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「マネージャー」としての役割を果たし、「プレーヤー」の成長を喜ぶ。老いとBA.2(前編)【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】

週プレNEWS

やがてそのマネージの対象が、雇用しているポスドクだけではなく、指導を担当する学生も含まれるようになる。東京に異動し、自分の研究室を主宰するようになると、マネージするのは人だけではなく、研究室の設備やルール、そして、研究室を運営するための費用などまでが対象になる。中小企業の社長のようなものである。

そしてコロナ禍。G2P-Japanを発足・主宰するようになると、マネージの対象は、北海道から九州まで散らばる、それぞれの研究室を運営するPI(研究者主宰者)たちとの連携も含まれるようになる。初めはほんの数人で始まったG2P-Japanは、今や10人以上のPIたちが連携し、総勢80人以上のメンバーが参画する大所帯となっている。研究の世界に足を踏み入れたばかりの20歳そこらの頃からすれば、これはもはや想像をはるかに超えた世界である。

■2022年1月、新しい変異株発見!

「マネージャー」としての役割を果たす中での喜びのひとつに、「プレーヤーの成長」というものがある。G2P-Japanの活動の中でも、それに触れる機会があった。今では完全に死語であろう、当時は「ステルスオミクロン」などと呼ばれたりもした、オミクロンBA.2株のプロジェクトのときのことである。

――時は2022年初頭。2021年11月末に突如出現したオミクロン株(BA.1)のスクランブルプロジェクトを終え、その論文の「リバイス(改訂)」依頼の連絡を待っている頃の話である。(注釈:時系列としては、この連載コラム17話の直後の話です。なので時間のある方は、17話を読んでから以降を読み進めると、臨場感が増すと思います)

怒涛のスクランブルプロジェクトを乗り越え、オミクロン株(BA.1)の論文をクリスマスの夜に『ネイチャー』に投稿。昼前に起きて、ブランチを食べ、昼寝をし、夕食をとり、晩酌をして寝る。初詣にも出かけないような寝正月を過ごし、おそらく年明けに始まるであろう論文の「リバイス(改訂)」作業に向けて、できるかぎり英気を養った。

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そして、年明けの仕事始め。疲れは完全に抜け切らないもののラボに出勤し、久しぶりに自分のデスクに座ってひと息ついた私のところに、そろそろと特任助教(当時)のIがやってきた。

I「佐藤先生…」
私「おお、あけましておめでとう。どうした?」
I「お話があるんですが…」
私「? もったいぶって、一体何?」
I「ちょっとお伝えしたいことがあるのですが…」

私の隠しきれない疲労感を慮り、なかなか切り出せずにいたのだろう。やがて意を決したように、Iが続けた。

I「次の変異株が見つかりました」

――私にはよく意味がわからなかった。次の変異株? BA.1株が出現してまだひと月ばかりで、しかももうこれだけ世界中で広がっているのに、もう次の変異株? 何言ってんの? そんなことある?

仮にもしそうだとしても、当時の私たちは、日本チーム主導の論文と、並行して共同研究していたイギリスチーム主導の論文を、両方とも『ネイチャー』に投稿した直後で、抜けきらない疲労困憊の中にあった(17話)。これからは、そのふたつの論文の「リバイス(改訂)」の作業が控えている。

動転した私の口をついて出たのは、こんな一言だった。

「俺を殺す気?」

※後編はこちらから

文/佐藤 佳 写真/PIXTA

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