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『街並み照らすヤツら』“悪だくみ”が取り返しのつかない事態に 前田弘二による秀逸な構図

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『街並み照らすヤツら』©日本テレビ

 ケーキ屋を営む正義(森本慎太郎)が保険金を得るため、幼なじみの荒木(浜野謙太)の悪だくみによって“偽装強盗”に手を染めていくという『街並み照らすヤツら』(日本テレビ系)。そもそも穴だらけの完全犯罪計画に思わぬ綻びが加わることで、取り返しがつかない事態に発展する。物語における完全犯罪というものは決まってロクなことにはならないのだが、こうしたプロットにどことない既視感を覚えて記憶をたどっていくと、なぜか真っ先に思い浮かんだのはシドニー・ルメットの『その土曜日、7時58分』。とはいえこれが前田弘二作品であることを踏まえれば、もっと喜劇的な原点がどこかにあるはずで、それはゆっくりと探していくことにしよう。 

参考:森本慎太郎の“よくしゃべる”演技が再び? 『街並み照らすヤツら』はクセ強会話劇に期待

 さて、5月4日に放送された第2話は、前回起こした偽装強盗がどういうわけか酒屋の娘・莉菜(月島琉衣)にバレてしまっており、彼女から父・龍一(皆川猿時)が営む酒屋にも強盗に入ってほしいと頼まれるところから始まる。莉菜の目的は店を救うことではなく、自分の大学進学の資金を捻出することと、いつも飲んだくれている龍一を恐怖のどん底に陥れること。乗り気になれない正義に対して、荒木はやる気満々。さらにケーキ屋強盗に参加したマサキ(萩原護)とシュン(曽田陵介)の2人もこの計画に参加することとなるのである。

 相変わらず危なっかしい荒木とマサキ&シュンの3人。莉菜を交えて強盗計画を練るなかで、連絡用のグループを作ろうとするのだが、やたらとグループ名に犯罪集団であることを想起させるようなワードを入れようとしがち。挙句、用意した催涙スプレーを試して悶えたり、暗号でのやり取りをするもその意味を解読することができなかったりと波乱が巻き起こる。良く言えば掴みどころのない、悪く言えば突き抜けて愚かな男性キャラクターと、冷静で理知的で策略家な女性キャラクター(しかも相対的に年少者である)の掛け合いは、スクリューボールコメディの基本的な所作。前回正義と彩(森川葵)の掛け合いでも見受けられたこうした部分を、莉菜も担うとなれば喜劇としての奥行きは格段に広がる。

 マサキ&シュンの掴みどころのなさといえば、序盤で彩が働くスナックに“打ち上げ”のために足を踏み入れるシーン。ここで思わず彩に「僕のこと覚えてる?」と言ってしまうシュンだが、なんとかマサキがフォローしてことなきを得る。ここで彩は、強盗のことを思い出すから怖くて店に立てなくなったという話をシュンにするわけだが、お酒の入る席=愚痴や不満、悩みをさらけだすために機能する場所というのもこの第2話におけるポイントのひとつ。

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 酒が入るとたちまち無防備になる=逆を言えば酒が入っていないと大変なことになるという図式が、偽装強盗を決行する当日に突然龍一が断酒を宣言することによって波乱の一要素になる。とはいえそこで娘の莉菜がお酌をしてうまい具合に酒を飲ませることでその波乱は無事に拭われるわけだが、結局その無防備さをもって龍一は酒屋の常連客たち(この商店街の他の経営者たち)に偽装強盗のことを話してしまう。これがおそらく、今後のエピソードにおいて正義を追い詰めることになるのであろう。

 それにしても今回は秀逸な構図がたびたび訪れる。酒屋の常連客から言われた“不憫”という言葉をベッドに横たわりながら検索し、このままじゃ嫌だと莉菜が慌てて起き上がると、その勢いで電気スタンドが落下して部屋が真っ暗になる。これが終盤、偽装強盗の最中に神棚のようなところに飾られていた“一番高い酒”が落下するのを、薄暗い店内で莉菜が体を張ってキャッチする一連で回収される。前者は偽装強盗を知るきっかけとなり、後者は龍一にすべてを打ち明けるきっかけとなる。落下物を救えたか否かが彼女の心の安寧を暗示しているかのようだ。

 また、帰宅した莉菜に龍一が突然ギターを取り出して弾き語りを始めるシーン。画面の左手前に辟易とした表情を浮かべている莉菜の後ろ姿があり、右奥で自作の歌を歌い上げるという突発的にシュールな状態となった龍一の姿がある。これはその後のケーキ屋の2階のシーンで、スナックのバイトに行くために窓から縄梯子を下ろして出かけていく彩と、その直前のやり取りを受けてしんみりとした正義の背中のショットと連動する。なんとも奇抜なシチュエーションだが、編集を割らずに彩がフレームアウトするまでを部屋の全体像の引き画一本で見せてくれただけで、かなり満足感が高い。

(文=久保田和馬)

 
   

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