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モーリーの警鐘。中国EC「Temu」「SHEIN」急拡大の裏にある不都合な現実とは?

週プレNEWS

中国発の激安ECといえば、近年話題の中心だったのはファッションECの「SHEIN(シーイン)」です。

毎日数千から1万(!!)ものアイテムをリリースする一方で、他ブランドのデザインの盗用疑惑や、生産工場の劣悪な労働環境などが問題視されていますが、同社の広報窓口はメディアからの質問に対し「現在調査中です」「事実ではない」あるいは「部分的に見直した」など、毒にも薬にもならない回答を繰り返すのみ。

企業の社会的責任は年々重視され、ナイキもH&Mもユニクロも無印良品も、人権、多様性、環境問題に積極的に取り組まなければならなくなっているにもかかわらず、です(ただし、SHEINは表向きには多様性やボディポジティブを高らかにアピールしています)。

昨年には、アメリカの有名インフルエンサーの女性がSHEINに招かれて中国の工場を見学するツアーに参加したことが大騒動に発展しました。いわゆるアゴアシ付き、通訳付きの〝プロパガンダツアー〟だったわけですが、彼女はその様子をSNSに投稿します――メディアは強制労働だというけれど、そんなことは全然なかった。世の中の情報をうのみにせず、正確な情報に触れることが大切だと学んだ、と。

この投稿はXで1100万回以上閲覧されました。もちろん「否」が中心の、賛否両論の大炎上の結果として。

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この騒動が示したことは、無知で無垢な消費者からの熱い支持です。まっとうなジャーナリズムより、自分たちの手の届く楽園を現実化してくれているサービスや、その代弁者たるインフルエンサーを信じたい。そんな世界中の若者たちの欲望を、こうしたECサービスはダイレクトにわしづかみにしているのです。

今年3月末にはフランスの国民議会で、ファストファッション広告の制限や、低価格の輸入品に対して一定の罰金を科すことを定めた法案が全会一致で可決されました。これは事実上、SHEINやTemuの浸透を食い止めるための決議ともいわれています。

その背景にあるのはアパレル製品の過剰な大量消費・大量廃棄問題です。欧州に洪水のように押し寄せるウルトラファストなアパレル製品は短期間で「いらないモノ」となり、その多くは古着としてアフリカ大陸へと運ばれ、そこで最終廃棄される流れができている。しかし当地には十分な焼却施設もなく、むき出しのまま廃棄され土壌や河川を汚染しているのです。これが「安くてかわいい」の裏側にある現実です。

環境負荷や人権侵害を度外視した労働が組み込まれた生産ラインと、露骨なマーケティングによって展開される激安ECのウルトラファストな商品に若者たちが引き寄せられるのは、そもそもグローバルな規模で雇用が不安定化した結果でもあるでしょう。あらゆる社会課題がテーマパークのように同時展開しているこの問題に対しては、現代の先進国の消費者である以上、誰しもなんらかの接点があるはずです。

それでもなお「自分には関係ない」と言い切る人もいるでしょう。しかしそれは、もはや「無知」や「無垢」では済まされない態度であると私は思います。

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