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『2001年宇宙の旅』『オデッセイ』科学の正確性を追求する「ハードSF」の世界 名作宇宙映画のリアルさは?

Real Sound

   さて、宇宙を舞台にしたSFは牧歌的でファンタジックな『スター・ウォーズ』シリーズや、一つのユニバースを生み出している『ガンダム』、映画史上有数の珍作として知られる『プラン9・フロム・アウタースペース』まで様々だが、柳田理科雄氏が実写映画のみを取り上げた『空想映画読本』でその科学的正確さを絶賛していたのが『2001年宇宙の旅』だ。

  巨匠スタンリー・キューブリック監督の代表作にして、映画史上に残る名作であり、その抽象的で難解な描写がシネフィルたちを悩ませてきた作品でもあるが、本稿で強調したいのは同作の宇宙の描写が科学的であることだ。

  まず最初の原始人が出てくるシークエンスが終了し、宇宙船が飛んでいる場面に切り替わると、何かが足りない気がする。『スター・ウォーズ』や『アルマゲドン』などのSFにありがちな「音」がしないのだ。宇宙船が飛んでいるのに、エンジンがうなりを上げる轟音がしない。飛行機に乗っていると耳栓をしたくなるようなあの音が、猫がノドを鳴らすほどの音すらしないのだ。

  奇妙に思えるかもしれないが、これは正しい。宇宙空間は真空だ。音が聞こえるという現象は、音の振動が空気を震わせることで起こる現象で、真空である宇宙空間が無音の世界になるのは自明のことなのだ。科学描写にこだわるハードSFは共通して宇宙空間の場面で音がしない。まずこの一点でその作品の科学描写へのこだわり具合がわかる。前述の『オデッセイ』も『ゼロ・グラビティ』も『インターステラー』も、実写ではなくテレビアニメだが『プラネテス』も宇宙空間の場面は無音である。

  さらに先を見ていくと、『2001年宇宙の旅』は設定がいちいち合理的、いちいち科学的である。作品の舞台は架空の2001年で、この世界では一般人が宇宙旅行できるようになっているようだ。宇宙船の客室乗務員がサーブしている場面が出てくるが、彼女たちの服装は体にピッタリとフィットするデザインで、髪は帽子でまとめている。宇宙は無重力だ。飛行機の客室乗務員によく見るスカーフとスカート姿だとフワフワと浮いてしまい邪魔で仕方ない。当然ながら髪の毛を帽子の中にまとめておくのも適切な判断である。加えて、柳田氏は客室乗務員が全員に配膳を終えるまでの時間を劇中の描写から計算しているが、計算の結果、配膳にかかる時間は21分だったとのことだ。まったく無理のないタイムスケジュールである。

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  間と言えば、同作の宇宙船のクルーが番組のインタビューに答える場面で「ディスカバリー号は地球から8,000万マイル離れているので、交信に要する7分間はカットして編集している」と前置きしている。8,000万マイルはおよそ1億3,000万km。電波は秒速30万kmなので、到達に7分7秒かかる。ここの数字も正確である。クリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』でも、マシュー・マコノヒー演じる主人公が地球と交信する際に交信に要する時間に言及があった。『インターステラー』もハードSF的な要素の強い作品だが、おそらくノーランの頭には『2001年宇宙の旅』の存在も過っていたのだろう。

  宇宙空間は無重力に加え、空間的な特徴として上下左右が存在しない。『ガンダム』シリーズのガンダムは人型をしているが、人型にすることは上下左右の存在しない宇宙空間においては不合理以外何物でもない。アニメ『プラネテス』では新人クルーの田名部が無重力空間に慣れておらず、クルクルと回ってしまう描写があったが、無重力の船内での姿勢制御にはコツがあるようだ。

  宇宙空間には抵抗というものも存在しないので、一度放たれた物体は何かにぶつかるか逆方向からエネルギーを加えないと止まらない。アルフォンソ・キュアロン監督の『ゼロ・グラビティ』は映像表現の限界を一歩先に進めた大傑作だが、この作品は宇宙の描写もすごい。

  まず冒頭で、ジョージ・クルーニー演じる宇宙飛行士が船外活動をしているが、彼の着用している船外活動用の宇宙服には様々な位置に噴射機構がついている。前述のとおり、宇宙空間には上下左右も抵抗もないため、姿勢制御をするにはこのような機構が必要になる。また、劇中でウォッカをストローで飲む場面があったがここも科学的だ。宇宙空間は無重力なので、グラスを傾けても液体は落ちてこない。そのため、何かを液体を飲むなら某ゼリー飲料の容器のように中身を絞り出すか、ストローで吸い込むかになる。いずれも奇妙に見えるかもしれないが、宇宙空間とは我々地球人の常識が通用しない場所なのだ。

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