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MLBはスーパー過保護? 大谷翔平のDL入りに思う/石田雄太の閃球眼

週刊ベースボールONLINE


2008年、レッドソックス2年目の松坂大輔

 掘っ立て小屋のような佇まいの小さなお店は、ハイリスク、ハイリターンだ。リスクを覚悟の上で扉を開け、そこで予想を超えた美味いものにありつけたりすると、妙に勝ち誇った気分になる。別に客が何の勝負に勝ったわけでもないのだが、「ここには美味いものの匂いが漂っていた」などと取ってつけた理屈を振りかざして自己満足に浸ることができる。

 そういう場合、だいたいは小さな店を一人で切り盛りしてきたこだわりの店主が、とんでもない職人芸の持ち主だったりする。人気があるからと店舗を拡大することなく、身の丈に合った商売をしているから、いつまでも店は掘っ立て小屋のままなのだ。それでも店の外観には似つかわしくないゴージャスな味は、客を虜にする。

 思い浮かぶだけでも、そういう店はいくつもある。沖縄のそば屋、宮崎の焼鳥屋、札幌の洋食店、岩手のラーメン屋、金沢のステーキ屋、川崎のカレー専門店……つい最近、足を運んだシアトルのハンバーガーの店もそうだった。

 空港のそばの殺風景なあたりにその店はあった。ボブズ・バーガーという名前の店は、筋金入りの掘っ立て小屋だった。店の中にいたボブは、オーダーを受けるとやおらハンバーグのタネをパンパンと手で締め始めた。

 おいおい、そこからか、と驚かされたが、そこからやるから美味いのかもしれない。何度も手でパンパン締めて、ジューっと焼く。少し甘めのバンズにレタス、トマト、ピクルスと、焼き上がったばかりのハンバーグを挟んだら、ボブズ・バーガーのできあがり。両手でハンバーガーをつかんでかぶりつくと……美味い。

 ハイリスクを乗り越えた先にはハイリターンがあった。やはりハンバーグを作るときというのはパンパンと空気を抜く、この肉を締めるひと手間が大事なのだろう。そんなことを考えていたら、ふと、ある言葉を思い出した。それが、松坂大輔がよく口にする「肩を締める」という表現だ(笑)。松坂は調整について語るとき、もっと肩を締めたいとか、どうも思うように肩が締まってこないとか、そう言って状態を説明しようとする。正直、書き手としてはどこまで理解できているのか自信が持てないニュアンスの言葉だが、アスリートが感覚を言葉に変換するときには往々にしてあることだ。思い出すのは、松坂がメジャー2年目の2008年5月末のことだ。

 右肩の違和感を訴えて降板した松坂は、このまま投げ続けると痛みが生じてしまうことを経験的に感じ取った。そこで無理をせず、ローテーションを一回飛ばすくらいで元のように投げられるだろうと考えて、自ら降板を申し出た。しかし、松坂に多額な投資をしている球団は、松坂の自己申告をあてにせず、変調を来すには理由があるはずだと、その医学的根拠を探すことに血眼になった。

 結果、その根拠は見つからなかったのに、松坂は故障者リストに入れられた。球団からはしばらくの間、ボールを握ることを許されなかった。そのとき、松坂は悔しそうにこう言っていた。

「せっかくスプリングトレーニングからいい感じで肩を締めてきたのに、またゼロからやり直しです」

 投げることで肩を締める。程よくハリが出てきたところで少し休ませて、また締める。その繰り返しでシーズンを乗り越えてきた松坂にとって、慎重を期す球団の方針は有難迷惑以外の何物でもなかった。肩を締めている過程でのノースローは、逆に「肩が緩んでしまう怖さがある」(松坂)のだという。財産である選手を潰すわけにはいかないと慎重になる球団の考え方もわからなくはないが、長年にわたる選手の調整法、個々の感覚も大事なのではないかと思ったりもする。

 今回の大谷翔平のDL入りも似たような経緯を辿っている。マメができて降板した大谷に、抜け球が多かったことを気にした球団が既往歴のある右ヒジの検査を受けさせ、靭帯の断裂を見つけた。それがグレード2で、靭帯は再生しないという医学的根拠をもとに、「いずれするなら一刻も早く」といった、まるで“手術待望論”がごとき報道が飛び交った。しかし大谷に自覚症状はなく、それこそハリがあるから一回、ローテーションを飛ばすくらいで十分、投げられたのに、という思いだった。慎重を期した球団が、大谷のDL入り、再検査という安全策を選んだことについて、大谷は「スーパー過保護ですよ」と言って、苦笑いを浮かべていた。

 シアトルの掘っ立て小屋でボブのハンバーガーを食べながら、松坂や大谷の言葉に思いを馳せる、そんな野球記者の独り言――。

文=石田雄太 写真=GettyImages

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