「時々思い出す短編小説がある/ただすごい良かったということだけ覚えていて/タイトルも内容もあんまり覚えていない」
上記は2024年4月にXで投稿された漫画『幻笑奇譚(げんしょうきたん)』冒頭のモノローグの一節だ。忘れていた小説を追い求め、主人公はさまざまな場所へ足を運ぶこととなる。とある作品を巡る、文学の魅力を再認識できる短編漫画だ。
(参考:タイトルのわからない小説を探して……創作漫画『幻笑奇譚』を読む)
本作は作者・山原中さん(@yamahara_naka)の実体験がきっかけとなった作品なのだという。本作を創作したきっかけ、印象に残っているシーンなど、話を聞いた。(あんどうまこと)
ーー本作を創作したきっかけを教えてください。
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山原中(以下、山原):友達と様々な漫画が保管してある施設に行ったことがきっかけです。そこで昔、雑誌で読んでから記憶に残っている読切漫画のことを思い出して、載っていると思った雑誌を閉架倉庫から取り寄せてみたのですが、その作品は載っていませんでした。
インターネットで他の号も調べたのですが、その作品は見当たらなくて、作者の方がやっていたブログなども今は残っていない……。そんな話を友達に話したら、ただの記憶違いの話なのに「漫画になりそうな話だね」と言ってくれました。「これ漫画になるのか」と思いつつ、ちょうどコミティア出展用の漫画のネタを探していたので、形にしてみようかなと思いました。
ーー中学校の部室で女の子が文芸誌を読むシーン、カーテンが揺れ風の存在を感じる1コマが印象に残っています
山原:前ページから時間が経っていることと、さわやかで静かな一人の空間であることを表現しようとしてこの描写を入れました。
ーー山原さんにとって印象に残っているシーンは?
山原:「人生で初めてファンレターじみたものを書いてーー」からはじまる回想シーンです。この物語はもともと自分の体験談をもとにした現実的な話として描いていたのですが、途中であまりにも起伏もオチもないことから「そのまま描いたら自分は楽しいけど、読んだ人はそうでもないかも?」と思い「少し不思議」な要素を足して改変したという経緯があります。