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『VIVANT』は“考察ドラマ”なのか? 視聴者を作品に“参加”させる3つの要素

Real Sound

『VIVANT』©︎TBS

 いよいよ9月17日に最終話を迎える『VIVANT』(TBS系)。機略と冒険、スリルが同居した新感覚エンターテインメントは、回を追うごとに反響を巻き起こしている。多くの視聴者が初めて耳にしたであろう自衛隊の非公認組織「別班」とテロ組織・テント、公安警察の三つ巴の抗争と、主人公の乃木憂助(堺雅人)を取り巻く人間模様に対して、さかんに考察が繰り広げられてきた。

 参考:【写真】縛り上げられた堺雅人と役所広司

 『VIVANT』の考察熱は高まる一方だ。放送直後からYouTubeやWebメディア、個人運営サイト、SNSで様々な見解が披露されている。また、番組公式がリアルタイム視聴を呼びかけ、ハッシュタグ投稿や撮影の裏話、伏線の種明かしを積極的に開示していることも拍車をかけている。

 考察ドラマそのもののような本作だが、製作側によるとこの盛り上がりは想定外で、当初は考察ドラマとして受け止められることを意図していなかったという(※)。それが、ここまでの過熱ぶりを招いたのは何が原因なのか。その要因として、ドラマ視聴における考察の定着と、視聴者の関心を持続する演出を挙げることができる。

 文学作品で読者同士が所感を述べて、意見交換することは古くから記録があるし、ミステリーや刑事もので犯人を当てたり、トリックの種明かしをすることは以前から行われていた。連続ドラマで独自の解釈を加えながら、伏線回収とストーリー展開を予想する考察のスタイルが一気に広がったのは、2019年4月から9月にかけて放送された『あなたの番です』(日本テレビ系)の影響が大きい。

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 田中圭と原田知世(第1章のみ)が主演を務めた同作は「毎週、死にます。」のコピーのもと、マンション住人間の交換殺人ゲームによって、誰もが犯人かつ被害者になりうる設定で、放送後に繰り広げられる考察がドラマ本編にも影響したとされる。視聴者は、作中の人物と同じ目線でドラマに“参加”できる。その手段が考察だった。

 作中のトリックにご都合主義的なほころびがあっても、それさえも考察の対象となり、エンタメとして消費される。それが可視化されたことで、後続の作品でも、積極的に考察を取り扱う動きが見られた。成功したと言い難いものもあるが、結果的に考察班と呼ばれる視聴者層を生み出し、繰り返し視聴による配信再生回数に寄与した事実は重要だ。

 考察に適したドラマの特徴を挙げるなら、「①伏線が散りばめられ情報量が多い、②展開が早く視聴者を裏切る要素がある、③動機が複雑あるいは人間関係が錯綜している」だろうか。詳細な設定とともに、巧みな展開やリアリティのある心理描写、過去作とのリンクが相乗効果を生み、作品の被分析性を高める。

 『VIVANT』はこれらの要素を兼ね備えている。主人公の乃木が別班の一員と判明するまでの正体を隠した誤送金事件の顛末だったり、別人格の存在や序盤からサブリミナル的に挿入された生き別れの父親との関係、主要人物でありながら裏がありそうな薫(二階堂ふみ)や新庄(竜星涼)など、情報をうまく出し入れすることで、常時、複数の可能性をちらつかせた。衣装や音楽を含めて、『スター・ウォーズ』シリーズ、『007』シリーズ、『ミッション:インポッシブル』シリーズなど過去の名作を想起させる遊び心もあった。

 原作・演出を務める福澤克雄監督は、こうした引きやフックのある画作り・演出が上手い。アップを効果的に使うカメラワークと相まって、日曜劇場における一連の作品で、普段ドラマを視聴しない層の関心を呼び起こすことに成功してきた。本作では複数の脚本家を起用する布陣で、エピソード相互間の連結が図られている。なかには伏線か、単なる思わせぶりな描写か判別がつかないものもあるが、それらも含めてミスリードや良い意味のあおりとして機能しており、考察の材料を提供している。

 ドラマが感情を描くことで人間を表現するものであるとして、国や家族という骨太なテーマを取り上げた『VIVANT』において、堺や阿部寛、役所広司らキャリアと実力を兼ね備えた主演級が交わす重厚な芝居は見応えがある。それに加えて映像とストーリーの両面で入念に練られた本作は、受動的な視聴にとどまらない分析の楽しさを提案するものだ。従来の日曜劇場の延長線上にありながら、考察カルチャーに適応した『VIVANT』は作品と視聴者の幸福な出会いを示している。

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