「言葉足らずな凪と素直になれない玲王を見ていると、『言えばいいのに……』と思ってしまいます(笑)」

『劇場版 ブルーロック -EPISODE 凪-』(2024年4月19日公開)で御影玲王を演じる声優の内田雄馬さん。今作の主人公・凪 誠士郎と自身が演じる御影玲王について、柔らかく微笑みながらこう話します。

2022年10月から2023年3月にかけて放送され、大ヒットとなったTVアニメ『ブルーロック』。“ブルーロック(青い監獄)”へ集められた300人の高校生たちが、世界一のエゴイストストライカーを目指すため、自身のサッカー生命とゴールをかけて挑むというデスゲームのような作風と、個性豊かなキャラクターたちが注目を集め、TVアニメ放送終了時には第2期と『劇場版ブルーロック -EPISODE 凪-(以下、EPISODE 凪)』の制作が決定。

そんな『ブルーロック』の1番の沼ポイントを「人間関係」と話す内田さん。そこで人間関係の中でも『EPISODE 凪』でスポットが当たっている凪と玲王の関係性について、演じている側ならではの視点でお話しいただきました。

また、「人当たりが良く華やかに見えますが、実は“未熟な男”」という玲王の人間性、「あまり難しく考えず、素直に玲王の言葉を落とし込んだ」という玲王を演じる上で意識したことなど、内田さんの玲王に対する解像度の高さに驚かされたインタビューをお届けします。

『ブルーロック』の沼ポイントは“人間関係”「どのキャラの心情をたどってもおもしろい」

――はじめに、内田さんが『ブルーロック』で「ここが沼だな……」と感じるポイントから教えてください。

内田雄馬(以下、内田):

『ブルーロック』の1番の沼ポイントは、“キャラクター同士の人間関係”ですね。

もちろん動きが激しく描かれているサッカー描写はすごくカッコよく、目で見ているだけでも楽しい作品だと思います。ただそれ以上に、各キャラクターの個性、人間性がとても細かく描かれており、その中でも人間ドラマがすごく濃いんですよ。

特に、凪 誠士郎を主役にした『EPISODE 凪』は、その人間性の細かさや人間ドラマがより濃く描かれています。劇場作品になってしまうほど、一人ひとりのキャラクターのバックボーンや各々の関係性にかなり深さがある。どのキャラクターの心情をたどっていってもおもしろいところが『ブルーロック』の魅力であり、沼であると感じています。

――内田さん演じる御影玲王は、資産7000憶円を超える御影コーポレーションの御曹司で頭脳明晰・運動神経抜群なキャラクターです。演じている中で、玲王に対しどんな人間性を感じていましたか?

内田:

うーん……人当たりが良く華やかに見えますが、実は“未熟な男”ですかね。あまり良い言葉ではないかもしれませんが……。

――未熟な男?

内田:

しっかりとした教育を受けていて知識も技術も手に入れているから、ある程度何事も器用にこなせてしまう。小器用で打算的。物事は自分の思い通りになると思い込んでいる、未熟な性格だと感じています。

上手く立ち回れるから、ほかの同級生たちと比べて大人っぽく見えますけど、心はまだまだ成長しきれていないんですよ。

彼の「最強だな、俺」「凪と一緒ならなんでもできるような気がする」という部分って、どんな人にも10代の頃にあったと思うのですが。

――「根拠のない自信」のようなものですよね。

内田:

そうです。根拠のない自信って若い頃はみんなあると思うのですが、生まれた時からあらかじめ決められたレールが引かれていた玲王の場合は自信に根拠があったと思うんですよね。大企業を経営する両親がいて、帝王学を学んできて、欲しいものは何でも得たり与えられたりして……そうなると、おそらく人より失敗や挫折の経験は少ないだろうなと。

でも人間って、失敗や挫折で心が折れて、はじめて成長や変化ができる生き物だと思うんです。「次は失敗しないようにどうすればいいか」と考えることが成長や変化のきっかけだったりするので。

今まで失敗や挫折の経験がなかった玲王が、“ブルーロック(青い監獄)”という世界に入り、バキっと心を折られて、未熟さが浮き上がっていく。その経験を経て、ちょっとずつ成長・変化する様は「頑張れ」と思うし、多くの人は自分自身に重ねて共感できる部分なんじゃないかなと。それが『ブルーロック』のすごくおもしろいところだと思います。

(広告の後にも続きます)

「玲王にとって凪はW杯優勝のための“アイテム”ではなく、“友達”として重要な存在」

――内田さんの玲王に対する解像度が高すぎると感じるのですが、アフレコ前やアフレコ中に原作者の金城宗幸先生とお話をすることはあったのでしょうか。

内田:

実は直接お話したことはほとんどないんですよ。収録前にリモートでご挨拶させてもらったくらいで。本当にこの解釈で合っているかは、実は不安です。合っているといいのですが……(苦笑)。

自分なりに玲王の心情を読み取って、解釈して、監督や音響監督をはじめとしたスタッフの皆さんからディレクションを受けて調整しながらお芝居をしていった感じです。

――では、内田さん自身が玲王を演じる上で意識していたことをお聞かせください。

内田:

僕は玲王のことを「難しい人ではない」と思っているんですね。いろんな知識があるから小器用になってしまう反面、その知識が本来すべき失敗や挫折の邪魔をしている。それが先ほどお話しした“未熟さ”に繋がってくると思うのですが……。彼の性格がキツく見えたり、マイナスに見えたりするのも、悪意があるわけでもなければ傲慢さに快感を覚えているわけでもなくて。単純に未熟さゆえなんですよね。

そういう側面を見ると、玲王は単純な思考の中で生きているような気がするんです。なので、あまり難しく考えず、素直に玲王の言っている言葉を自分の中に落とし込む感覚でアフレコに臨んでいました。特に『EPISODE 凪』では、「そういう側面が少しずつ紐解かれていっているな……」と感じながら演じていましたね。

――『EPISODE 凪』では、二次セレクション前に凪が潔と蜂楽とチームを組むことを選択した時の玲王の心境がモノローグになって描かれています。「実はそんなことを思っていたんだ」と思わずウルっときてしまいました。

内田:

モノローグ=自分の精神世界なので、本当の自分らしさが見えるような気がしています。あのシーンで分かるのは、ワールドカップで優勝するという目標はもちろんあるけど、1番は凪と優勝したいんだろうな……ということ。玲王にとって凪 誠士郎はワールドカップで優勝するための“アイテム”ではなく、“友達”として重要な存在なんですよね。

だから本来は、自分以外の人が影響していたとしても凪がサッカーを楽しんでくれて嬉しいし、同時にやっぱり凪と一緒にいたいというのが玲王の本音なのだろうと思っています。ただ、その気持ちに素直になれなかったから「お前はお前で頑張ってこい!」と上手く伝えられなかった。背中を押せなかったのだろうなと。

――思っていることを素直に伝えていたら、ここまで拗れなかっただろうに……と思いますよね。

内田:

そうですよね。彼らより大人だから、言葉1つで解決できることもあるって知っているじゃないですか。「その場で言えたらな……」と思ってしまいますよね(笑)。

玲王は凪と一緒にサッカーをしたいのに、拗ねて「勝手にしろよ」と言っちゃう。「なんでそっちに行くんだよ」とその瞬間の寂しさを言えばいいし、「お互い頑張ってまた会おう」と背中を押せたらよかったのに言えないんですよね。

お互いにちゃんとコミュニケーションを取っていたら上手く事が進んだかもしれない。玲王が何を感じてその言葉を発したか、行動を取っていたのかが『EPISODE 凪』には描かれているからこそ、余計に「言えばいいのに!!」と(笑)。

凪も凪で玲王との約束を忘れずに、約束のために進んでいるのに言葉が足りない。それですれ違いが起きてしまっている。そういう2人を見ているとすごく歯がゆさを感じてしまいます。

――凪も玲王もお互いに未熟だからこそのすれ違いなわけですね……。

内田:

そうなんですよね。とはいえ、ブルーロックで初めて失敗や挫折を経験したことで、弱い自分も認められるようになったり、素直になれなかった心が少しずつ開いていったりと、いろんな変化があるのではないかと思っています。

玲王はここからもっと成長できるはず。今まで得てきた知識でつくられた見せかけの玲王ではなく、自分の気持ちに正直になって本来の玲王が顔を出してきたら、もっと成長すると思いますし、僕自身もこの経験から玲王に変わっていってほしいなという気持ちがあります。