(ヴェネツィアのサン・マルコ広場からジュデッカ運河とサン・マルコ運河の対岸にあるサン・ジョルジョ・マッジョーレ聖堂を望む。)
岡本勝人は、昨年の『仏教者 柳宗悦』(佼成出版社)をはじめ、年に一冊ずつ評論集を出している。
とりわけ此度の『海への巡礼』は、東西にわたる豊富な知識に裏付けられた文化論ともいうべき書である。
知識が豊富すぎてなかなか読み取れないきらいもあるが、筋をたどっていけば、これまで誰も言わなかったことが大胆に述べられている。
(『海への巡礼』の装丁は、清岡卓行氏のご子息の清岡秀哉のデザインです。)
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●生と死をめぐる大地と宇宙
主題は、「生と死をめぐる大地と宇宙」といっていいだろうか。それは海への巡礼によって明らかにされる。
私たちの時間の旅程は、いつか死の場所を求めなければならない。あるいはそこに至るためのルートを確かめなければならない。それは海への巡礼である。そして海への巡礼とは、死の淵へと赴きながら、めぐりめぐって生の世界へと還ってくることであり、宇宙のこの上ない広がりのうちに私たちをつなぎとめるような、広大な大地へと向かわせることでもある。
文化の古層に見え隠れするのは、有と無がひとつとなり、宇宙と大地がめぐりめぐって、大いなる道すじとなり、やがて生と死をつなぐという信仰である。そう考えるならば、巡礼とは、生老病死をかかえた人間存在を大地と宇宙につなぎ、聖なるものへと向かわせようとする試みである。
それでは、「文化の古層」とは何か。フランスのノルマンディーとブルターニュを例に挙げてみよう。