大人…成長して一人前になった人(デジタル大辞泉)

「“大人”って何だろう」一度は思ったこと、ありませんか?

お金が稼げるようになったら、自由に時間が使えるようになったら、気遣いができるようになったら ……それはもう“大人”なのでしょうか。

「大人になるとさまざまなことが出来るようになる一方、たくさんの制限が付きまとう」「ポジティブなことも、ネガティブなこともある」こう話すのは、声優の榊原優希さんと大塚剛央さん

(左から)大塚剛央さん、榊原優希さん

ふたりは迷宮のように変化する炭鉱の町“箱庭”で“地図屋”として生きる主人公・カガリ(CV:佐倉綾音)と風変わりな町の人々との営みが描かれる劇場アニメ『クラメルカガリ』(2024年4月12日公開)に出演しています。

榊原さん演じるユウヤはカガリと同じく地図屋を生業とし、“もっと日の当たる場所”で立身を夢見る少年。一方、大塚さん演じる伊勢屋は“箱庭”の底で貸本業を営む、飄々とした情報屋。“大人になりたい少年”のユウヤと、“余裕ある大人”の伊勢屋、対照的なキャラクターをふたりは演じています。

大塚さん演じる伊勢屋に「たまらない」と話す榊原さん、榊原さん演じるユウヤに「リアリティがある」と話す大塚さん。本作でのお互いのお芝居の印象と共に、監督・塚原重義さんとコミュニケーションを重ねながら構築していった「誇張しすぎない声の芝居」について話を聞きました。

また、子どもと大人というキャラクターの関係性にちなみ、ふたりが「肉体的な面での老い」で大人を感じる瞬間「まだまだ子どもだな」と感じる瞬間、「大人は他人に求めるもの」「周りも自分も理解しながら物事に取り組めること」という榊原さん&大塚さんのふたりが思う、“大人”の定義をお話しいただきました。

大塚演じる伊勢屋に「絶対に強キャラだ!」、榊原演じるユウヤに「こういう少年いるよね」

――まず、おふたりが感じる作品の推しポイントについてお聞きしたいです。

大塚剛央(以下、大塚):

いろんなポイントがあるのですが、中でも印象に残っているのが「音楽の魅力」です。アフレコをした時、映像に仮の効果音などはところどころ入っていたのですが、音楽はまだついていなかったんです。そのため、完成品を観た時にだいぶ印象が変わったところがあり、驚かされました。切羽詰まっている状況でも音楽が楽しげでテンポ感が小気味良いので、そういうところがすごく楽しいなと。

また、すごく作り込まれた世界観なので、専門的な用語がたくさん出てきますが、観ているうちに『クラメルカガリ』の世界にいるような感覚になるんです。そのため、1時間くらいの尺があるのですが「あっという間だったな」と思いました。

榊原優希(以下、榊原):

僕も『クラメルカガリ』にはいろんな推しポイントを感じますが……イチオシは「世界観」ですね。独特の絵柄、ちょっと懐かしくも癒されるようなタッチとそこにマッチした街の風景、キャラクターたちの服装、そしてメカたち!

全てが『クラメルカガリ』の世界観を演出しているのですが、その中でも登場するメカや小道具たちの造形にすごくテンションが上がりました。 僕はそういう“メカメカしい”ものが好きなので、グッとくるというか「うわっ可愛い! プシュプシュ動いてる!」となりました(笑)。

そして、その中に登場するキャラの濃さ。 それぞれのキャラの年齢や状況によって見えているもの、逆に見えなくなっているものがあり、「この街で彼らはこんなことを考えながら生きてるんだなぁ……」と思いました。

また、「みんな声がいいな!」なんて思いながら観ていました! 自分も演じる側なのに観る側で発言していますけど(笑)。観る側としては、 演じる皆様方のものすごく絶妙な表現……決して誇張していないのに、各々のキャラクターが持つ信念のようなものがスッと心に入ってくるような、そんな演技をされていて。初めて見た時にはテンションが上がりました。

――ちなみに、伊勢屋役の大塚さんのお芝居はどう思われましたか?

榊原:

いや、たまらないです。「似合うなー!」って思いました。

大塚:

(笑)。

榊原:

僕が今まで大塚さんと関わってきた作品だと、演じているキャラクターの“落ち着いているところ”は変わりませんが、どちらかというともっと真面目というか不器用な印象の強いキャラクターを演じられているイメージがあったんです。

大塚:

(頷きながら)うんうん。

榊原:

だけど、今回大塚さんが演じた伊勢屋さんは、ちょっと軽薄な感じがして。「絶対に強キャラだ!」という雰囲気が覗くんですよ。そういうお芝居がとても絶妙で素敵です。この溢れ出る余裕から、大人の魅力を感じました。

――大塚さんは、榊原さんのお芝居についてどのような印象を持たれましたか?

大塚:

そうですね……。

榊原:

えっ! 本当ですか!?

大塚:

まだ何も言ってないからね? 言うのやめようかな……(笑)。

榊原:

ええ!(笑)

大塚:

(笑)。基本的にアフレコの時は1人で録っていたのですが、物語後半のシーンは榊原くんと一緒に録れたんです。その時の印象もですし、実際に完成した映像を見た時の印象もですが、榊原くん演じるユウヤくんは「こういう少年いるよね」と思いました。

先ほど榊原くんが言っていたように、誇張し過ぎていないというか……この世界に馴染むお芝居で、たぶんユウヤくんの中では「自分、ちょっと大人だ」と思っているんだけれど、実は全然そうじゃなくて。そういう「青さ」みたいなところを引き出すのが絶妙だなと思いましたね。昔の自分を投影して共感する人も多いんじゃないかなと思うほど、リアリティがあったと思います。

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「伊勢屋にすごくピッタリ」「ユウヤくんはヒロインだから」記憶に残る監督の一言

――「誇張しすぎない芝居」は、演じる上でこだわられたポイントだったのでしょうか。それとも自然とそういうお芝居になったのでしょうか。

榊原:

オーディション前に作品の設定資料を見た段階で、「この空気感や絵柄は誇張しすぎない方がいいやつだ」という感覚があって。オーディション用のデータでもそれを重視し、「録ってみたはいいけどちょっとやりすぎたな……」と思ったお芝居は録り直しました。

大塚:

かなり出来上がっている映像を見ながらアフレコをしたんですね。『クラメルカガリ』の世界観が持つ空気がすごく伝わってきたので、感覚的にですが「世界観に馴染むように」と思って演じていました。

あと、最初にいただいた台本のセリフが変更になることもあって。例えば、伊勢屋は「江戸っ子っぽい口調のほうがいいんじゃない?」とか。そういう面白いセリフ回しのところで世界観に馴染めたらいいのかなと考えて演じましたね。(塚原重義)監督のビジョンが明確だったので、何かあっても軌道修正してくださるのがありがたかったです。

――アフレコも、塚原監督とコミュニケーションを重ねて録っていたということでしょうか。

大塚:

都度コミュニケーションを取って収録していたと思います。

まずアフレコが始まる前に「映像と台本を見てどう思いましたか?」みたいなことを言われたんですよ。「試されている!」と思ったりもしたのですが(笑)、自分の考える伊勢屋の作品におけるポジションや印象をお伝えしました。

僕も(榊原くんと一緒で)オーディションを受けて起用していただいたのですが、「オーディションの時から伊勢屋にすごくピッタリでした」と言っていただいて。「そう言っていただけるなら、自信を持って自分が準備した芝居をやってみよう」と思いました。そこから都度「ユウヤくんを煽ってみようかな」とか、試行錯誤しました(笑)。

榊原:

大人の余裕を見せつけてくるんです…… いい男ムーブをしてくるんですよ……!(笑)

大塚:

ふふふ(笑)。

――榊原さんも「塚原監督に試されているな……」と思ったことはありましたか?

榊原:

「映像と台本を見てどう思った?」なんて聞かれたかな……すごく記憶に残っているのは塚原監督に「ユウヤくんはヒロインでしょ。可愛いでしょ」と言われたこと。「そうですね!」と言いながらアフレコに臨みました(笑)。

試されたかは別としても、塚原監督とお話をしながら録ることができました。だからこそ、『クラメルカガリ』の世界に入り込んでアフレコができたと思います。

また、監督だけでなくアフレコの時に佐倉(綾音)さん演じるカガリちゃんの声を聞けたのも良かったです。自然と心に染み渡ってくるような絵の質感と佐倉さんのお芝居にかなり引っ張られると言いますか……自然と『クラメルカガリ』の世界やユウヤくんの芝居へスッと入れたような感覚がありました。

『クラメルカガリ』カガリ(演:佐倉綾音)

――現在公開中の『クラメルカガリ』で、そんなご自身の演じるキャラクターの注目してほしいポイントをお聞かせください。

榊原:

ユウヤくんは本当に子どもなんです。もしかしたら1番子どもなのは、ユウヤくんかもしれない(笑)。だけど、ユウヤくんは「もう自分は大人なんだ」「大人だからもっとこうしたい、大人だからもっとこうなりたい」と思っているんですよね。

『クラメルカガリ』ユウヤ

とはいえ、まだまだ子どもな部分があることに、ユウヤくん自身もうっすら気付いている節がある。だからこそ、大人で余裕ぶっている伊勢屋さんに対して「ああん!?」とジェラシーのようなものを感じたり、カガリちゃんの前でカッコつけたかったりするんです。

ユウヤくんを通して、誰もが通ったことのある子どもから大人への成長期が描かれていると思います。なのでぜひ、「こんなこともあったな」なんて思いながら、ユウヤくんに少し感情移入して観ていただけたら嬉しいなと思います。

大塚:

伊勢屋は自由で不思議なキャラクターなので、観る方によって印象が変わると思います。1回観ただけでは伊勢屋の伝えたいことの意図が汲み取れないというか……ひょうひょうとしているから掴みづらいんですよね。演じている僕自身も、伊勢屋のことを全部掴めているのかは分からないくらい不思議なキャラです。

『クラメルカガリ』伊勢屋

彼の発する言葉はすべて意図を持って録ったセリフなので、その意図を一つひとつ理解しようと思いながら観てもらえると、皆さんの中で伊勢屋の見方が変わってくるかもしれません。だからこそ、何度も観てほしい。伊勢屋だけでなく『クラメルカガリ』は世界観を含めて、何度観ても楽しい作品だと思います。