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『VIVANT』が描いた大きな愛 往時のテレビのあり方を彷彿とさせる視聴者参加型ドラマに

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日曜劇場『VIVANT』©︎TBS

 「考察隊の皆様に感謝!全ての伏線を回収いたします」という宣言とともに始まった『VIVANT』(TBS系)最終話は、前半で経済ドラマの実質、後半では家族愛のテーマが姿を現した。

 乃木(堺雅人)が別班の任務としてテントに潜入したことが発覚し、ベキ(役所広司)に殺されかかった前話。しかし、ベキが振り下ろした刀が乃木を誅することはなかった。ベキは乃木が重さをはかる能力で黒須(松坂桃李)の命を救ったことを知った。乃木はベキのモンタージュを見たジャミーン(Nandin-Erdene Khongorzul)の反応から、ベキに直接会う必要があると感じ、テントの実態を確かめるため、司令の櫻井(キムラ緑子)の了承を得て潜入作戦を決行した。その際、公安の野崎(阿部寛)に秘密のメッセージを示し、また位置情報と映像データを送ることで、撃たれた4人の救出に加えて、自身が任務のために潜入したことを知らせた。以上は第8話までで起きたことである。

 その上で、乃木の魂胆を知りつつ生かしておいたベキの判断は、テントの真の目的を共有することで別班の助力を得ることにあった。事実、乃木をノコル(二宮和也)の下につけ、フローライト採掘事業を任せることにした。テロや犯罪を行う代わりに地下資源を得ることは、ベキの悲願である孤児救済に直結する。そこに立ちはだかったのがバルカ政府だった。フローライトの埋蔵情報を入手して採掘権を譲るように迫ると、採掘事業の共同出資者であるゴビ(馬場徹)も巻き込んで、事業の決定権を掌握しようとする。外務大臣のワニズ(河内大和)は駐バルカ大使の西岡(檀れい)も同席した交渉の場で、恒久的にフローライトの権利を手にしたと勝ち誇った。

 会議の場の火花が散るような丁々発止と、権謀術数を駆使したどんでん返し、日曜劇場ならではの展開にカタルシスが凝縮されていた。第2話のワニズと西岡が交わしたバルカと日本の友好関係に関する会話は最終話につながっていた。資源獲得は古くて新しいテーマだ。地下資源に乏しい日本という国では文字通り死活問題であり、乃木が所属するような大手商事会社や省庁が、各国と交渉に当たって必要量を確保してきた努力を想起させられる。武力衝突や領土拡張と違う意味で、これも一つの戦争であると感じた。

 後半でベキが自身の身柄を差し出し、乃木とノコルに後を託す場面は、単なる任務に引き裂かれる家族ではない、父子の感情の往来があった。擬似家族だったテントが、乃木という血のつながった家族の登場によって解体に至る経緯には、必然性が感じられた。一方で、前提になっているのが日本という不特定多数の集団の利益であり、テントの最終標的が日本である理由も、誤解あるいは個人レベルの悪に収斂してしまうことにやや消化不良感があった。

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 ところどころベタな設定やセリフに陳腐さを感じることもあったが、それらのマイナス面も含めて物語のスケールと強度が凌駕しており、別班とテロリストを題材とする異色の作品に乗せる俳優陣の熱量が素晴らしかった。

 この3カ月、毎週放送を楽しみにしていたし、多くの人がそうだったと思う。多様な視聴形態や考察によって、多数の視聴者が本作に能動的に参加した様子は、往時のテレビのあり方を彷彿とさせた。最後に乃木と薫(二階堂ふみ)、ジャミーンが再会するシーンがあったが、大きな愛の話である『VIVANT』をもっとも身近な愛の形でしめくくったところに、本作もまた大切な誰かを思って作られた作品であると感じた。

(文=石河コウヘイ)

 
   

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