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嵯峨景子の『今月の一冊』|第十二回は『バンギャルちゃんの老後』|「こわくない老後計画」とは

ホンシェルジュ

少女小説研究家の第一人者、嵯峨景子先生に、その月気になった本を紹介していただく『今月の一冊』。第12回目となる4月号はホーム社から2023年3月に刊行された『バンギャルちゃんの老後 オタクのための(こわくない!)老後計画を考えてみた』をお届けします。介護や老後という重くなりがちなテーマをユーモラスに語る本書の魅力を紹介していただきました。

「嵯峨景子の今月の一冊」も第12回目を迎えました。今月は藤谷千明・蟹めんま/監修LIFULL介護『バンギャルちゃんの老後 オタクのための(こわくない!)老後計画を考えてみた』(集英社)をご紹介します。

著者[“藤谷 千明”, “蟹 めんま”, “LIFULL 介護”] 出版日

 43歳の私にとって、ここ数年で「老後」と「介護」が切実なテーマになりました。40代に入った頃から真剣に考えはじめたのが老後資金についてです。フリーランスゆえに年金額は少なく、自分でなんとかするしかない。そのために「つみたてNisa」や「iDeco」などの投資を始め、家計簿をつけて自分の支出状況を把握するなど、一年ほどかけてお金まわりを整えていきました。

そんな矢先に、父のがんが発覚します。その後3年弱の闘病を経て、父は2022年11月に亡くなりました。この出来事を通じて親の介護や看取り、そして老後についていろいろと考えさせられました。母の方は現時点では元気なものの、加齢とともにどんどんと弱っていくことは間違いないので、そう遠くないうちに親の介護問題と向き合わなければいけないでしょう。

介護についての知識は全くなく、いろいろなことを考えると不安だけが残ります。そんな時に目についたのが、『バンギャルちゃんの老後』でした。タイトルにあるバンギャルとは、ヴィジュアル系バンドファンの総称のこと。ちなみに私はPlastic TreeというV系バンドのライブに通っていた元バンギャルです(今もプラは好きですがライフスタイルの変化で全然現場に足を運べていません……)。自分になじみのあるジャンルを切り口に、介護や老後問題について幅広く触れてくれる『バンギャルちゃんの老後』は、介護問題初心者にぴったりなのではないか。そう思い購入して読んでみたところ、楽しくかつ学びの多い一冊で、心の中が少し軽くなりました。

本書の著者もバンギャルです。藤谷千明はサブカルチャーを中心に活躍するライターで、オタク女子4人のルームシェア生活を描いた『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』などの著作があります。蟹めんまはバンギャル歴20年以上の漫画家・イラストレーターで、コミックエッセイ『バンギャルちゃんの日常』などが人気を集めています。そんなバンギャルふたりが介護業界をガチ取材した『バンギャルちゃんの老後』。本書は日本最大級の老人ホーム検索サービス「LIFULL」が運営する介護系ウェブメディア「tayorini」の連載を元にしており、しっかり監修されているのも好印象です。

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本書の出発点となっているのは、「バンギャル同士で老人ホームを作って暮らすことは実現可能なのか」という疑問。そのために、老人ホームの専門家や、高齢者住宅を中心にした福祉のまちづくりを進めてきた先駆者たちの話を聞きに出かけます。このパートでとりわけ印象に残ったのは、那須高原で町づくりを進める近山恵子のお話でした。高齢者のためだけではなく、「生き方の近い人」と暮らすための場所づくりを進める姿と、これまでの経験から生み出される金言の数々にははっとさせられました。

自分が「一緒に住みたい」と思った人が「家族」じゃない?

という言葉も忘れられません。自分らしく生きるためにはどうすればよいのか、たくさんヒントをもらえるインタビューです。

他にも介護資格を取った体験談や、介護の現場で働く人たちの座談会、地域包括センターのことや、老後と仕事と趣味をテーマにしたインタビュー、エンディングノートについてなど、老後と介護にまつわるさまざまなトピックが取り上げられています。私はこの本を読んで、高齢者のよろづ相談所である「地域包括センター※」なる存在を知りました。小さな困りごとの段階で相談に来てもらえる方がありがたいとのことなので、何かあった時に頼ろうと思います。こういう情報を知ることができたのも、個人的な収穫でした。また本書で紹介されていたコクヨのエンディングノートも、今度買ってみようと思います。父の時はエンディングノートこそなかったものの、銀行をはじめ各種サービスのパスワード一覧があったおかげでかなり助かりました。この経験があるので、エンディングノートは早めに準備しておきたいところです。

※【はじめての方へ】地域包括支援センターとは?その役割と賢い活用法

介護や老後と取り扱っているテーマは重いですが、随所にV系の小ネタがちりばめた『バンギャルちゃんの老後』はどこまでもユーモラスです。バンギャルに限らず、趣味に打ち込んでいる人やオタクは共感するポイントがたくさんあると思います。老後を意識し始めた人にも、老後なんてまだ先のことだと思っている人にもお勧めしたい、介護と老後の入門書でした。私も今は既婚者だけど、人生は何があるかわかりません。老後は友人と暮らすのもよいなあと思いながら、明るい老後に向けて少しずつ模索を続けていくつもりです。

著者[“藤谷 千明”, “蟹 めんま”, “LIFULL 介護”] 出版日
 
   

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