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『366日』遥斗の混乱を映し出す眞栄田郷敦の“瞳” 心が震える希望あふれる展開に

Real Sound

『366日』©️フジテレビ

「自分には期待してもいいんじゃない? 明日の自分は今日よりいいんじゃないかって」

参考:広瀬アリス、月9主演は「いまだに信じられない」 座長として挑む『366日』への意気込み

 事故前、明日香(広瀬アリス)にそう言っていた遥斗(眞栄田郷敦)。『366日』(フジテレビ系)第5話は、そんな遥斗の言葉を実感するような希望ある回となった。事故から約3カ月、意識不明のままだった遥斗が目を覚ました。だが、遥斗は転倒時に脳を損傷。後遺症として高次機能障害を患っており、軽度の右半身麻痺と、日常生活の動作が上手くできない失行症、そして記憶障害が見られた。遥斗の場合、一般的な知識に関する意味記憶は残っているが、自分が体験してきたことや関わりのあった人物の記憶(=エピソード記憶)が失われているという。よって明日香はおろか、輝彦(北村一輝)たち家族のことも覚えていなかった。

 長い眠りから突然目覚め、自分のことも周りのことも分からない状況に置かれた遥斗の混乱を映し出すのが眞栄田郷敦の“瞳”だ。回想シーンで見る過去の遥斗とはまるで別人。キラキラと輝いていた瞳はすっかり光を失い、感情も鈍麻している。見舞いにきた智也(坂東龍汰)や莉子(長濱ねる)の問いかけに対する反応も薄い。

 そんな今の遥斗の姿を見て、輝彦は「小さかった頃のことを思い出す」と明日香に語る。幼い頃の遥斗は神経質で大人しく、人見知りも激しかったが、輝彦とキャッチボールを始め、野球に出会ってから少しずつ変わっていったという。みんなに好かれていた社交的で明るい性格は、遥斗が後天的に手に入れたものなのだ。遥斗の気遣い屋なところや黙々と努力する姿勢が変わっていないように、人は生まれ持った性格や能力もあるが、どんな人や物と出会い、何をして、どう感じたかでどんどん変化していく。

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 そういう人格の形成に最も影響する記憶を失ってしまった遥斗。忘れられてしまった周りの人間も辛いが、何を忘れてしまったのかも分からない本人はもっと辛い。そんな状態では目の前にいる人間が本当に味方なのかどうかも判断がつかないし、思い出話をされても大事なことを忘れてしまった自分を責めているように感じられるだろう。加えて身体が思うように動かない遥斗は追い詰められ、病院を抜け出してしまう。

 明日香が必死で捜索する中、声をかけてきたのは遥斗が助けた野球少年の翔(中村羽叶)だ。翔は事故以来、自分のせいで遥斗に怪我をさせてしまったという罪悪感から心を閉ざし、病院にも一人で何度も見舞いに訪れていた。そんな翔が遥斗を見たという場所に急ぐ明日香。橋から身を乗り出したところを明日香に制止された遥斗はようやく苦しい胸の内を吐露する。自分には生きている価値がないと感じている遥斗に、「あなたが生きててくれるだけで嬉しい。戻ってきてくれてありがとう」と声をかける明日香。その言葉を受け、遥斗は理屈じゃなく明日香に心を開いたように見えた。

 そもそも明日香と遥斗は同窓会で10年ぶりに再会し、新たに2人で未来を作ろうとしていたのだ。遥斗がこの先、明日香を思い出すかは分からない。だけど、たとえ思い出せなくても2人ならこうして一から関係を作っていけるのではないだろうか。そのチャンスを、遥斗は作ってくれた。

 新たに始められるのも、生きていればこそ。遥斗が生きてくれているから、助けられる人がいる。翔も遥斗が生きてくれていたから、謝ることができ、リハビリを再開した遥斗の頑張る姿に励まされ、野球を楽しむ心を取り戻した。そんな翔が智也とキャッチボールする光景を楽しげに見つめた後、輝彦に誘われ、久しぶりにグローブを握る遥斗。輝彦から受けた球を投げ返していると、ふと幼い頃の記憶が蘇り、遥斗は「お父さん」とつぶやいた。その瞬間、みんなが笑顔になる。明日はきっと今日より明るいと信じ、日々を懸命に生きていた遥斗の姿はいつも周囲の人を励ましていた。それは今も変わらない。やっぱり、遥斗はみんなの太陽だ。

 希望を感じるエピソードに心が震える一方で、やはり気になるのは遥斗の介助に当たる看護師・宮辺紗衣(夏子)の存在。第5話のラストでは、彼女がロッカーから遥斗の高校時代の名札を取り出す場面もあり、過去に何らかのつながりを感じさせる。明日香から翔のことを聞かされた時に囁いた「罪悪感……辛いでしょうね」という言葉にも妙に実感がこもっていた。高校時代、駅で痴漢に遭っていた隣の高校の女の子を助け、大事な試合に遅れた挙句にぼろ負けしてしまったことがあるという遥斗。もしかしたら、紗衣はその時の女の子なのではないか。莉子は助けてもらったくせに遥斗を無視したと怒っていたが、罪悪感から顔向けできず、その後悔を今も引きずっているとしたら? 少なからず名札を手放せないほどの特別な感情を遥斗に向けている彼女の存在が、明日香と遥斗の関係に影響を及ぼしそうな気がしてならない。

(文=苫とり子)

 
   

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