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『隠し砦の三悪人』『スター・ウォーズ』『砂の器』も? 『VIVANT』に散見する名作映画

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『VIVANT』©TBS

 かなり豪華なキャスト陣が明かされるのみで、ストーリーの詳細は伏せられたまま7月に放送がスタートしたTBS日曜劇場の『VIVANT』。大手総合商社に務める主人公の乃木(堺雅人)が、誤送金問題を解決するために異国の地へと渡り、そこで国際的な陰謀に巻き込まれてしまうという第1話。それを観た時に頭に浮かんだのは、1992年にテレビドラマと映画を渡り歩くようにして制作された『パ★テ★オ』(フジテレビ系)であり、長らく世界から遅れを取っていると言われ続けた日本のテレビドラマ界の意地のようなものがようやく身を結んだと感じることとなった。

参考:『VIVANT』“別班”に注目 市川笑三郎、平山祐介、西山潤、珠城りょうが新たなメンバーに

 自爆テロに巻き込まれそうになる間一髪のところで公安の野崎(阿部寛)に救われ、医師の薫(二階堂ふみ)と共に地元警察から追われることになる乃木。テレビ画面で観るにはいささか贅沢すぎる画面で潤沢な予算があることが存分にアピールされ、これまでの福澤克雄ドラマの代名詞ともいえる演者の顔面圧を駆使するのとは異なる方法でダイナミックな展開へと引き込んでくれるのだから、ドラマとして楽しむ上でも申し分がない。

 そもそも異国の地で窮地へと追い込まれた登場人物たちが、安全圏へと逃げ込むまでを描くという第1話のプロットは、近年でもいくつかの映画で見受けられた、傑作サスペンスの常套といえよう。安心感と不安感が両立した異国情緒のなかを駆け抜け、味方と敵がはっきりと区分され、強靭な敵をかいくぐることでタイムリミットサスペンスのような緊張感が加味されていく。例えば国境を越えて隣国へと避難を図るジョン・エリック・ドゥードルの『クーデター』や、外交官たちが自国の大使館を目指すリュ・スンワンの『モガディシュ 脱出までの14日間』などがわかりやすい。

 そういったシチュエーション的なデジャビュのみならず、このドラマには過去のあらゆる映画に対するオマージュとも取れる描写が散見されている。第1話の冒頭シーンからすでに、ジョージ・ルーカスの名作『スター・ウォーズ』とそれの原点とも言われている黒澤明の『隠し砦の三悪人』を彷彿とさせ、終盤に装甲車をあつらえて敵中突破していく姿はクリント・イーストウッドの『ガントレット』のクライマックスそのもの。

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 第2話以降でも、死の砂漠と呼ばれるモンゴル国境へと続く広大な砂漠をラクダに乗って闊歩して、道中で仲間のひとりがいなくなってしまうくだりはデヴィッド・リーンの『アラビアのロレンス』であり、第4話ラストで山本(迫田孝也)が粛清される様はフランシス・フォード・コッポラの『ゴッドファーザーPART III』におけるカインジックを思わせる。また、幼少期のトラウマが理由となって対話のできる別人格を有している乃木の一連は、ブライアン・デ・パルマの『レイジング・ケイン』などの多重人格を題材としたスリラーに通じているものだ。

 なによりも、タイトルにもなっている“VIVANT”とはなにかという模索のなかで、それが自衛隊の秘密部隊である“別班”のモンゴル語訛りであるというドラマの根幹を成すミステリー自体が、幾度も映像化されてきた松本清張の『砂の器』であり、第5話で乃木の生い立ちを追って島根県へたどり着くあたりもそれを意識したものであろう。考えてみれば福澤克雄は2004年のTBSドラマ版『砂の器』を手掛けており、監督を務めた映画『祈りの幕が下りる時』でもそのオマージュを盛り込んでいるのだからまったく不思議ではない。

 そんな福澤は第1話放送前に公開されたインタビューで『スター・ウォーズ』シリーズの大ファンであることをあえて公言している。前述の『隠し砦の三悪人』的な冒頭シーンもさることながら、役所広司が演じる第1話のラストで登場した男の正体が、乃木の生き別れた父親であり、“別班”や公安が追っている国際的なテロ組織“テント”のリーダーであると判明した以上、乃木がルーク・スカイウォーカーで父であるノゴーン・ベキはアナキン・スカイウォーカーというわけだろう。そうなれば阿部寛の野崎はハン・ソロということか。

(文=久保田和馬)

 
   

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