、ふと昭和の匂いが残った一画に出会ったとき、「この雰囲気、何かいいなぁ」と感じてしまう。

『東京ノスタルジック百景 失われつつある昭和の風景を探しに』(フリート 横田/世界文化社)

 気づけば再開発が進み、どこもかしこも整然と奇麗になってしまった街中で、ふと昭和の匂いが残った一画に出会ったとき、「この雰囲気、何かいいなぁ」と感じてしまう。

 『東京ノスタルジック百景 失われつつある昭和の風景を探しに』(フリート 横田/世界文化社)は、そんな感覚を持った人なら楽しく読める一冊だ。本書では、コラムページも含めて30ほどの“失われつつある昭和の風景”が写真とともに紹介されており、著者は実際に現地を訪れて、その地で生きてきた人たちに話を聞いて回っている。

 紹介するスポットは、ニュー新橋ビル、黒川紀章設計の中銀カプセルタワービル、築地市場、浅草地下街といった、昭和のノスタルジーを感じる定番の場所を網羅。個人的には、偶然通りかかって「何この通り……?」と衝撃を受けていたインターナショナルアーケードや、今の本社ビルより断然カッコいい旧電通本社ビルが取り上げられていたのも嬉しかった。

 また本書を読んでいると、「この雰囲気、何かいいなぁ」と漠然と感じていた“よさ”の正体が、ぼんやりと分かってくるのも面白い。

 たとえば昭和30年(1955年)に開業し、現存するものでは日本一古い地下街となった浅草地下街。この写真を見ただけで「……いい!」と唸ってしまう雰囲気だ。


 このノスタルジックな空間が育まれた背景には、これまで一度も本格的な修繕がおこなわれず、応急処置的な対処法のみでやりすごしてきた……という事情があることが、本書では紹介されている。ちなみに昭和20年代の設計時には、エアコンの室外機なんてものを通路に置くことは想定されていなかった。そのため、店内に置ける冷水式のエアコンが故障して以来、夏でも冷房なしの店があるそうだ。


 三軒茶屋の三角地帯の変遷の話も面白かった。この一画は戦後のヤミ市にルーツを持っているが、周辺が一気に変わったのは1964年の東京五輪開催がきっかけ。目の前を通る国道246号線は拡幅され、玉電(東急玉川線)が廃止。そして246の上には首都高も開通した。

 人の流れが変わり、交通機関のスピードも速くなり、社会の変化するスピードも早くなる。その中で、この一画だけは置き去りにされた形になり、結果としてノスタルジックな風情を漂わす場所になったのだ。


 我々がノスタルジーを感じる場所には、今のせわしない社会にはない、ゆったりとした時間が流れている。そんな場所は、いってしまえば“時代遅れ”な場所でもあるため、存続が困難な場所もあれば、本書の出版時にはすでに姿を消してしまった場所もある。

 著者のフリート横田氏は、そのような場所を訪れて話を聞きながら、「ずっとこのままで残ってほしいです」と言いたくなる。そして、その言葉を“無責任”と自ら感じて、日本酒と一緒に飲み込んだりしている(ときには口に出してしまうのだが)。


 失われつつある昭和の風景に懐かしさを感じる人は、著者の横田氏のように現地に足を運んでみてほしい。お店があるなら、そこでお金を使いながら、その空間と、そこで過ごす時間を楽しんでみてほしい。部外者である私たちは、その場所の存続に責任は持てないが、そういった行動を通じて応援をすることはできるはずだ。

文=古澤誠一郎

(更新日:2017年2月17日)
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