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女子テニス内島萌夏をカンガルーカップ優勝へと導いた涙の誓い!「奈良さんのように世界で活躍する選手になりたい」 <SMASH>

THE DIGEST

女子テニス内島萌夏をカンガルーカップ優勝へと導いた涙の誓い!「奈良さんのように世界で活躍する選手になりたい」 <SMASH>(C)THE DIGEST
 ゴールデンウィークの真っただ中に、岐阜市で開催される「カンガルーカップ国際女子オープン2024」(4月30日~5月5日/岐阜・長良川テニスプラザ/ハードコート/W100)の最終日。表彰台の真ん中で、彼女は、優勝プレートを高々と掲げた。

 現在22歳の彼女が、同大会に出場するのは2018年以来。それは彼女にとって忘れがたい、キャリアにおける、一つの始まりの日だった――。

 6年前のこの日、この表彰台の上で、彼女は大粒の涙を流していた。

 内島萌夏、当時16歳。身長170センチ超えの大型新人は、主催者推薦枠で出場した予選を突破し、大きなストライドで決勝まで勝ち上がった。

 その決勝で対戦したのが、奈良くるみ。小柄な身体で世界の32位まで至った、当時の日本テニス界を牽引する存在であった。

 決勝戦では、第1セットを奪った奈良が、第2セットでもセットカウント5-1と大きくリード。だがそこから、内島が驚異の追い上げを見せてタイブレークに。タイブレークでも内島がリードしたが、最後はひとつのミスショットから流れが変わり、奈良がからくも振り切った。

「奈良さん、優勝、おめでとうございます」

 表彰式での内島はそう言うと、溢れる涙に胸を塞がれ、言葉を続けられなかった。幾度も手の甲で目もとを拭い、「多くのことを今日の試合で学びました」となんとか絞り出した彼女は、涙声で、それでも力強く断言した。

「奈良さんのように、世界で活躍する選手になりたいです」……と。
  それから、6年。決勝でアリーナ・ロディオノワ(オーストラリア/104位)に6-3、6-3で勝利して優勝を決めた内島は、ファミリーボックスへと駆けあがり、チームスタッフたちと抱擁を交わす。その中には、2022年に現役を退き、現在は日本代表チームのコーチを務める、奈良くるみの姿もあった。

 16歳の日の大躍進で期待の若手となった内島だが、そこからの足跡は、必ずしも順風満帆だったわけではない。プロとして戦う上での拠点が定まらず、コーチ探しにも時間がかかった。ようやく足場が固まったのは、2019年末。多くのトッププロの指導経験を持つアラン・マーに自ら売りこみ、中国・広州のアカデミーへと移った。

 ところがほどなくすると、世は新型コロナ禍に覆われる。とりわけ中国は渡航規制が厳しく、国内に留まらざるをえない時間を過ごした。ただ内島本人も、そしてコーチも「それが良かった」と断言する。その間に、それまで課題としていたサービスからフォアハンドの打ち方まで、「全て変えた」からだ。

 中国でもようやく規制が緩和され、本格的にツアー参戦を再開した2022年、内島は快進撃を見せ104位でシーズンを終えた。
  だがトップ100突破も目前に迫った昨年は、苦しみの1年となる。戦いの場がツアーレベルに上がったことで、対戦相手のレベルも、そしてテニスのセオリーも大きく変わった。以前と同じようにプレーしていても、なかなか勝てない。攻めるべきか、じっくり打ち合うべきか、もっとプレーの幅を増やすべきか……試合のたびに葛藤が生まれ、試行錯誤が続いた。

 そんな時にも相談に乗ってくれたのが、奈良だったと内島は言う。

「去年、うまくいかなくて悩んでいた時期も、くるみさんはすごく相談に乗って下さり、モチベーション上げてくださった」

 自身も、101位までランキングを上げた後に苦しんだ奈良の経験談は、内島に前を向かせる。望む結果が得られなくとも、悩みや迷いから目を背けず進んできた経験は、今、実を結びつつある。1月にインド開催のITF W50グレード大会を制すると、4月中旬にはスペインでITF W100でも優勝。

「最近サーブが良くなってきて、ポイント獲得率も上がってきました。サーブが良いと全体のリズムが良くなるので、リターンゲームでも良い感じでいけてる気がします」と内島。

 さらには、トレーニングの成果にも自信をのぞかせる。

「走れるようになり、ディフェンス面でも自信を持てるようになったので、攻めるだけではなく、ラリーでポイントを作れるようになってきた。自分に余裕があると、リラックスして良いプレーができます」

 そのようなベースアップが、今の戦績の背景にあるのだろう。今回のカンガルーカップでは、「追われる立場のプレッシャーもあった」なかでの優勝に、「少し成長できたのかな」と照れたように笑った。
  今回、内島の勝ち上がりをコートサイドからつぶさに見てきた奈良は、“妹分”の最大の成長を、精神面に見いだしていた。

「コートに立っている時の萌夏に、オーラがあった。すごく良い姿勢、良い顔で試合をしているなというのが、変わったなと感じたところです。テニスの能力的には、6年前に対戦した時から、人にはないものを持っていると感じていました。今週は苦しい試合も多かった中で、精神面でのタフさが見られたのがうれしいですね」

 そう言い懐かしさに頬を緩める奈良は、「あの時に勝っておいて良かった!」と、破顔しカラカラと笑った。

 6年前に表彰台で口にした、「奈良さんのような選手になる」の目標に近づいていると感じるか――?

 その問いに内島は、「まあ、だいぶ遠いですけれどね」と目を細めて、こう続けた。

「先週、今週と追われる立場を経験し、私と対戦した時の奈良さんは、こんな気持ちだったのかなと思いもした。ちょーッと近づけてるかなとは思いますけど……、まだまだですね」

 6年前の自分を超え、だからこそリアルな実感を伴い覚える、先達との距離感。

「早く追いつけるように、頑張ります」

 あの時と同じ場所に立ち、だが異なるトロフィーと決意を抱え、同じ背を追っていく。

取材・文●内田暁

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