五条坂を下った先にある小川文齋家住宅登り窯のレンガ煙突は、北側の六原公園からよく見える。五条坂の登り窯は、1971年に施行された京都府公害防止条例以後、次第に姿を消した。小川文齋は現在6代目で、京焼を代表する作陶家のひとりである。文齋窯は6室がつながった本格的な登り窯で、煙突は正方形平面の美しいものだ。途中に節があるのが珍しい。ひょっとすると、上を積み足したのかも知れない。
08.丸みを帯びたフォルムが優しげな雰囲気「金光院」
五条通りをはさんで小川文齋家住宅の斜め向かいにある金光院は屋根がむくっている。「むくり」とは、反りの反対で丸みを帯びたかたちのことだ。高台寺の有名な茶室・傘亭の屋根に似ている。茶室のように人を招き入れる親し気なおもむきが備わっている。緩やかな曲線を描く屋根は、金属で葺かれている。こけら葺きに似た、柔らかな表情がある。
富家はこけら葺きの室生寺金堂が好きだったから、それに似せたのかも知れない。富家らしい、優しい建築である。
09.なぜか出桁造りの住宅建築「河井寛次郎記念館」
金光院のすぐ南の河井寛次郎記念館は、民芸メンバーの陶芸家自邸を美術館にしたものだ。内部も当時のまま置いてあり、落ち着いたひとときを楽しめる。町並みに溶け込んでいるが、建物の2階がせり出しているのは、東日本に分布する民家様式の出桁造り(せがい造り)で京町家ではない。大きな登り窯も見どころだ。
10.棚橋の貴重な石造鉄筋コンクリート造「半兵衛麩本店」
当ルート最後は、京阪清水五条駅に戻る手前の半兵衛麩本店だ。構造系の建築家棚橋諒が、戦後復興のために考案した石造鉄筋コンクリート造の数少ない貴重な作例だ。石造鉄筋コンクリート造とは、型枠代わりに石を積むため構造的に強くなり、型枠の節約にもなり、しかも積んだ石が外壁仕上げを兼ねるという工法だ。石積みの表面が荒削りなので、柔らかくて暖かい印象を与える。
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円満字 洋介
建築家