田房永子 | ママ枠入りしてから“武士”になってしまった
田房永子 | ママ枠入りしてから“武士”になってしまった
立派すぎる母の理想像への抵抗から、思ってもみなかった性生活まで、母親の実像をありありと綴った常識破りの育児マンガ『ママだって、人間』が注目を集めています。著者は、デビュー作『母がしんどい』で毒母との戦いを描いて話題になったマンガ家の田房永子さん。恥ずかしすぎる葛藤をユーモラスに描く筆力の陰には、田房さんの鋭い洞察力とたくましい妄想力がありました。前編は、母になってから急にテレビバラエティを楽しめなくなってしまった話など、思い切った母を描いた想いをじっくり伺いました。
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田房永子

『ママだって、人間』より

「子ども」の話ではなく、「ママ」の話が書きたかった

――『ママだって、人間』、とても楽しく拝読させていただきました。男性が読むと、「女性ってこういうふうに苦しかったり、大変だったりするんだなあ」、ということがよく理解できて、読めてよかったです。

田房永子 (以下、田房) ありがとうございます。

――今回この作品を書かれたのは、どういったことがきっかけだったのですか?

田房妊娠中、いろいろと違和感を感じる出来事があったんです。妊娠する前に聞いていたことと、実際に自分が妊娠したときに感じたことがまったく違ったんですよ。
 たとえば、作中でも書いたように、妊娠中に性欲が強くなったり、乳首の感度が高くなったりしたのですが、そんなことは聞いたことがなかったから、「なにこれ」と戸惑った(笑)。こんなことって、誰も発信していないので、漫画で描こうと思いました。

田房永子

――これまでの育児漫画よりも、「お母さん」に焦点が当たっている作品ですね。

田房そうですね。子どもの話じゃなくて、「お母さん」になった女性たちがどう感じたり、どう試行錯誤したりしたか、という話を書きたいなあ、と思って。
 さらに、妊娠してすぐに、急に社会の一員にされた感じがして、違和感を感じたことも大きなきっかけでした。

――「社会の一員」、ですか?

田房妄想話になってしまうんですけれども……

――はい(笑)。

田房社会が一つの大きなスタジアムだとするじゃないですか。そういうところに、「サラリーマン」「教育者」とか、そういった枠がいっぱいあって、みのもんたみたいな司会者が仕切ってるんですよ。で、みのもんたが、「みんなで討論!」って。

田房永子

――討論番組ですね(笑)。

田房そのうちの「ママ枠」に入った、って感じがすごくしたんです。逆に言えば、「今までスタジアムに入っていなかったんだ!」とも。

――「ママ枠」に入る前は、なんの枠に入っていたんでしょうか?

田房スタジアムの外の客席にいて、討論に参戦していない感じ。
 スタジアムの中では、サラリーマンなどのフルタイムの仕事を持っている人だとかが中心になっていてるんです。「女子高生」は、スタジアムの中にいるんです。社会から注目されているからかな。でも、20代くらいの女性はほっとかれちゃっていて。

――つまり、スタジアムの中からは存在を忘れられている、と。

田房そうそう、無視されてしまっている。20代で社会人だったけど私って実は、本当の意味では社会に参加させられてなかったんだ! ってすごく思いました。この場合の「社会に参加させられる」っていうのは、「こうあるべき」というイメージを背負うって意味でもあるんです。私は女子高生ブームの時に女子高生だったからか、当時は周りの大人たちから「女子高生は慎み深くいるべき」「でも最近の女子高生は援助交際もしてるんだろ」みたいに常に見張られている感じがありました。妊娠・出産してから、その「見張られている感じ」がまた始まった! って思ったんです。そうしてスタジアムの「ママ枠」に入ってからは、“武士”みたいになってしまいました。

――武士!?

田房そう、武士です(笑)。
 それまでは電車で普通にケータイをいじっていたはずなのに、なんとなく見れなくなっちゃって。お侍さんのように姿勢をピンと背筋を伸ばして座るようになっちゃったんです。

――ああ、武士道じゃないですけど、ママ道的なかんじですね。

田房やっぱり、妊娠中に外出したときに、妊婦の私が倒れたりなんかしたら危険だし、まわりの人もびっくりしますよね。だから、悪いなとは思いつつ、電車ではなるべく優先席に座っていたのですが、なぜか「みなさんに妊婦らしい姿を提供しなければ!」「優先席に優先して座らせていただいているんだから!」って思ってしまっていたんですよね。

――「みなさんのご期待を裏切れない」ってかんじでしょうか。

田房そうそう! こういったことをTwitterで発信してみたところ、共感の声がたくさん集まってきて。だから、これは私だけの話じゃなくて、多くのお母さんたちが感じていることだと思うんですよね。

「母の視点」もわかってほしい

――妊娠して母親になられて、感じた変化はありましたか?

田房ありますよ。激変したことは、大好きだったのに観れなくなってしまったテレビ番組ができたこと。

――そうなんですか!

田房生まれてから1週間、病院に入院してたんです。病室にはテレビがなかったから、帰宅して久しぶりにテレビを見た時、アイスクリームのCMを見てギョッとしました。アイドルがアイスの着ぐるみを着ていて、アイスがかじられるとアイドルの肌がだんだん露出される、というもの。「けがらわしいッ!」ってヒステリックな気持ちがあふれてきちゃって、そんな自分にビックリしました。
 他にもロリコンっぽいのとか、セクハラを茶化したり、容認するような、男性視点の番組やお笑いが観れなくなってしまいましたね。

――具体的にはどんな番組ですか?

田房『ロンドンハーツ』と、当時やっていた『おねだり!マスカット』。  毎週予約録画してたし、『おねだり!マスカット』は『恵比寿マスカッツ』のライブに行くほど好きだったのに、薄着でパンチラしてる大量の女の子たちが映っているだけで、画面すら見られなくなりました。なんか、体が勝手にムカムカしてくるんです。
 そのときハッと気づいたんですが、「教育に悪い」って言って、テレビ番組にクレームをを入れるおばさんっているじゃないですか。「あ、こういうことだ!」って思って。

――子どもが生まれて、その感覚がわかった、と。

田房そう、今まではわからなかったのに! 子どもがいないころや若かったころは、そういうおばさんがうっとうしかったんです。「楽しいんだから、いいじゃん。なんでそんなことで怒るの」って。
 でも、今ならわかるんだけど、子どもを守ることと、テレビへの拒絶反応が直結しちゃうんですよね。

――「守る」という視点に立つようになると、「耐えられなくなってしまう」んですね。。

田房それに、それまでは多分テレビの中に自分の居場所があったんですよ。水着の女の子がお笑い芸人に無茶ぶりされて笑いをとる『おねだり! マスカット』の映像に対して、私は水着の女の子たちが頑張る姿に自分を重ねて見てたんだと思います。だけど子供を産んだら、今度はその女の子たちに自分の娘を投影してしまうようになって、自分の居場所がなくなっちゃった。

――ママタレントはたくさんいますよね。

田房いるけど、あくまで「主婦として」「母として」「妻として」の位置なんですよね。家事・育児の悩みを持つママに共感はできても、それしかない。子供がいるいない関わらず、私の周りの30〜40代の女性でドラマ以外のテレビ見てる人、ほとんどいないですね。

――そうなんですか。

田房昔、「ものまね四天王」っていたの、わかります?

――フジテレビの『ものまね王座決定戦』で人気が出た、コロッケさんなどの実力派のモノマネ芸人たちですよね。

田房ものまね四天王の一人に清水アキラさん(※1)がいたんですが、正統派ものまねをする四天王の中で、清水さんは五木ひろしのものまねで無駄に腰をクイクイ振ったり、オナラや陰毛を題材にしたり、「くだらない」「下品」な芸風だったんですよ。審査員の淡谷のり子(※2)さんが、清水さんの芸のときだけ、淡谷さんが超冷めた顔になって、怒っちゃうんですよ(笑)。それを受けて、司会者たちが「淡谷先生!! 申し訳ありません!!」と駆けよるのがセットでネタになっていたんです。

※1 元ものまね芸人。ものまねと見せかけ、下ネタをねじこむ芸風で有名。 ※2 大御所女性歌手。日本のシャンソン界の先駆者。

――なるほど、おもしろいですねえ。

田房子供の私は、そんな淡谷のり子さんがうっとうしかったんです。笑うところなんだから、笑えばいいのにって。でも最近の私はテレビを観てると、あの淡谷のり子顔になっちゃうんですよ。

田房永子

――なるほど(笑)。

田房ママタレント以外の、熟女タレントって、発言や服装が奇抜な人か、お笑い芸人に「アリです」「ぜんぜんイケます」とか言われてまんざらでもない感じの可愛い熟女か、どっちかしかいない。「男のくだらなさ」にあからさまにウンザリするおばあちゃん、という淡谷のり子的立場の人が見当たらないんですよね。

――そうかもしれません。

田房今、テレビやマスメディアに、淡谷のり子的存在がいないことが不満なんです。それが、自分でコラムや漫画を書こう、というモチベーションにつながっているんだと思います。

『ママだって、人間』は「ドキュメント」である!

――『ママだって、人間』では、ちょっと恥ずかしくなってしまう性の話なども、客観的に書いていらっしゃるところが印象的でした。

田房コミックエッセイの形をとりつつも、中身はドキュメントに近いんだと思います。私はもともとドキュメントやノンフィクションが好きなせいか。

――見た目と内容とではギャップがあるとのことでしたが、「誤読されてしまったら……」との不安はありましたか?

田房ありました。特に、最初のころは性の話が多かったので、ここまで自分の体験をさらけ出したにもかかわらず、読者からなにも反応がなかったらどうしよう……って。
 でも、お陰様でかなりよい反響をいただき、自信につながりました。多くの読者の方々が、私が漫画を通して言いたかったことを受け取ってくれたように思います。

聞き手:中島洋一、構成:ケイヒル・エミ、写真:渡邊有紀

(更新日:2016年1月10日)

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