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『虎に翼』『光る君へ』が描く令和まで地続きの問題 吉田恵里香&大石静の脚本術が光る

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『虎に翼』写真提供=NHK

 NHKの大河ドラマと朝ドラ(連続テレビ小説)は、話数が多く長期にわたって放送されるため、後でまとめて観ればいいやと思い、後回しになることが多いのだが、今年の大河ドラマ『光る君へ』と朝ドラ『虎に翼』は、毎週リアルタイムで追いかけている。どちらも、遠い過去の時代を舞台としながらも、令和の現代を生きる自分たちが直面している問題が地続きで描かれているように感じ、他人事とは思えない。

参考:『虎に翼』が描くのは男女の違いではなく制度そのもの “轟”戸塚純貴の突出したバランス

 『光る君へ』は平安時代を舞台にした大河ドラマで、『源氏物語』の作者・紫式部として知られるまひろ(吉高由里子)と、まひろのソウルメイトで、藤原氏による摂関政治の徹底によって、権力の頂点に立つ藤原道長(柄本佑)の物語となっている。

 『源氏物語』のような平安王朝を舞台にした煌びやかな恋愛ドラマになるのではないかと思われた本作だったが、まひろの母・ちやは(国仲涼子)が藤原兼家(段田安則)の次男で、道長の兄にあたる藤原道兼(玉置怜央)によって衝動的に惨殺される第1回以降、血生臭い暴力や権力闘争が執拗に描かれる煌びやかな地獄絵巻が展開されている。何より際立っているのが、京の都で優雅に戯れる貴族たちと貧しい暮らしを強いられている庶民の格差だ。

 大河ドラマの定番となっている戦国時代や幕末と比べると、戦のない平和な時代に思える平安時代だが、災害や疫病も多く、一見平和で上品な世界に見えても、さまざまな矛盾や差別が存在した残酷な時代だったのかもしれないと『光る君へ』を観ていると感じる。同じように表面上は平和に見える令和日本も未来から見たら地獄のような時代だったと振り返られるのかもしれない。

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 脚本を担当する大石静は『セカンドバージン』(NHK総合)を筆頭とする不倫を題材にしたメロドラマの名手として知られているベテラン脚本家。『光る君へ』も、まひろと道長の悲しいすれ違いのメロドラマが物語の主軸で、だからこそ馴染みの薄い平安時代の物語がすんなり入ってくるという、ベテラン作家ならではの安定感があるのだが、同時により先鋭化しているのが政治ドラマとしての側面だ。

 宮藤官九郎と共同脚本で書かれた政治家と女優の夫婦の離婚劇を描いた配信ドラマ『離婚しようよ』(Netflix)を筆頭に、近年の大石作品は、劇中に政治の描写を取り入れることに積極的だったが、『光る君へ』は舞台を平安時代に移すことで、これまで試行錯誤してきた政治劇を描くことに成功しており、個人のメロドラマと政治権力の物語が有機的に結びついた傑作となっている。

 2010年代に入り、災害や経済不況が続き、日本の政治状況が年々不安定になってきていることに対する苛立ちもあってか、『光る君へ』のように社会的テーマをエンタメ作品の中に積極的に取り入れたドラマを手がける作り手が増えてきている。

 4月から始まった『虎に翼』はその極北と言える作品だ。日本初の弁護士、裁判官、裁判所長を務めた三淵嘉子の半生を題材にした本作は、昭和初頭を舞台に猪爪寅子(伊藤沙莉)が弁護士になるために明律大学の女子法科に入学する朝ドラだ。女子学生が法律について学ぶ姿を描く学園ドラマテイストの本作だが、劇中で繰り返し描かれるのが日本社会に蔓延する女性差別だ。

 当時の民法において、婚姻状態にある女性は無能力者とされており、夫の許可なく財産を利用したり、働きに出ることができないと知り、寅子は唖然とするが、当時の法制度と社会の価値観によって女性が酷い状態に置かれ苦しんでいたかを、本作は執拗に描いていく。

 そんな社会の隅々に蔓延する女性差別に対する怒りが「武器と盾になり得る法律を学び弁護士を目指す」という寅子たちの学ぶ意志につながっている。

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